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第25回大会

2019 年 12 月 1 日 コメントはありません

第25回大会 2019年(令和元年)8月24日 参加校24校

タイトルおよび発表内容要旨 (上位入賞者を除き発表者氏名50音順) ※氏名・所属・学年は発表当時

優勝/日本代表 – 基礎部門 第1位:前川原 思惟子, 広島大学歯学部, 5年生

Porphyromonas gingivalis(P.g.)-fimA type2とtype4 血清抗体価の上昇は歯周炎の関連する早産のマーカーとなる
Porphyromonas gingivalis (P.g.)-fimA (Type2 and Type4) Serum Antibody Titer is a Possible Marker for Preterm Birth Associated with Periodontitis

歯周炎による早産の発症メカニズムについては不明な点が多く、歯周炎による早産を予測/診断する マーカーも確立されていない。私の研究室では、P.g. 歯性感染早産モデルマウスを用い、P.g. が胎盤に移行・感染し、早産を誘導すること、その際、P.g. の血清抗体価の上昇がみられることを報告した。そこで、私は P.g. 血清抗体価が歯周炎の重症度と関連し、歯周炎関連早産のマーカーとなることを明らかにする目的で、当大学病院を受診した妊婦157名(早産48例;平均年齢32.8歳、正期産109例; 平均年齢33歳)の血清を用い、P.g. -fim A タイプ別血清抗体価と歯周病の重症度(PESA/PISA)や早産との関係を調べた。type2-type4血清抗体価高値群ではPESA/PISAの値が有意に高く、歯周炎の重症 度と相関していた。Type2とType4の血清抗体価は早産発生率との関連性が認められ(Type2;Odds 比3.04, CI:1.33-6.81、Type4;Odds比3.83, CI:1.42-10.29)、歯周炎関連早産のマーカーとなることが明らかとなった。特に、P.g. -fimA type4は、妊婦胎盤に移行・感染していることが確認できた。妊婦検診時の血液検査でP.g. 血清抗体価の測定を行い、type2とtype4の血清抗体価が高い妊婦には、歯周炎関連早産を予防するために口腔診査と歯周治療を行う必要があると考える。

準優勝 – 臨床部門 第1位:山崎 弘瑛, 九州歯科大学, 3年生

Evidence-Practice Gapに関する国際比較研究
International Comparison of the Evidence-Practice Gap

臨床研究で質の高いエビデンスが得られてもそれが診療現場で適切に実施されず、研究と診療の間にギャップが存在していることを、Evidence-Practice Gap(以下、EPG)と呼ぶ。今回我々は、1)日本の歯科診療におけるEPGを評価すること、2)米国の先行研究と比較し、日本の特徴的なEPGを特定すること、3)EPGと関連する要因を明らかにすることを目的としてウェブを用いた質問票調査を行い、日本の歯科医師297人中206人から回答を得た。EPGを測定する質問票は計10問で「う蝕」、「深在性 う蝕」および「修復処置」の診断と治療に関する内容で構成されている。主要アウトカムは、「エビデンス と実際の診療との一致率(以下、一致率)」とした。全10問での一致率は60.3%であった。日米国際 比較より、「カリエスリスク評価」、拡大鏡の使用」、「セメント質・象牙質辺縁のコンポジットレジン 修復」の3項目において日本の一致率が有意に低かった。また、女性歯科医師、政令指定都市で診療する歯科医師、エビデンスを英語論文から得る頻度が高い歯科医師の3項目が高い一致率と有意に関連していた。本研究から日本の歯科診療におけるEPGの存在が示唆され、特に日本において改善すべき 項目を特定できた。

臨床部門 第2位:相澤 知里, 新潟大学歯学部, 4年生

結晶性油脂がもたらす嚥下誘発促進効果
Facilitatory Effect of Crystaline Oil and Fat on Swallowing Initiation

本研究では、29℃という融点をもつ結晶性油脂が、融解時に熱を奪うことにより冷覚を生じることを受けて、口腔内での冷覚および嚥下機能への効果をみることを目的としたヒト実験を行った。最初に結晶性油脂を舌上の各部位に投与して、その効果と程度を比較した。次に最も効果のあった部位への投与後に随意嚥下運動がどのように変化するかを嚥下回数を計測することで評価した。最後に、随意嚥下誘発回数が増加したことを受けて、大脳皮質下行路の興奮性の変化を経頭蓋磁気刺激誘発性の嚥下関連筋筋電図記録によって確認した。結晶性油脂の冷覚誘発は明らかでその程度は投与量に依存し、さらに嚥下衝動は奥舌部刺激が最も高かった。嚥下回数は結晶性油脂により有意に増加し、誘発筋電位は有意に増加した。本研究に使用した結晶性油脂は、口腔内で冷感を得ることができるだけでなく、随意嚥下運動に関わる中枢性の興奮性変化を期待させる。その融解度の特性により室温での保存が可能なことから、摂食嚥下障害患者へ用いる安定性の高い食品素材としての価値を見出せる。

基礎部門 第2位:大塩 葵, 昭和大学歯学部, 5年生

歯周病性骨吸収および破骨細胞分化に対するオゾンジェルの効果
Effects of Ozone Gel on Periodontal Bone Resorption and Differentiation of Osteoblasts and Osteovlasts

骨の形態や強さは破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成が繰り返される骨のリモデリングにより維持されている。種々の細菌の感染によって発症する炎症性疾患である歯周病では、骨吸収が骨形成に対して優位になるため、歯槽骨吸収が進行し患者のQOLを低下させる。一方、オゾンは化学的反応生の高い酸素同素体で、殺菌剤として利用されている他、骨形成促進作用を持つことが報告され ている。そこで今回、マウス臼歯結紮歯周病モデルを用いて歯槽骨吸収に対するオゾンジェルの効果を解析した。オゾンジェルを1週間に5回、2週間臼歯部に滴下したところ、対照として用いたジェル基材のグリセロールに比べ、オゾンジェルによる歯槽骨吸収の抑制傾向が認められた。さらに、骨芽 細胞および破骨細胞の分化培養系にオゾンジェルを添加したところ、骨芽細胞による石灰化には影響を及ぼさなかったが、破骨細胞は有意に抑制された。以上より、オゾンジェルは、破骨細胞分化の阻害を介して歯周病性骨破壊を抑制する可能性が示唆された。

伊澤 輝, 奥羽大学歯学部, 3年生

頬神経と周囲ランドマークとの位置関係の計測

近年注目されている顎変形症の手術や、顎関節脱臼による口腔粘膜側頭腱膜短縮術などにおいて、頬神経を傷つけたために、術後に頬部に麻痺が生じることがある。本研究では、下顎小舌をランドマークとして頬神経との位置関係について検討した。下顎小舌をランドマークとした位置計測のために、頬神経と下顎枝前縁の交点の位置を歯科用コーンビームCTで撮影した。撮影したFH平面を基準とした画像データ上で、ボールベアリングでマークした下顎枝前縁での頬神経の高さと下顎小舌との垂直的距離を計測した。計測した結果、頬神経の位置と下顎小舌の距離は7.5mm±4.2であった。また、全ての値は0より大きく頬神経が下顎小舌よりも高い位置にあったが、2点が非常に近い値を示すものもあった。以上より、少しでも切開時に下顎小舌つまり咬合平面の高さよりも高い位置に切開を進めてしまうと、頬神経を傷つけてしまうリスクがあると考えられた。今回の結果から、下顎小舌の高さをランドマークとして、それ以上の高さでは頬神経損傷のリスクがあると考えて切開を進めることで頬神経損傷のリスクを軽減することができる可能性 が示唆された。

今井 浩人, 日本大学松戸歯学部, 5年生

口腔及び結腸直腸におけるFusobacterium nucleatumと免疫応答についての免疫組織学的検討

口腔感染症である歯周病が全身に及ぼす影響として、心臓疾患や糖尿病、低体重児の早産、骨粗鬆症などが知られている。近年、Fusobacterium nucleatumF. nucleatum)が潰瘍性大腸炎や大腸ガンの誘発に関与していると報告されている。長期的な慢性歯周炎により病原性細菌が腸管まで到達 し、腸粘膜への侵入により腸内環境が変化することで炎症が生じることで腸炎が誘発されることが考えられるが不明な点は多い。そこで、F. nucleatum を口腔内に接種させたマウス(F. nucleatum 接種群)と、接種していないマウス(対照群)の歯周組織を含む歯槽骨や小腸・大腸を摘出し免疫組織 学的検討を行った。F. nucleatum 接種群では対照群と比べて歯槽骨の吸収が著明に認められ、歯肉粘膜下固有層に単核細胞の侵入による歯肉の肥厚が認められた。下部消化器を観察したところ、小腸の粘膜下固有層には単核細胞の侵入は認められず、また、絨毛組織への変化は見られなかった。しかしながら、大腸では粘膜下固有層に単核細胞の侵入を認め、細胞塊が形成され、CD3陽性やB220陽性細胞が認められた。これらの結果からF. nucleatum は、歯周炎を惹き起こすだけではなく、下部消化器のなかで特に大腸で免疫細胞の動態にも影響を与えることが示唆された。

金谷 勇希, 九州大学歯学部, 5年生

可視光励起蛍光検出法を用いた舌苔に付着するporphyrin産生細菌の検出と関連因子の探索

近年、舌苔に付着する細菌は口腔や全身の健康と関連することが報告されている。従来の細菌の検出法 による質的評価には時間を要するが、可視光励起蛍光検出法(light-induced fluorescence: LF)を用いるとporphyrin産生細菌を迅速かつ視覚的に検出可能である。本研究では、舌苔中のporphyrin 産生細菌の検出とその検出に関連する因子を調べてLF法の臨床応用の可能性を検討した。
通所サービスを利用する高齢者97人を対象とし、LF法による歯垢観察装置を用い、舌苔中に赤色励起
が観察された者は62.9%であった。細菌16S rRNA遺伝子を対象とした定量PCR法によって舌苔の総細菌数を測定した結果、LF法による赤色励起の検出とは関連がなかった。これは、LF法では舌苔中の特異の細菌を検出していることを示唆している。また、LF法による検出と関連する因子を多変量解析で調べた結果、LF法による検出は飲酒習慣と関連していた。過去の研究でアセトアルデヒド産生能が高い者には唾液中にPrevotella 属の細菌が多く、またLF法によって検出される歯垢にもPrevotella 属の細菌が優勢であることが報告されていることから、飲酒者の舌苔にはPrevotella 属などのporphyrin 産生細菌が優勢である可能性が考えられる。
尚、本研究は九州大学医系地区部局倫理審査委員会の承認を得た。

北野 晃平, 日本大学歯学部, 5年生

口腔内の痛みによって生じる情動に対するアセチルコリンの調節機構

痛みの情動に関わる島皮質のニューロンは、快楽中枢である側坐核へ投射しており、この神経回路が痛みの抑制に働いている可能性がある。しかし島皮質と側坐核は物理的に離れており、in vitro 標本では島皮質からの神経投射を特異的に刺激することが困難であったため、その生理学的・薬理学的性質 はほとんど明らかにされていない。そこで「アセチルコリンは、島皮質→側坐核の神経回路におけるシナ プス伝達を修飾することによって口腔内の痛みの情動的側面に影響を及ぼす」との仮説を立て、オプトジェネティクスを用いてホールセルパッチクランプ法による実験を行った。
その結果、島皮質の神経細胞は側坐核中型有棘細胞へ直接投射しており、アセチルコリン受容体の活
性化によって興奮性入力は減弱され、その効果は一時的なものであることが明らかになった。これらの結果から、快楽中枢の興奮抑制が、歯科治療時の痛みによる不快な感覚を間接的に強めている可能性が考えられる。側坐核におけるアセチルコリン受容体の活性を特異的に阻害できれば、将来、口腔内の痛みによる不快感を軽減する治療の開発につながることが期待される。
なお本研究は動物実験委員会の承認を得て行われた。

小林 玄一郎, 日本歯科大学生命歯学部, 3年生

日常的に摂取する飲食物の酸蝕症に対する影響

酸蝕症とは細菌が関与せず歯が脱灰される症状であり、その発症には産業性疾患に加え、酸性飲食物 の摂取も要因の一つである。最近健康志向の日本人の増加に伴い、お酢やスポーツ飲料によって誘発される酸蝕症が問題となってきている。現在までに酸蝕症と飲食物の関係は十分に示されていない。そこで飲食物が歯に与える影響について検証した。ヒト抜去歯由来切片を飲食物で処理し、その影響を 走査電子顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、軟X線撮影機を用いて解析した。pHの低いレモン汁や炭酸 飲料では、走査電子顕微鏡においてエナメル小柱や象牙細管といった脱灰を表す微細構造の変化が 認められた。またレーザー顕微鏡による脱灰深度はエナメル質と象牙質共にpHが低い飲食物ほど大きな値を示した。エナメル質と象牙質の脱灰深度において明確な違いは認めることができなかった。軟X線 撮影により脱灰厚を測定した結果、エナメル質、象牙質共にpHが低いほど脱灰が亢進していることが再確認された。以上より、酸性飲食物は酸蝕症を誘発し、摂取する際には注意が必要であることが示唆された。なお、本研究は日本歯科大学生命歯学部倫理審査委員会の承認を得て行われた。

酒井 湧志, 鶴見大学歯学部, 3年生

プロバイオティクス菌であるLactobacillus属の産生物を用いた歯周病予防法の探索
Porphyromonas属をターゲットとして-

現在の歯周病に対する抗菌薬や消毒薬による予防や治療ではアレルギーや薬剤耐性菌の出現などの問題がある。それを克服する一つの方法として、プロバイオティクスである乳酸菌の産生物は歯周病 原細菌の発育抑制やジンジパイン(トリプシン様酵素)活性抑制の効果を持ち、予防に生かせる、という仮説を立てた。しかし、乳酸菌は有機酸を産生するため齲蝕のリスクも考えられたので、pH中性 で有効な菌株を探索した。
被検菌株は歯周病原細菌としてPorphyromonas 属(P.gingivalis, P. salivosa, P. gulae )に対し、13菌株のLactobacillus 培養上清をpH中性の状態で用いた。本研究では抗菌試験とジンジパイン活性の検出を行った。その結果、複数の菌株でPorphyromonas 属に対する抗菌性とジンジパイン活性抑制効果が確認された。したがって、有効な菌株の産生物質を用いて歯周病の発生予防に役立てることができると思われる。

清水 まや, 松本歯科大学, 6年生

なぜ乳腺腫瘍に類似する癌が唾液腺に発症するのか?

近年「分泌癌」と定義された腫瘍が小唾液腺に発症し、乳癌特異的マーカーMammaglobin(MGB)を発現する。MGBのタンパク局在とmRNA発現は乳腺で確認されているが、唾液腺では明らかでない。そこで口唇腺におけるMGBのタンパク局在とmRNA発現を検索した。
口唇生検30例を男女同数として選出し、MGBの免疫染色と腺上皮の形質特定のためMuc7等を用いた
蛍光重染色を行い、MGB mRNAをRT-PCRを用いて評価した。MGB陽性率(MGB-PR)を算出し、統計解析した。
MGBはMuc7+漿液腺房、Muc5b+粘液腺房、S100+筋上皮細胞およびSOX10+/-導管に共陽性を示した。腺房のMGB-PRは導管より高値を示したが、男女間と年齢間のMGB-PRに有意な差はなかった。 選出した7例のうち3例でMGB mRNAの発現を認め、種々の程度の発現量を確認できた。
MGBが正常な口唇腺に確認されたことにより、陽性細胞やその前駆細胞が唾液腺の分泌癌の発生母細胞となり得る。MGBは構成細胞に広く陽性であったことから、介在部に存在する幹細胞の一部が 分化過程でMGBの分泌能を獲得する可能性が考えられた。

千 和世, 岩手医科大学歯学部, 3年生

審美性歯冠修復物に対する牛歯エナメル質の摩耗挙動
-CAD/CAM材と前装材の比較-

患者の審美的要求によりセラミックスやコンポジットレジン修復物が用いられている。特にCAD/CAMによって製作された歯冠修復物は計測から切削までの精度が向上したことに加えて、修復用材料の 強度の向上により臨床応用が飛躍的に増加している。しかし、高強度で硬質である歯冠修復物は対合歯を摩耗させることが懸念される。本研究ではCAD/CAMで製作した歯冠修復材(ジルコニアと二ケイ酸 リチウム系セラミックス)と従来法で咬合面を再現した歯冠修復材(前装陶材と硬質レジン)に対する牛歯エナメル質の摩耗挙動を比較検討した。その結果、最も大きい硬さを有していたジルコニアは自身の摩耗がなく、対合の牛歯エナメル質を摩耗した。一方、牛歯エナメル質より硬さの小さい硬質レジン は牛歯エナメル質の摩耗量は少なく、材料自体が摩耗した。硬さが陶材より大きい二ケイ酸リチウム系 セラミックスは、対合の牛歯エナメル質の摩耗が陶材より少なく、材料自体が摩耗していた。したがって、ジルコニアのようなCAD/CAM用材料は高強度で均質であるため対合歯を摩耗し、二ケイ酸リチウム 系セラミックスや硬質レジンは微細な結晶粒やフィラーは対合歯の摩耗を促進しないことが明らかになった。

竹澤 百代, 東京歯科大学, 6年生

軟質リライン材を用いた暫間インプラントオーバーデンチャー用アタッチメントの維持力評価

本研究の目的は、シリコーン系の軟質リライン材を暫間用インプラントオーバーデンチャーのアタッチ メントに応用した際の維持力を評価することとした。
方法として、維持力の測定に際して歯槽堤を模したエポキシ模型と、オーバーデンチャーを模した実験 床を製作した。模型にhealing capを設定し実験床内面にシリコーン系軟質リライン材を貼付する群を実験群とし、模型にボールアタッチメント(直径1.7mmおよび2.2mm)を設定し実験床にO-ring を設定する群をコントロール群とした。デジタルフォースゲージにて実験床を牽引し、実験床が離脱する までにかかった力を維持力として計測し、比較検討した。
結果として、healing capとシリコーン系軟質リライン材を用いた実験群の維持力は、直径1.7mmの
ボールアタッチメントとO-ringを設定した群に匹敵する維持力を発揮した。
本研究の結果より、シリコーン系の軟質リライン材を用いたアタッチメントシステムは、暫間的インプ ラントオーバーデンチャーの維持機構の補助として維持力を発揮することが期待される。

根本 雅子, 東北大学歯学部, 6年生

歯科的身元確認のスクリーニングに有用な年齢推定法の検討

身元確認作業は、正確・迅速でなければならず高い作業効率が要求される。多数の候補者の中から年齢推定スクリーニングを行い、人物を抽出する段階的探索が有効である。しかし、簡便に行える方法は乏しい。そこで、齲蝕などの歯科疾患や歯科処置が見られる確率は加齢に伴って高くなることに着目し、平成28年度歯科疾患実態調査のデータから歯・年齢ごとに確率を求め、その確率が有効であるか 検討した。
実際に個人の上顎の歯の状況から年齢推定を行った。対象として、法医学講座で行われた司法解剖の
うち、無作為抽出した30症例を用いた。結果は、推定年齢から実年齢を引いた。
差が小さいものは、実年齢が50歳以上の症例で多く、差が大きいものは、実年齢が20歳代・30歳代と若い世代に多いことがわかった。若い世代で推定年齢が高くなったのは、この年齢層のサンプル数が少なく、また、近年口腔衛生状態が改善傾向にあり、歯科疾患の罹患年齢が高くなったためと考えられた。 確率の精度を上げるためには、検証数を増やすこと、農村や都市部といった色々な地域ごとのデータを 集めることなどが必要である。

バクティアリ ダリア, 日本歯科大学新潟生命歯学部, 3年生

咀嚼による頭頸部血流量の増加を赤外線サーモグラフィーで定量的に評価できるか?

咀嚼の効用として様々な効果が確認されているが、咀嚼筋や舌などの筋組織の運動により頭頸部の血流が増加し、それを背景として得られる効果も多いと考えられる。従来からの咀嚼機能評価方法の多くは、咬合の 結果を直接的に測定するものであり、オーラルフレイルの予防を想定した場合には、間接的に咬合機能を支持している周囲組織の状態を評価する必要が考えられた。そこで本研究では、単純に食品を咀嚼しただけで頭頸部の血流はどの程度増加するのかを、赤外線サーモグラフィーを用いて評価してみた。また、その結果から、口腔体操等の介護予防訓練に活用可能な評価指標について検討した。その結果、咀嚼開始後数分以内に咬筋などが存在する頬部だけでなく、頸部を含めた表層体温の上昇が確認できた。さらに、熱 画像の0.1℃単位で得たピクセル数の変化から、温度変化を定量的に評価できる指標を考案した。この指標であれば、簡便な方法で機能訓練や唾液腺マッサージ等の効果を評価でき、熱画像の変化も高齢者に分かり やすいことから、介護予防現場において活用できる可能性が示唆された。

橋谷 智子, 岡山大学歯学部, 4年生

脂肪細胞及びその分化に対する低出力パルス超音波(LIPUS)の抑制メカニズムの解明

【目的】低出力性パルス超音波(Low Intensity Pulsed Ultrasound:LIPUS)は脂肪細胞への分化を抑制するが、その詳細な機構は未だ不明である。本研究はLIPUSの脂肪細胞分化に対する 抑制機構の解明を目的とした。
【材料と方法】C 3H10T 1/2 細胞及び3T3 – L1 細胞を脂肪細胞に分化させた後、LIPUS 処置を1日20分、3-4日間連続で行った。脂肪細胞分化に対する影響は( 定量)real-time RT-PCR法及びWestern blot法で解析した。
【結果と考察】LIPUS処置により脂肪滴の形成は抑制され、C/EBPαの遺伝子発現量も有意に減少した。
また、insulin刺激したC3H10T1/2細胞にLIPUS処置を行うと、insulin受容体及びAkt、ERK1/2のリン酸化の
減弱が見られた。さらに、LIPUS処置はYAPタンパク質を核移行させ、その 標的分子であるCCN2の発現量を
増加させた。CCN2はPPARγの遺伝子発現レベルを負に制御 したことから、LIPUS処置はinsulinシグナルの
減弱とCCN2の産生亢進を介したPPARγの発現 抑制によって脂肪細胞分化を抑制すると示唆される。

廣畑 誠人, 愛知学院大学歯学部, 5年生

歯周病関連細菌Porphyromonas gingivalisのMfa1線毛の形態形成に関わる因子の探索

歯周病関連細菌 Porphyromonas gingivalis(P. g )はバイオフィルム形成に関与するMfa1線毛を発現している。Mfa1線毛は、Mfa1、Mfa2、Mfa3、Mfa4およびMfa5が重合することにより形成される が、本線毛の形態形成機序には不明な点が多い。研究が進んでいる大腸菌において外膜に局在する 前駆体リポタンパク質は、Lolシステム(LolA-LolEにより構成される装置)により輸送されることが 明らかになっている。P. gのMfa1、Mfa2、Mfa3およびMfa4にも脂質により修飾されると予想される配列が存在することから、これらの因子がLolシステムにより外膜へ運ばれ重合することが考えられる。そこで本研究ではP. g ATCC 33277株のゲノムよりLolA-LolEホモログを検索し、そして見出されたlol 遺伝子の欠損株を作製することによりLolシステムとMfa1線毛形成との関連性を検討した。その結果、P. g のゲノムにPGN0486(LolA)、PGN0420(LolD)、PGN1025(LolC)およびPGN1387(LolE)を発見した。さらに、PGN0486欠損株では、重合型Mfa1が減少していることが抗Mfa1抗体を 使用したウェスタンブロットにより示された。この結果からPGN0486がMfa1線毛の形態形成に関与していることが示唆された。また、PGN0420、PGN1025およびPGN1387欠損株を作製することが できなかったことから、これらの遺伝子はP. g の生存に必須であることが示唆された。

福井 咲穂, 長崎大学歯学部, 6年生

微小管関連タンパク質タウの象牙芽細胞分化における機能に関するノックアウトマウスを用いた解析

【目的】Colla1プロモーター下でRunx2を過剰発現したトランスジェニック(Runx2-tg)マウスの象牙芽 細胞では、象牙線維の喪失と象牙芽細胞マーカーの顕著な減少が認められ、すなわちRunx2は象牙芽 細胞の最終分化を阻害する。そして、神経突起に高度に発現する微小管関連タンパク質タウ(Mapt)が、野生型の象牙芽細胞に高度に発現し、Runx2-tgにおいて著しく減少する。本研究の目的は、象牙芽細胞の分化におけるMaptの機能を遺伝子改変マウスを作製して調べることである。【方法】Maptノックアウト(KO)マウスをCRISPR/Cas9システムにより作製した。遺伝子発現と表現型は、定量RT-PCR、イムノブロッティング、HE染色および免疫組織化学により解析した。【結果】野生型とMapt-KOマウスの臼歯における有意な形態学的相違はなかったが、Mapt-KOマウスの歯胚において、微小管関連タンパク質1B(Map1B)の増加が野生型マウスと比較して認められた。【結論】Maptの 欠損は、象牙芽細胞分化に重大な欠陥を示さず、MaptとMap1Bの間に機能的冗長性があることが 示唆された。 

渕端 尚, 大阪大学歯学部, 4年生

睡眠時ブラキシズム動物モデル(モルモット)の脳波および顎運動の電気生理学的検証

睡眠時ブラキシズム(SB)は顎関節症、補綴修復装置の破損等を引き起こす睡眠関連疾患である。 睡眠中にはリズム性咀嚼筋活動が発生し、SB患者ではその数が著明に増加する。しかし、SBの発生メカニズムは明らかではなく、基礎的研究におけるSB の動物実験系も確立されていない。近年、ウレタン麻酔下の動物で、自然睡眠で生じる睡眠周期に類似した脳波変化が繰り返されることが報告された。また、自然睡眠下のモルモットでは、SB患者に多発するリズム性咀嚼筋活動の発生が知られている。そこで本研究では、ウレタン麻酔下のモルモットが、SBの動物モデルとなりうるか を電気生理学的に検証した。
ウレタン麻酔下のモルモットにおいて、脳波・筋電図・心電図・呼吸活動・顎運動を記録した。脳波に、NREM-like stateとREM-like stateの周期的な繰り返しが認められた。NREM/REMの周期的変化に伴い、咬筋活動が出現した。さらに、側方移動のリズミカルな顎運動のエピソードの群発 に際し、上下歯が擦れあう音が生じた。
以上より、ウレタン麻酔下のモルモットは、 SBの動物モデルとして有用である可能性が示唆された。

松本 晋, 徳島大学歯学部, 5年生

歯および歯周組織の形態形成にかかわる硬組織形成関連遺伝子の発現解析

歯の喪失時に人工歯により欠損部の機能を補うことができるが、天然歯と同等の生理的な機能を回復することは困難である。そのため、喪失歯の機能を回復しQOLを向上するための研究が注目されている。 しかし、歯の形成過程は多くの因子が相互的に作用し複雑であることから、再生歯の臨床応用には至って いない。
そこで、哺乳類と比較して単純な形態の歯をもち、相同遺伝子が保存されているメダカに注目し、歯の形成メカニズム解明のモデル動物とした。
本研究では歯の形成過程における硬組織形成関連遺伝子の関与を明確にすることを目的に、各遺伝子の発現についてRT-PCR、Real-time PCRおよびin situ hybridizationを用いて検討を行った。結果、メダカの各硬組織形成関連遺伝子はそれぞれ上皮および間葉の細胞に発現を認め、これは哺乳類 の相同遺伝子に類似した発現パターンを示した。したがって、メダカモデルは哺乳類の歯の形成過程を 検討する上で有用であることが示唆された。また、一部の遺伝子に関しては、メダカに特異的な発現 パターンを認めた。今後、これらの遺伝子を哺乳類と比較検討することで哺乳類の歯の形成過程における 重要な因子をひも解くことができると考えられる。

山口 穣, 鹿児島大学歯学部, 4年生

アルツハイマー病モデルマウスにおける三叉神経中脳路核ニューロンの神経変性が咀嚼機能に与える影響について

アルツハイマー病(AD)などの認知症患者では、認知機能低下による摂食・嚥下の機能不全が問題となっている。一方、ADで生じる神経変性が咀嚼機能を司るニューロンにも生じ、直接的に咀嚼運動の異常に関わるかは明らかではない。そこで本研究では、ADによる神経変性が咀嚼運動に直接的な影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした。ADモデル動物において、咀嚼機能に重要な三叉 神経中脳路核(Vmes)に注目し、神経変性を組織学的に解析し、咀嚼筋の活動に影響するかどうか 調べた。8週齢の3xTg-ADマウスでは、Vmesの細胞体において、アミロイドβ(Aβ)の強い沈着が見られた。またVmesから三叉神経運動核に投射する軸索において、リン酸化タウ(Tau)の強陽性反応が認められた。咬筋の筋電図解析では、咀嚼の閉口相にみられる咬筋バースト活動の持続時間と間隔が、3xTg-ADマウスではWTマウスに比較して有意に延長していた。ADにより、Vmesニューロンが 変性し、機能が低下しているために、咀嚼運動のフィードバック情報が三叉神経運動核や三叉神経上核 へ正しく伝達されず、咀嚼リズムが遅延していることが示唆された。

横山 真子, 北海道医療大学歯学部, 5年生

組織透明化技術を利用したがんの診断法および治療薬スクリーニング法の開発

近年、組織透明化技術と共焦点レーザー顕微鏡を使った組織の立体構造の解析が注目されている。組織切片を作成することなく細胞の構造を立体的に観察できる一方で従来の透明化法では通常3日から10日という長い時間が必要であった。透明化の過程で分子振動によって浸透性を高めれば短時間で透明化が可能になるのではないかという仮説の元、超音波処理と加熱処理によって透明化にかかる時間を4分に短縮することに成功した。この方法によって透明化処理した組織の透明化度と立体構造を解析したところ超音波や加熱処理による組織の破壊が起こっていないことを確認した。さらに組織が持つ自家蛍光により、無染色で立体構造の観察ができた。これらの結果から、我々は”迅速組織透明化技術”を開発した。
また細胞増殖マーカータンパク質(Fucci)を発現するがん細胞株(SAS-Fucci細胞)を作成し、HeLa
細胞およびSAS-Fucci細胞をマウスに移植してできたがん組織を迅速に透明化処理して観察した。組織透明化が迅速に行えること、およびがん組織の中に移植したSAS-Fucci細胞の蛍光が確認できたことで、がん浸潤の術中迅速病理診断や抗腫瘍薬のスクリーニングなど医療の発展のための応用が期待できる。

吉田 泰士, 北海道大学歯学部, 6年生

II型糖尿病モデルSDT fattyラットで生じた糖尿病性骨粗鬆症および歯周病変の組織化学的解析

【目的・方法】糖尿病の合併症として生じる骨粗鬆症や歯周病の病理組織学的な解明の一助として、42週齢雄性SDT fattyラットの脛骨(非感染部位)及び下顎骨(感染部位)を組織化学的に解析した。
【結果】SDT fattyラットの脛骨では、SDラットと比較して、骨芽細胞や破骨細胞の局在や骨量に著明な差は認められないものの、骨基質は広範囲な未石灰化を呈しており、内部には骨細胞が存在した。また、骨細管や細胞突起の連結性が低下していたことから骨質低下が推察された。一方、SDT fattyラットの下顎骨臼歯部の歯周組織では、歯根膜や歯髄への細菌感染と上皮陥入が認められ、歯槽骨は著しく吸収されていた。残存する歯槽骨には多数の破骨細胞と骨芽細胞および複雑なセメントラインが認められ、高骨代謝回転が推測された。
【考察】SDT fattyラットにおいて、脛骨(非感染部位)では、骨基質石灰化や骨細胞ネットワークに影響が生じて骨質低下が生じるのに対して、歯槽骨(感染部位)では、骨質低下のみならず、細菌感染や上皮陥入が加わり活発な骨吸収が誘導され、組織破壊が進行すると示唆された。

吉田 芙未, 明海大学歯学部, 4年生

歯の移動に伴う疼痛へのTRPV1の関与

歯科矯正治療では、歯の移動に伴う疼痛が生じる。これは、患者の治療継続モチベーションならびにQOLを低下させることから、改善が求められている。歯科で頻用の酸性非ステロイド性抗炎症薬(アスピリンなど)は、疼痛制御には有効だが、破骨細胞分化を抑制するとの報告もあり、矯正患者への投与は推奨されていない。また、シクロオキシゲナーゼを阻害しないアセトアミノフェンでは、鎮痛効果が不十分との報告があり、代替的鎮痛法の検討が続けられている。しかし、歯の移動に伴う疼痛の発現機序は明らかではなく、本研究では、三叉神経領域の広範な疼痛に関与するTransient Receptor Potential Vanilloid 1(TRPV1)の歯の移動に伴う疼痛への関与を検討した。二種類のTRPV1拮抗薬は、それぞれ、歯の移動に伴う疼痛の発現を有意に抑制した。一方で、七日間の連続投与で、成熟破骨 細胞の発現量を有意に減少し、歯の移動量も減少傾向を示した。矯正力負荷は歯周組織に炎症性サイトカイン(IL-6とCINC-2)の発現を誘導し、IL-6の発現はアスピリン、モルヒネ、TRPV1拮抗薬の投与で 有意に抑制された。モルヒネとTRPV1拮抗薬は、CINC-2の発現を有意に抑制したことから、歯の移動 に伴う疼痛には中枢TRPV1が関与している可能性が指摘された。

 

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速報:第25回SCRP日本代表選抜大会

2019 年 8 月 24 日 コメントはありません

2019年8月23日(金),歯科医師会館に於いて,令和元年度(第25回)  日本歯科医師会/デンツプライシロナ スチューデント・クリニシャン・リサーチ・プログラム  が開催されました.

4名が上位入賞されましたので,お知らせ致します.

優勝/日本代表 - 基礎部門 第1位:前川原 思惟子 さん,広島大学歯学部 5年生
Porphyromonas gingivalis (P.g.)-fimA type2とtype4血清抗体価の上昇は歯周炎の関連する早産マーカーとなる
Porphyromonas gingivalis (P.g.)-fimA (Type2 and Type4) Serum Antibody Titer is a Possible Marker for Preterm Birth Associated with Periodontitis

準優勝 – 臨床部門 第1位:山崎 弘瑛 さん,九州歯科大学 3年生
Evidence-Practice Gapに関する国際比較研究
International Comparison of the Evidence-Practice Gap

臨床部門 第2位:相澤 知里 さん,新潟大学歯学部 4年生
結晶性油脂がもたらす嚥下誘発促進効果
Facilitatory Effect of Crystaline Oil and Fat on Swallowing Initiation

基礎部門 第2位:大塩 葵 さん,昭和大学歯学部 5年生
歯周病性骨吸収および破骨細胞分化に対するオゾンジェルの効果
Effects of Ozone Gel on Periodontal Bone Resorption and Differentiation of Osteoblasts and Osteovlasts

その他および詳細は,追ってupdate予定です.

取り急ぎ,上位入賞者の情報のみを速報としてお知らせいたします.

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第24回大会

2019 年 3 月 10 日 コメントはありません

第24回大会 2018年(平成30年)8月24日 参加校26校

タイトルおよび発表内容要旨 (上位入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝/日本代表 – 基礎部門 第1位:阿部 未来, 北海道大学歯学部, 6年生

骨リモデリングとモデリングの骨芽細胞活性化における細胞学的相互作用
Cellular Interaction Activating Osteoblastic Bone Formation during Bone Modeling and Remodeling

【目的】骨リモデリングおよびモデリング部位における骨芽細胞活性化の機序を明らかにすることを目的として、破骨細胞・骨芽細胞間のカップリングが破綻しているc-fos遺伝子欠損マウス(c-fos-/-マウス:破骨細胞が存在しないマウス)と野生型マウスを用いて、骨芽細胞の活性化・骨形成を組織化学・微細構造学的に検索した。
【材料と方法】生後8週齢の野生型マウスとc-fos遺伝子欠損マウス大腿骨の一次骨梁(モデリング)と二次骨梁(骨リモデリング)において、カルセイン標識、ALPase,endomucin,EphB4,ephrinB2免疫組織化学、および、透過型電子顕微鏡観察を行った。
【結果と考察】野生型マウスとc-fos-/-マウスのモデリング部位では、ALPase陽性活性型骨芽細胞ならびにカルセイン標識が観察された。c-fos-/-マウスの骨リモデリング部位では、扁平なALPase弱陽性骨芽細胞は存在したが、カルセイン標識を認めなかった。一方、モデリング部位では、endomucin陽性骨特異的血管がEphB4を有しており、また、その周囲に局在する骨芽細胞はephrinB2陽性を示したことから、EphB4/ephrinB2による骨・血管連関が示唆された。従って、モデリング部位では破骨細胞ではなく骨特異的血管が骨芽細胞を活性化することが示唆された。

準優勝 – 臨床部門 第1位:山下 絵利子, 北海道医療大学歯学部, 5年生

歯周病原細菌の膵がん発症への関与
-関連遺伝子の同定と膵がん組織内での細菌叢解析-
Involvement of Periodontal Pathogenic Bacteria in the Development of Pancreatic Cancer – Identification of Related Genes and Analysis of Bacterial Flora in Pancreatic Cancer Tissues-

膵がんの発症には、慢性膵炎に加え、アルコールの消費や肥満などの環境要因も危険因子として関係している。歯周病と膵がんの関係を示す疫学研究があるものの、その分子機構は明らかにされていない。本研究では、P. gingivalisのLPS(PG-LPS)の全身投与がマウス膵臓に与える影響を網羅的に解析し、またヒト膵がん組織中の細菌叢解析を行なった。実験に際し動物実験センターの承認と倫理委員会の承認を得た。網羅的解析のデータから、PG-LPSで刺激した膵臓で発現量が最も高い10遺伝子のうち、膵臓がんに関連するregeneratingislet-derived 3G(Reg3G)遺伝子が認められた。Control群と比較してPG-LPS群ではReg3Gの発現が73倍であった。免疫染色でPG-LPS群のランゲルハンス島のα細胞部にReg3G陽性が認められた。ヒト膵臓がん組織の細菌叢解析から、種々の歯周病原細菌が検出された。これらの結果から、Reg3Gが歯周病関連膵がんに関与し、歯周病細菌が膵がん患者の血流を介して膵臓に達する可能性が考えられる。歯周病が膵がんの危険因子になり得ることが推察された。

臨床部門 第2位:中田 智是, 松本歯科大学, 4年生

溶血性を持つGemella属は歯周病の抑制と関連する
Novel Pharmacological Effects of Anti-bone Resorptive Drugs on Oral- and Immune-related Tissues

細菌には、赤血球を分解する溶血活性を有する菌種が存在し、重篤なヒト感染症との関連性が数多く報告されている。しかし、唾 液中の溶血性細菌の特性は、ほとんど明らかになっていない。本研究の目的は、溶血性細菌の特性を調べ、歯周疾患との関連性を明らかにすることである。唾液を血液寒天培地に塗布し、溶血帯の数を解析したところ、歯周病患者だけでなく健常者からも多くの強い溶血性を持つ細菌が分離された。16S rRNA塩基配列に基づく解析を行ったところ、溶血性を示す細菌の多くがGemella属であり、G. sanguinis , G. haemolysans , G. morbillorum の3種を同定した。また、定量的PCR法により、唾液中の各Gemella 属の存在比を定量したところ、歯周病患者に比べて健常者ではG. haemolysans が有意に高い割合で存在していることが示された。さらに、G. haemolysansと歯周病病原菌との関連性を調べるために、競合生育阻害実験を行ったところ、G. haemolysansP.gingivalis の生育を直接的に阻害することが明らかとなった。以上のことから、G. haemolysansは口腔内環境を正常(健康)に保つための重要な細菌種であることが示唆された。

基礎部門 第2位:西田 訓子, 昭和大学歯学部, 5年生

口腔と免疫関連組織に対する骨吸収抑制薬の新たな薬理作用
Hemolytic Gemella is Associated with Suppression of Periodontal Disease

ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体製剤(デノスマブ)などの骨吸収抑制薬は妊婦に禁忌とされているが、小児に対して制限はなく、骨軟化症治療などに用いられている。一般に小児は成人よりも薬物に対する反応が強く身体的変化が進行しているため、副作用や後遺症のリスクが高い。しかし小児に対する骨吸収抑制薬の薬理作用の詳細は不明であり、これは臨床上重大な問題である。そこで我々は、若齢マウスを用いて骨吸収抑制薬が成長や免疫に及ぼす影響について解明することを目的とした。1週齢時にゾレドロネートを投与したマウスでは、7週後(8週齢時)に身長と体重の減少が認められ、2週後(3週齢時)に歯根伸長阻害による歯の萌出障害と骨髄におけるB細胞(B220陽性細胞)の減少が認められた。一方、抗RANKL抗体を投与したマウスでは身長と体重に異常はなく、胸腺におけるCD4陽性細胞(T細胞)数の減少が認められた。以上の結果は、ゾレドロネートを小児に投与すると、身長・体重の抑制、歯の発生異常、および免疫異常が誘発される可能性があることを示している。また、抗RANKL抗体も免疫系に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。

青山 直樹, 東北大学歯学部, 5年生

下顎骨発生過程における破骨細胞の形態形成に関する研究

胎生期の骨発生における過去の研究の多くは骨芽細胞の役割に焦点を置いており、骨基質を吸収する破骨細胞に着目した研究は少なく、骨発生過程における破骨細胞の形態やその出現時期については未だ不明である。そこで本研究では、胎生13日~18日齢(E13d~E18d)のマウスを用いて、下顎骨発生における石灰化開始時期と破骨細胞の出現時期、さらに破骨細胞の核数や形態について検討した。Von Kossa染色により下顎骨の石灰化開始はE15dであることが明らかになった。骨が石灰化する前の時期であるE14dでは、小型のTRAP陽性細胞が認められた。E16d以降は、石灰化した骨の周囲に大型で多核のTRAP陽性細胞が見られた。E14dで検出されたTRAP陽性細胞のほどんどが単核であったが、E15dになると単核の細胞が減少し、多核の細胞が増加した。E17dでは、単核の細胞がさらに減少して、多核の細胞が大部分を占めた。本研究により、マウスの下顎骨発生における破骨細胞の出現は下顎骨の石灰化開始時期より早く、骨形成が進むにつれて小型で単核の破骨細胞の割合が減少し、大型で多核の破骨細胞の割合が増加することが示唆された。

上野 智也, 長崎大学歯学部, 6年生

骨肉腫においてRunx3はTGFβシグナルの下流で機能する「がん遺伝子」である

骨肉腫は間葉系細胞由来の悪性腫瘍で、若年層に多く発症が認められる。しかし、その発症機序はほとんど明らかになっていない。そこで我々は、骨芽細胞特異的p53遺伝子欠損マウスの解析から、骨肉腫の発症と進展は、p53非存在下で発現が亢進したRunx3によるc-Mycの過剰な発現誘導に起因することを見出したが、その発端となるRunx3の発現亢進メカニズムは不明のままであった。
腫瘍微小環境において、TGFβは悪性化因子として機能する。本研究で、骨肉腫細胞においてTGFβによってRunx3の発現が誘導され、その結果c-Mycの発現が亢進されることが明らかになった。Runx3転写開始地点から122kb上流にRunx3とSmad2/3の高い集積が認められ、ゲノム編集によりそこに変異を加えると、Runx3とc-Mycの発現亢進が抑制され、さらに骨肉腫細胞の造腫瘍能も抑えられた。
以上の結果は、骨肉腫においてRunx3はTGFβシグナルの下流で腫瘍化促進因子として機能することを明確に示している。なお、本研究は長崎大学動物実験委員会の承認を得て実行した(承認番号:1603151292-7)。

 

川上 紘佳, 九州歯科大学大学, 6年生

GDF10は骨格筋幹細胞分化を抑制する

骨格筋の萎縮は、要 支援・要介護の主要な原因である。また 疫学研究から骨格筋量が多いと様々 な疾病に対する罹患率が低下し、健 康長寿であることが明らかであるため、骨格筋の 萎縮を予防・ 治療することは超高齢社会のわが国にとって重要な課題である。GDF10(BMP-3b)はTGF-βスー パーファミリーに属するサイトカインである。GDF10は他のBMPと異なりTGF-βやActivinと同様に Smad2/3シグナルを活性化する。Myostatinに代表されるようにSmad2/3シグナルの活性化は骨格 筋分化を負に制御すると考えられるが、骨格筋代謝におけるGDF10の作用は全く不明である。そこで 今回、骨格筋の組織幹細胞であるサテライト細胞の分化におけるGDF10の作用を検討した。GDF10 の添加や過剰発現はサテライト細胞の細胞株であるC2C12細胞や初代 培養サテライト細胞において MyogeninやMyosin heavy chainなどの筋分化マーカーの発現を抑制したが、筋分化のマスター レギュレーターであるMyoDの発現には影響を与えなかった。そこでMG185ルシフェラーゼレポー ターアッセイを用いてMyoDの転写活性への作用を検討したところGDF10は活性を抑制した。よって GDF10はMyoDの転写活性を制御することでサテライト細胞の分化を抑制すると考えられる。GDF10 の抑制は骨格筋再生の重要な戦略になる可能性がある。

河村 崚介, 大阪大学歯学部, 4年生

細胞の成長と代謝を司るTORC1はセリン合成を直接制御する

細胞は栄養素をTORC1により厳密に感知している。栄養存在下でTORC1は自身のリン酸化酵素活性 化し、分解過程である異化作用を抑制すると同時に、同化作用(生体内高分子化合物の合成)を亢進することで細胞成長を促す。こうした栄養源に応じた増殖と成長の制御因子としての機能は真核生物において進化的に保存されている。一方で、栄養素がどのようにTORC1を活性化するのか、TORC1が何をリン酸化して細胞増殖と成長を促すのか、という最も重要な課題が残っている。上記背景をもとに、生化学的解析と細胞生物学的解析を組み合わせることにより酵母TORC1相互作用因子を探索した。その結果、セリン合成 経路の最も初期段階を触媒する酵素を同定した。この機能欠損はTORC1活性に影響がないこと、TORC1によりリン酸化されることから下流因子であると結論した。機能欠損株は TORC1阻害剤であるラパマイシンに感受性を示し、この感受性は培地にセリンを添加することで抑圧されたことからTORC1の阻害により増殖に必要な細胞内のセリン濃度を維持できないと考えられる。本研究により既知のタンパク質、脂質、核酸に加え、TORC1がアミノ酸の生合成を直接制御していることが明らかとなった。

木田 美沙希, 朝日大学歯学部, 3年生

高濃度カルシウム含有水のアルジネート印象材への適用を検証する

海外では炭酸を豊富に含んでいる水、あるいは高濃度ミネラル含有水(硬水)のような水を日常で使用している地域がある。本研究ではアルジネート印象材に対する硬水の影響について検討した。5種類(A-D)の硬水を選び、コントロールには水道水および純水を用いた。アルジネート印象材は硬化が変色で判断できる製品を選び実験に供した。メーカー指示に従い、硬化時間、弾性ひずみ、永久ひずみを測定した。
A-Dはコントロールに比べて脱色効果が早期に発現され、硬化を促進する作用があることが認められた。しかし、練和初期より着色が認められない練和水もあった。弾性ひずみの測定結果ではいずれの水も規格値である5-20%以内の値を示した。特にCa濃度が高いA,BではCont.1,2と比較して有意に値が大きかった。一方で、永久ひずみではISO規格で定められている95%以内の弾性回復に届かないものもあった。高濃度ミネラル含有の硬水を市販アルジネート印象材の練和液として検討した結果、軟水に比べて硬化が早まる傾向であること、弾性ひずみ、永久ひずみに影響を及ぼす可能性が高いことが示唆された。

工藤 千華子, 鶴見大学歯学部, 2年生

象牙質再生に向けたミダゾラムのドラッグ・リポジショニングの可能性

歯科治療において、ミダゾラム(MDZ)は主に麻酔導入・鎮静薬として用いられている。本研究では、近年創薬戦略として注目されているドラッグ・リポジショニングにおけるMDZの新規効用を見出すため、歯髄細胞に対するMDZの効果について調べた。ブタ切歯歯髄から調製した不死化細胞(PPU-7細胞)にMDZ単独、MDZとBMP2の併用、MDZとTGF-β1の併用の3つの投与群を通常培地および石灰化培地を用いて培養し、それぞれの投与群の細胞分化能についてはアルカリホスファターゼ(ALP)活性から、石灰化誘導能については石灰化沈着物のAlizarin Red S染色およびVon Kossa染色とカルシウム定量から比較した。さらに各種細胞分化マーカー遺伝子に対する定量PCR解析と石灰化沈着物中のタンパク質の電気泳動からどの細胞に分化傾向があるかを検討した。PPU-7細胞に対するALP活性およびカルシウム量はMDZ単独群が顕著であった。さらに石灰化沈着物中から象牙質リンタンパク質が検出された。MDZ単独で7日間培養したPPU-7細胞の遺伝子発現は、象牙芽細胞の遺伝子マーカーが、骨芽細胞および軟骨細胞の遺伝子マーカーより優位に上昇した。以上のことより、PPU-7細胞に対してMDZは象牙芽細胞分化を促進することが示唆された。

小瀬川 将, 岩手医科大学歯学部, 3年生

ヒト口腔扁平上皮癌細胞における上皮間葉転換調節メカニズムの解明

【問題点】ヒト口腔扁平上皮癌(hOSCC)細胞の上皮間葉転換(EMT)や間葉上皮転換(MET)を制御する分子メカニズムの詳細は明らかとされていない。
【仮説】hOSCC細胞以外の癌細胞では転写因子Sox9がEMTの誘導に深く関わることが知られている。一方、hOSCC細胞以外の癌細胞ではYAPやTAZにより活性化されるHippo 経路がEMTの誘導に深く関わることが知られている。そこで我々は、EMT関連転写因子としてのSox9やHippo経路エフェクターとしてのYAPならびにTAZがhOSCC細胞のEMTを正に調節するものと仮説を立て、その実証を試みた。
【方法】hOSCC 細胞としてHSC-4細胞株を用いた。mRNAの発現はRT-qPCR法、タンパク質の発現はウェスタンブロット法及び免疫蛍光法により解析した。
【結果】HSC-4細胞ではSox9、YAPならびにTAZの遺伝子ノックダウンにより、EMTマーカーであるN-カドヘリンの発現が減少し、METマーカーであるE-カドヘリンの発現が増加した。
【結論】hOSCC細胞のEMT誘導では、EMT関連転写因子Sox9の発現やHippo経路の活性化が重要な役割を担っていることが示唆された。現在、Hippo経路の活性化がSox9の発現誘導に関わるかどうかについて調査中である。

小林 徳子, 明海大学歯学部, 3年生

口腔癌におけるGlutathione Peroxidase Enzyme 4 (GPX4)の役割

ヒト口腔扁平上皮癌の臨床的な治療成果は徐々に改善しているが、患者の5年生存率はその開発に寄与した分子事象とこの疾患の病因の解明における限界に反して未だ落胆させられる。このように、口腔癌の発生を促進している分子メカニズムのより良い理解は、この疾患に対する新しい診断と治療アプローチを誘導し、ヒト口腔扁平上皮癌患者の予後を改善するかもしれない。腫瘍におけるGPX4の発現は、腫瘍の生存と正の相関があり、細胞増殖、運動性および組織再構築に関係している。ここで、GPX4の発現抑制は腫瘍細胞増殖による癌の進展を抑制することが報告されている。しかしながら、ヒト口腔癌におけるGPX4の影響は未だ明らかでない。そこで、本研究ではヒト口腔扁平上皮癌におけるGPX4の役割について検索した。この結果から、GPX4が口腔癌の増殖と進展に重大な役割を担っており、GPX4がヒト口腔扁平上皮癌において、将来性のある治療標的として役立つかもしれないことが示唆された。

佐伯 彩華, 福岡歯科大学, 5年生

口腔扁平上皮癌における癌スフェアー形成へのオートファジーの関与

口腔扁平上皮癌(OSCC)の少数の細胞群は、自己複製能をもつ未分化な癌幹細胞様細胞(CSCs)に酷似する。スフェアー形成試験は、幹細胞の自己複製能を利用したもので、CSCsの検出方法である。そこで、本研究は、OSCC細胞からの癌スフェアー形成をオートファジーが制御しているかを検討した。低接着性プレートに培養したOSCC細胞は、球状のスフェアーを形成した。LC3-II, beclin-1およびAtg5の発現がOSCCスフェアーで亢進した。autophagosomeの形成阻害剤である3-MAおよびCQ添加により、スフェアー形成は抑制された。STA3ノックダウンはスフェアー形成に関与するオートファジー経路への関連性は認められなかった。それに対して、pAMPKおよびpULK1発現がOSCCスフェアー形成では亢進し、さらにULK1ノックダウンによりスフェアー形成が抑制された。以上の結果から、自己複製能によるOSCCスフェアーの形成は、STAT3非依存性のオートファジーにより制御される。AMPK/ULK1経路がオートファジー誘導性の癌スフェアー形成に関与する可能性が示唆された。

佐藤 祐太郎, 東京歯科大学, 5年生

ビルベリー抽出物の歯周病原性菌に対する抗菌作用

歯周病原性細菌は歯周炎の発症に関わるのみならず他臓器の疾患に関わり全身の健康に影響を及ぼすことが示されている。感染症の病原体に対しては通常抗菌薬が使われるが、歯周炎の様な長期経過をとる慢性疾患においては耐性菌の出現等の問題により使用に困難な点がある。本研究では、ビルベリー果実から歯周病原性菌を駆除する物質の抽出・精製を試みた。始めに、ビルベリー抽出物のPorphyromonas gingivalisへの増殖阻害活性を測定した。その結果、抽出物に阻害活性を認めた(EC50 = 90μg/mL)。さらに我々は、抽出物を精製し薄層クロマトグラフィー上で単一のスポットとなるフラクションについて、P. gingivalisに対する増殖阻害活性とヒト歯肉ガン由来の細胞Ca9-22に対する細胞毒性を検討した。その結果、同精製物の増殖阻害活性はEC50 = 11μg/mLであり、細胞毒性はLC50 = 82μg/mLであった。これらの事からビルベリー抽出物には歯周病原性菌を駆除する化合物が含まれる事が示唆された。本大会ではビルベリー果実からの抽出、精製、増殖阻害活性測定と細胞毒性測定までの流れについて発表する。

篠木 大輔, 奥羽大学歯学部, 4年生

下顎骨における神経分布の分析

歯科では顎骨において侵襲的な手術が行われているが、下顎骨における神経分布を組織学的に研究した報告はない。ウイスター系ラットの下顎骨から組織切片を取り出すことができれば、PGP(protein gene product)および CGRP(calcitonin gene-related peptide)抗体による染色で、それぞれ、全神経と知覚神経の下顎骨における分布を測定することが可能となる。
動物から組織を摘出して組織標本を作成した後、歯槽頂から下顎管までの標本を数か所の部位に分けた。PGP陽性神経とCGRP陽性神経における神経分布密度を顕微鏡下に計測した。統計処理にはカイ二乗検定を用い、危険率5%未満を有意差ありとした。PGP陽性神経およびCGRP陽性神経の両者において、垂直的には歯槽頂から下顎管に向かって神経数は増加し、水平的には骨膜側から歯根膜側に向かって神経数は増加した。
外科的侵襲が下顎管や歯根膜に向かって深くなるにつれて、痛みは増加するものと思われる。したがって、十分な局所麻酔薬の浸潤が必要であるとともに、必要に応じて伝達麻酔や歯根膜麻酔の併用が求められる。

柴﨑 慎司, 新潟大学歯学部, 6年生

ヒト乳歯歯髄幹細胞維持に必要なfeeder細胞の作製

組織幹細胞は再生医療研究には重要な素材であるが、長期培養によりその分化多能性が低下する。そこで本研究では、歯髄幹細胞を含むヒト乳歯歯髄細胞(HDDPCs)に幹細胞の増殖に有効と期待される様々な成長因子遺伝子を導入した組換え細胞を作製し、それがfeeder細胞として初代 HDDPCs培養細胞の長期維持に有効かを検討した。遺伝子導入の効率が高いとされるpiggy Bac (PB)トランスポゾン系プラスミドベクターにヒトLIF、BMP4、FGF2遺伝子および抗生物質耐性遺伝子を搭載したPBベクターを作製した。さらに細胞の持続的維持のために、ヒトパピローマウイルスの初期遺伝子(E7)を配したPBベクターを作製した。これらのPBプラスミドをHDDPCsへ共遺伝子導入し、1週間抗生物質存在下にて培養維持し、生存した細胞を株化した。この細胞株は、4時間のmitomycin C処理により細胞分裂を止めヒトfeeder細胞とし、この細胞上に別患者から採取した初代培養細胞を播種した。長期培養HDDPCsと比較してヒトfeeder細胞上でのHDDPCsは増加が早く、また、長期培養後の分化多能性も維持されていた。本研究で樹立したヒトfeeder細胞は、初代HDDPCs培養細胞以外にも他組織由来の幹細胞などの培養維持にも有用と考えられ、今後の幹細胞研究に大いに寄与すると考えられる。

城山 佳洋, 大阪歯科大学歯学部, 4年生

セルロースナノファイバーはグラスアイオノマーセメントの強化に応用できるか

グラスアイオノマーセメント(GIC)は優れたフッ化物イオン溶出能や生体親和性、歯質接着性等の利点を有し、近年提唱されている齲蝕への生物学的アプローチに必要不可欠な材料である。しかし、金属やコンポジットレジンと比較して機械的強度が劣る。そこで我々は、軽くて強く、低い熱膨張性、高い透明性および生体親和性を有するセルロースナノファイバー(CNF)をGICの補強材とすることに着目した。しかし、CNFをGICに均一に分散させて添加できるか否かも不明であった。そこで本研究は、まずCNFをGICに添加できるか否かを検討し、次にCNFはGICの利点を損なうことなく機械的強度を向上できるかを検証した。
その結果、従来型GICガラス粉末に対して約5%に相当するCNFを添加したGICの作製が可能であった。そのCNF添加GICは、CNFを添加しなかった従来型GICと比較して、曲げ強さのみならず圧縮強さも有意に向上し、さらにGICの利点であるフッ化物イオン溶出能を低下させないことが明らかとなった。以上の結果より、CNFは従来型GICの補強材として有効であることが示唆された。

辻 菜々, 岡山大学歯学部, 4年生

感染症発生動向調査を用いたB型肝炎と歯科診療の関連症例調査

昨年、約半数の歯科診療所が治療用器具を患者に使いまわしをしているとして院内感染の可能性が指摘された。しかし、歯科治療におけるB型肝炎ウイルス感染と考えられる症例数を証明する資料はほとんどなかった。
そこで、以下の方法で急性B型肝炎患者のうち、歯科治療を受けたことが感染の原因の一つとして考えられる症例がどのくらい存在するかを調べるとともに、抽出された症例について時・場所・人の要素を中心に記述疫学的にまとめた。
2007年~2016年の感染症発生動向調査の結果を用いて歯科治療による感染の可能性がある症例を抽出した。急性B型肝炎として診断された患者のうち、キーワード検索「歯」を行い、受診病院名に「歯」が含まれる症例、明らかに歯科とは関係のない症例を除き、残ったものを歯科治療がB型肝炎と関連する可能性がある症例として抽出した。
抽出した結果、症例数は10例に及び、うち1例は歯科衛生士が職場で感染した可能性があった。また、男女比、年齢がB型肝炎患者全体の平均よりも高齢かつ女性の比率が高く、歯科受診者の傾向に似ていることが分かった。
以上より、歯科診療はB型肝炎に関連している可能性があると考えらえる症例が見つかった。

照井 博久, 日本大学松戸歯学部, 5年生

CAD/CAM冠用の試作GFRPに関する実験的および解析的な特性評価

ハイブリッドレジ ンブロックによる 小臼歯用 CAD/CAM冠が2014年に健康保険に適用された 。しかし、そのようなCAD/CAMハイブリッドレジンの臨床成績はセラミックスや合金などのCAD/ CAM材料に比べて劣ることが知られている。そのため、レジン系CAD/CAM材料はさらなる開発と調査が必要となる。本研 究の目的は、CAD/CAM冠に使 用するため、グラスファイバーとポリカーボネートからなる実験用グラスファイバー強化型プラスチック(GFRP)を試作し、一般的なCAD/CAM 材料と比較して、その物理的・機械的特性を評価することである。ファイバー強化材は補強効果があるため、曲げ試験により得られたGFRPの曲げ特性は、CAD/CAM冠用の一般的なハイブリッドレジンの特性(文献値)に比べて大きかった。さらに、有限要素解析によるコンピューターシミュレーションの結果は、CAD/CAMハイブリットレジン冠は他のCAD/CAM材料(GFRP、セラミック)に比べて、支台歯において高いフォンミーゼス応力を引き起こすことを示した。実験およびコンピュータ解析の両面から得られた結果より、グラスファイバーとポリカーボネートから構成される試作GFRPはハイブリットレジンに比べて優れた機械的特性を有し、CAD/CAM冠として臨床応用可能であることが示唆 された。

二階堂 修, 日本歯科大学生命歯学部, 4年生

学生教育における側面セファログラムの計測精度と計測方法の違いに関する検討

矯正歯科治療において側面頭部X線規格写真における計測点の精度は正確な診断を立てる上で重要で、歯学部生においても歯科矯正学の授業や実習のカリキュラムの一環としてセファロ分析が組み込まれている。しかしこれまで歯科矯正学の専門教育を受けたものがセファロ分析の精度の検証の対象者であることが多く、専門教育を受けていない学生が対象となる研究は少なく、セファロ分析において教育に左右されず誤差が出やすい計測項目は調べられていない。本研究では専門教育を受けていない学生がセファロ分析を行うことで、セファロ分析の精度向上や効率的な教育方法の考案への寄与を目的とした。
歯科矯正学を学んでいない学生30人により、5症例のセファロ分析を行い20種類の計測項目の計測者間誤差を求めた。また選択した10人が行った従来の方法による分析をアナログ群、セファロ分析ソフトによる分析をデジタル群とし、各群の計測者間誤差を統計学的に比較した。骨格系より歯系の計測項目が統計学的に優位に大きい計測者間誤差を示すとともに、デジタル群にて誤差が小さく、専門教育を受けていない歯学部生におけるセファロ分析ソフトを使用した教育の有効性が示唆された。

野口 幸恵, 鹿児島大学歯学部, 4年生

転写因子Egr-1(Early Growth Response Protein 1)は骨形成因子(BMP9) による骨芽細胞分化誘導に重要な役割を果たす

骨形成因子(BMPs)は強い骨再生促進作用を有するサイトカインファミリーであり、歯周病に対する歯槽骨再生や骨折治癒の促進のための骨再生療法への臨床応用が期待されている。BMP-9はBMPファミリーの中でも特に強い骨芽細胞分化誘導作用を有することが報告されているが、その作用分子機構の詳細には未だに不明な点が多い。私達の研究室では、骨芽細胞のBMP-9刺激によって、転写因子であるEgr-1の発現量が著明に増加することを最近見出した。今回、骨芽細胞前駆細胞MC3T3-E1のBMP-9刺激を行った結果から、骨芽細胞前駆細胞に分化誘導を行うことによりEgr-1の発現量は一過性に増加することを示した。また、作成したEgr-1特異的なsiRNAのMC3T3-E1細胞への形質導入に
より、BMP-9によるEgr-1タンパクの発現誘導は著明に抑制され、同時にBMP-9刺激によって誘導される骨芽細胞分化マーカーの発現レベルは著しく減少した。この結果から、Egr-1の発現誘導はBMP-9の骨芽細胞分化作用において重要な役割を果たすことが明らかになった。Egr-1の発現量の経時的な変化により骨芽細胞分化能を調節することができれば、新たな骨再生療法の開発に有用となる可能性がある。

藤原 由, 日本大学歯学部, 5年生

歯肉上皮細胞の短鎖脂肪酸誘導細胞死および関節リウマチ誘導因子の放出には活性 酸素産生が必要である

関節リウマチ(RA)は関節の骨吸収と強い痛みを伴う自己免疫疾患である。歯周疾患が本疾患発症に関与している可能性が示唆されているにも関わらず、その分子的・生物学的な説明は殆どされていない。これまで、歯垢細菌が産生する短鎖 脂肪酸のうち4種が歯肉上皮細胞の細胞死を誘導し、それに伴いRA誘導因子が放出されることがわかっている。しかしながら、この細胞死が起こるメカニズムは不明である。私はRAおよび歯周疾患発症には活性酸素種が重要であることから、短鎖脂肪酸誘導細胞死には活性酸素種が重要であると考えた。そこで本研究では、短鎖脂肪酸誘導の細胞死とRA誘導因子の放出には活性酸素種が重要である可能性を検討した。その結果、細胞死を誘導した4種の短鎖 脂肪酸は活性酸素種の産生を増強し、産生された活性酸素の消去は短鎖脂肪酸誘導の細胞死およびRA誘導因子の細胞外放出を抑制することが分かった。以 上のことから、歯垢細菌の産生する短鎖脂肪酸による細胞死およびRA誘導因子の放出には活性酸素種の産生が重要であることが示された。この結果により、歯周疾患が関連するRA発症の予防には活性酸素の消去が重要である可能性が示唆された。

丸山 茉耶, 日本歯科大学新潟生命歯学部, 2年生

赤外線サーモグラフィーにより唾液腺マッサージの効果を評価できるか?

口腔乾燥の対策として、唾液腺マッサージが有効とされ介護予防教室などで指導されるようになってきた。しかし、そのマッサージ効果を評価する方法は確立されていない状況にあり、客観的かつ簡便にマッサージ効果を評価できる方法があれば、高齢者自身も効果を実感しやすいと考えられた。そこで、私たちは非侵襲的に生体を観察でき、結果をイメージとして理 解しやすい赤外線サーモグラフィーに着目し、事前に頬部冷却を実施した後に、赤外線サーモグラフィーと携帯型NIRS(近赤外線組織酸素モニタ)で測定を行い、それがマッサージ効果の評価方法として活用できる可能性について検証した。その結果、サーモグラフィー熱 画像の観察結果からは、冷却による変化域中央に温度変化中心点が存在し、同部が血行改善に向けてマッサージを実施する場合のターゲットになると推察された。また、温度回復時間の平均値は、対象者全員でマッサージ実施の方が非実施より短縮していた。NIRSによる深部測定結果とも類似した傾向が確認できた。これら結果から、今回試みた方法により唾液腺マッサージ効果を評価できる可能性を確認できた。

村上 知徳, 広島大学歯学部, 5年生

グラミシジン穿孔パッチクランプ法により表出される唾液腺腺房細胞Cl-分泌の律速 分子活性

糖尿病モデル動物では唾液腺房細胞でのSGLT1(ナトリウム-グルコース共輸送体1)の発現が減少することが報告されている。そこで、SGLT1が唾液分泌減少に関与しているのではないかと考えた。コラゲナーゼ処理により単離したマウス顎下腺腺房細胞にグラミシジン穿孔パッチクランプを行いCl-電流の記録を行った。グラミシジン穿孔後に副交感神経作動薬のカルバコールで刺激を行い、その後ブメタニド(Na+/K+/2Cl-共輸送体阻害剤)もしくはフロリジン(SGLT1阻害剤)を投与し、カルバコール刺激により誘発されるCl-電流に対するブメタニドやフロリジンの効果を調べた。結果としてカルバコールで誘発された振動性のCl-電流はブメタニドの添加により抑制された。また、カルバコールによる刺激時には振動性のCl-電流が見られたが、その後のフロリジン+カルバコール刺激ではCl-電流の反応が消失した。以上より、SGLT1により細胞内に取り込まれるグルコースがNa+/K+/2Cl-共輸送体を通して細胞内に流入しCa2+依存性Cl-チャネルを通して流出するCl-の流れに何らかの関与をすると考えられた。

山木 大地, 九州大学歯学部, 5年生

複数のモダリティからの顔面3次元形状データの相同モデル化と顎変形症治療評価への応用

下顎前突症などの顎変形症患者に対しては、通常顎矯正手術が適応となる。その形態評価は軟組織を中心に行うのが望ましいが、軟組織の正確な形態評価は困難であり、さらに顔貌全体の評価法は確立していないのが現状である。また、術前後の評価にはCTがよく用いられるが、被曝を伴うという問題点があった。そこで、以下の仮説を立て検証を行った。
(A)3D画像撮影解析装置(以下3Dカメラ)で採取した顔貌3次元データは、同一人物のCT画像の顔貌データの代用となるのではないか。
対象は下顎前突症の患者5名とした。支援ソフトにて各対象患者のCTの顔貌データと3Dカメラの顔貌データの面間距離を測定し、同一被検者内での誤差が少なかった12点間の距離を測定した。顔貌データ全体の面間距離の5つの平均値は0.856mm±0.211mmであり、12点の距離はほとんどの部位で2mm未満であったことから、CT画像の表面データと比較することは可能であると考えられた。
(B)相同モデル化した顔貌データでの統計的解析により顎変形症の治療評価に応用できる新たな軟組織評価が確立できるのではないか。
対象は健常者10名と下顎前突症の女性患者10名とした。相同モデル化した顔貌データを用いて健常者と術前患者、健常者と術後患者で統計解析ソフトによる主成分分析を行った。健常者と術前患者では第1主成分と第2主成分に有意差(p<0.05)が見られた。さらに、術後患者では概ね健常者の顔貌に近づいており、顎変形症の治療評価にも有用であることが示唆された。

吉田 幸司, 徳島大学歯学部, 5年生

オンデマンド剥離可能なスマート歯科用セメントの開発
-イオン液体の種類が接着特性に与える影響-

近年、歯科用セメントの接着力向上により被着物の脱離リスクが減少した反面、再治療時の被着物除去の際に、健全歯質の削合量増大や歯根破折のリスク増大が懸念される。この相反の解決には、強固な接着力を示しつつ、オンデマンドで接着力が大きく減少するスマートなセメントが必要である。本研究ではこれまで、歯科用グラスアイオノマーセメント(GIC)にイオン液体を添加すると、通電によって接着力の減少が可能となることを明らかにしてきた。今回は、異なるイオン液体をレジン添加型GICに添加したセメントを3種類試作し、その接着力と通電特性を調べた。
その結果、イオン液体の種類によって試作セメントの電気伝導特性に差異が生じるため、接着力低下に必要なイオン液体濃度が異なることがわかった。しかし、いずれのイオン液体でも濃度を最適化すれば、元のセメントと同程度の接着力を維持しつつ、通電によって接着力の有意な減少が可能であり、イオン液体の種類は問わない可能性が示された。今後、生体安全性が十分高いイオン液体が開発されれば、それを用いたスマート歯科用セメントの実用化が可能と期待される。

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速報:第24回SCRP日本代表選抜大会

2018 年 9 月 7 日 コメントはありません

2018年8月24日(金),歯科医師会館に於いて,平成30年度(第24回)  日本歯科医師会/デンツプライシロナ スチューデント・クリニシャン・リサーチ・プログラム  が開催されました.

4名が上位入賞されましたので,お知らせ致します.

優勝/日本代表 - 基礎部門 第1位:阿部 未来 さん,北海道大学歯学部 6年生 
骨リモデリングとモデリングの骨芽細胞活性化における細胞学的相互作用
Cellular Interaction Activating Osteoblastic Bone Formation during Bone Modeling and Remodeling

準優勝 – 臨床部門 第1位:山下 絵利子 さん,北海道医療大学歯学部 5年生
歯周病原細菌の膵がん発症への関与
-関連遺伝子の同定と膵がん組織内での細菌叢解析-
Involvement of Periodontal Pathogenic Bacteria in the Development of Pancreatic Cancer
– Identification of Related Genes and Analysis of Bacterial Flora in Pancreatic Cancer Tissues-

臨床部門 第2位:中田 智是 さん,松本歯科大学 4年生
溶血性を持つGemella属は歯周病の抑制と関連する
Novel Pharmacological Effects of Anti-bone Resorptive Drugs on Oral- and Immune-related Tissues

基礎部門 第2位:西田 訓子 さん,昭和大学歯学部 5年生
口腔と免疫関連組織に対する骨吸収抑制薬の新たな薬理作用
Hemolytic Gemella is Associated with Suppression of Periodontal Disease

その他および詳細は,追ってupdate予定です.

取り急ぎ,上位入賞者の情報のみを速報としてお知らせいたします.

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第23回大会

2018 年 5 月 4 日 コメント 1 件

第23回大会 2017年(平成29年)8月18日 参加校28校(歯科大学全校参加)

タイトルおよび発表内容要旨 (上位入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝/日本代表 – 基礎部門 第1位:吉野 舞, 広島大学歯学部, 5年生

単一細胞トランスクリプトミクスによる骨芽細胞の多様性の解析

骨形成を終えた骨芽細胞は多くがアポトーシスにより死に至るが、一部は骨細胞やライニング細胞へと分化する。また、加齢や骨粗鬆症等の病態に伴い脂肪細胞へと分化転換する例も報告されている。しかし、これらの分子基盤は殆ど解明されていない。そこで、以下の方法で骨芽細胞の遺伝子発現レベルを単一細胞レベルでプロファイリングするとともに、脂肪細胞への分化転換能について検討を加えた。
Col1a1プロモーター制御下でLyn-Venusを発現するレポーターマウスを作製し、同マウス新生仔頭頂骨よりVenus+ 細胞を分離した。同細胞について単一細胞レベルでハイスループット mRNA Seqを行い、そのうち90細胞のトランスクリプトーム解析を行なった。Venus+ 細胞の脂肪細胞分化能はin vitroで確認した。
教師なし階層的クラスタリングの結果、Venus+ 細胞は大きく2つの集団に分類され、一方はさらに複数に分類された。PPARgをはじめとする脂肪細胞分化に関与する遺伝子群も多数発現しており、PPARγの合成リガンドを負荷すると、Venus+細胞の一部は脂肪細胞へ分化した。
以上より、今回、単一細胞レベルにおいて骨芽細胞の多様性が初めて明らかとなった。また、一部の骨芽細胞集団は脂肪細胞分化能を持つものと考えられた。

 

準優勝 – 臨床部門 第1位:福留 彩音, 日本大学歯学部, 5年生

歯槽骨吸収予測指標としての歯肉溝滲出液中ストレスシグナリングの解析と臨床応用への検討

歯周炎の進行に伴い歯槽骨の吸収が起こるが、その程度は患者の口腔衛生状態や年齢も関与する。
歯肉溝滲出液(GCF)には歯周炎の病変を反映する様々な分子が含まれるため、GCFを解析することで歯槽骨吸収の進行を予測することが期待されているが、詳細については十分検討されていない。
そこで本研究では、20~70代の歯周炎患者を年代別、男女別にグループ分けし、ソフトウェアによる骨吸収程度、X線写真及びGCF中のストレスシグナリング分子と歯槽骨吸収状態との関連性を比較検討した。その結果、(1)歯槽骨マトリクスは性別と年齢に影響を受ける、(2)GCF中の分子の双方分布はNetwork 1(heme-H2O2-calcium)に起因し加齢変化と関連がある、(3)双方分布の移動はNetwork 2(GADD153-Substance P)に起因し、加齢による歯槽骨吸収の影響を受ける、(4)歯周炎はNetwork 2活性に影響を与え、歯槽骨吸収を促進する可能性があることがわかった。
以上の結果から、Network 2のGCF中分子は、臨床現場において歯槽骨吸収の早期発見と治療のための予測指標となり得る可能性が示唆された。

 

基礎部門 第2位:松本 夏, 大阪大学歯学部, 4年生

オートファジー誘導にはカリウム流入を抑制するホスファターゼが必須である

オートファジーは主に飢餓によって誘導され、細胞質成分を分解し栄養源やエネルギー源を供給している。また、細胞内に侵入した細菌をオートファジーによって除去する機構も知られている。これまでにオートファジー制御において、複数のリン酸化酵素の関与が明らかとなっている一方、脱リン酸化酵素は知見がない。そこで新規オートファジー関連ホスファターゼの単離および機能解析を行った。
出芽酵母全ホスファターゼ40種のスクリーニングの結果、過剰発現により通常オートファジーがみられない富栄養条件でオートファジーを誘導し、機能欠失により飢餓条件でオートファジー不全を呈するPpz1とそのパラログのPpz2を同定した。二重欠損株で種々のオートファジー関連タンパク質(Atg)への影響を検討し、Ppz1,2はオートファジー誘導経路の最上流因子であるAtg1の活性化に必須であることが分かった。さらに、Ppz1,2はカリウムトランスポーターTrk1,2を負に制御していることが明らかになっており、Ppz1,2に加えTrk1,2の四重破壊株ではオートファジー活性は野生株同等に回復した。このことから、オートファジーの誘導にはPpz1,2がTrk1,2を負に制御し、細胞内カリウム流入を抑制することが必要であると考えられる。

 

臨床部門 第2位:柳田 陵介, 東京歯科大学, 5年生

フッ化物微量拡散法による乳児一日フッ化物摂取量評価

フッ化物応用の齲蝕予防効果は多くの疫学研究から示されている。安全性に配慮したフッ化物応用を行うためには経口摂取する一日フッ化物量(Daily Fluoride Intake, DFI)を確認することが必須である。
本研究では成人よりも体内へのフッ化物の吸収率が高く、少量で過剰摂取による影響が出やすい乳児期の食事を想定し、離乳食、粉ミルクおよび飲料水から摂取されるフッ化物含有量を測定した。さらに、その総和から乳児期のDFIを推定し、目安量との比較を行った。検討の結果、乳児期の離乳食、粉ミルク、飲料水を合算し、推定されたDFIは5か月齢で185.34μg/day、7か月齢で181.16μg/day、9か月齢で174.59μg/day、12か月齢で179.19μg/dayであることが明らかになった。
本結果のDFIは全ての月齢において欧米目安量の約1/3~2/3ほどの低値を示しており、近年の食の多様化と欧米化に伴って日本人のDFIが減少傾向であるという我々の仮説は支持された。本データはフッ化物応用の安全性指標として有用であり、食生活の変化に伴う乳児期DFIの変移を把握するために、今後も継続的な検討の必要性があると考えられる。

 

石川 瑛三郎, 岩手医科大学歯学部, 4年生

fMRIを用いた高齢者のタッピング時の脳活動研究

fMRIなどの非侵襲的手法の発達により、ヒトでの顎運動の脳回路解析が可能となった。本研究では、歯のタッピングに関与する脳部位とその機能的役割を明らかにする目的で、80歳以上の高齢有歯顎者(20本以上の歯を持つ)、無歯顎者および義歯装着した無歯顎者を被験者に、タッピング動作を行わせ、MRI画像を取得した。タッピングによって賦活化される多くの脳部位の中で、義歯装着により影響を受ける脳領域間結合を解析した結果、 1)タッピングによる感覚入力は視床VPM核から一次感覚野、島皮質を介して前頭連合野DLPFCに伝わり、随意運動開始のトリガーとなりうること。 2)小脳は、末梢からのフィードバック(小脳ループ)を介して円滑な運動遂行に、大脳基底核は、大脳基底核ループを介してリズミックな運動の開始、遂行に関与しうることが明らかになった。単純な歯のタッピング運動において、末梢からの感覚入力は、反射の調節だけでなく、皮質運動野や咀嚼野からの出力系を介する随意運動の制御にも重要な役割を果たしていることが示唆される。

石塚 啓太, 北海道大学歯学部, 6年生

抗がん剤治療後の腫瘍血管内皮細胞の薬剤耐性獲得

薬剤耐性は、がん患者の予後不良の大きな原因である。化学療法後に生き残っている腫瘍細胞は、様々なメカニズムで薬剤耐性能を獲得しており、その一つに薬剤排出トランスポーターの発現亢進がある。これまでわれわれは、腫瘍血管内皮細胞が染色体異常を示し、正常血管内皮細胞に比べて多剤耐性遺伝子MDR1の発現が高いこと、MDR1遺伝子がコードする薬剤排出トランスポーターABCB1を介して、抗がん剤パクリタキセルへの薬剤耐性を示すことを報告した。本研究では、抗癌剤治療そのものが、腫瘍血管内皮細胞の薬剤耐性を誘導している可能性があるのではと仮説を立て、抗癌剤治療による腫瘍血管内皮細胞のMDR1/ABCB1発現変化を検討することを目的とした。
抗癌剤治療後の腫瘍組織において、腫瘍血管内皮細胞のMDR1/ABCB1発現が亢進していた。そのメカニズムの一つとして、抗癌剤が誘導する腫瘍細胞のサイトカインXに着目した。サイトカインXは、腫瘍血管内皮細胞のMDR1/ABCB1を亢進させた。抗癌剤治療が、腫瘍細胞のサイトカイン発現亢進を介して、腫瘍血管内皮細胞の薬剤耐性を誘導していることが示唆された。

梅田 将旭, 徳島大学歯学部, 5年生

口腔扁平上皮癌の新たな浸潤促進因子としてのPeriostinスプライシングバリアントの同定

Periostinは癌細胞のみならず、正常組織や腫瘍間質中の線維芽細胞から分泌される細胞外マトリックスであり、その発現と悪性度との相関が報告されている。我々は、これまでに口腔扁平上皮癌の浸潤に関わる新規因子としてPeriostinを同定し、癌細胞の浸潤、血管・リンパ管新生を介して転移に関与することを報告してきた。最近、発表者はEMTを起こした口腔扁平上皮癌細胞株においてPeriostinが高発現していることを見出した。さらに、Periostinの発現を有さない細胞株においてもTGFβ刺激により、その発現が誘導されることを明らかにした。また、Periostinには9つのスプライシングバリアント(Isoforms)が存在することが最近明らかにされたが、その役割はほとんど報告されていない。そこで、Periostinのisoformsの発現パターンを解析したところ、isoform 3及び 6が特異的に発現することを見出した。さらにisoforms 3及び 6の発現ベクターを遺伝子導入し、浸潤能を検討したところ、isoform 3及び 6は浸潤を促進した。加えて、isoform 6はisoform 3とは異なり、ERKの活性化を誘導することを見出したことから、Isoform 3とは異なる作用機序を介して浸潤能を亢進させる可能性が示唆された。Periostinを起点とした癌細胞の浸潤制御機構の解明が新たな癌治療の開発に貢献できるものと考えられる。

亀田 真衣, 東北大学歯学部, 6年生

新規齲蝕関連細菌Scardovia wiggsiaeの齲蝕誘発能
-酸産生活性とフッ化物耐性-

Scardovia wiggsiaeは、最近の研究で重度の早期小児齲蝕や青年期における白斑齲蝕病変から検出されており新たな齲蝕関連細菌として注目されている。Scardovia属はフルクトース6リン酸経路(F6PPK shunt)という独自の糖代謝経路を有しており、他の齲蝕関連細菌とは糖代謝の性質が異なる可能性がある。そこで、酸産生活性、代謝産物、及びフッ化物への感受性についてStreptococcus mutansとの比較検討を行った。その結果、S. wiggsiaeは主に酢酸を産生したことから、F6PPK shuntを主要な代謝機構として利用することが明らかになった。またS. wiggsiaeはpH 5.5でも十分に酸を産生したことから、う蝕誘発能が高いことが示唆され、さらにフッ化物耐性はS. mutansよりも高かった。S. wiggsiaeの高いフッ化物耐性はフッ化物の利用に際し考慮が必要であると考えられた。酢酸は酸性環境において乳酸よりもエナメル質に浸透しやすく脱灰能が高いという報告があることから、S. wiggsiaeは乳酸産生菌とは異なる機序で齲蝕を誘発・促進することが予想される。今後、S. wiggsiaeのような酢酸産生性でフッ化物耐性の高い細菌のコントロール法の開発が望まれる。

小島 百代, 明海大学歯学部, 4年生

ポビドンヨード液を基準にしたOTCの口臭・口腔内細菌・口腔細胞に与える影響の検討

薬局で販売されているOTC医薬品の口腔機能改善効果を判断するためには、適切な基準薬を選択し、基準薬との相対的な強さを測定することが必要であるが、これまでの研究ではこの点の配慮がなされていなかった。
第3類薬品に属するポビドンヨード液(以下PIと略)は、高い抗菌性と抗ウイルス性を有するため、多くの人が使用しており、基準薬として妥当である。PIの口臭予防効果、抗菌効果、および細胞傷害性を定量化できればOTCの効果を客観的に測定できるという仮説を立てた。口臭(VSC値)、口腔内細菌数、細胞傷害性は、それぞれ、ブレストロン、細菌カウンタ、MTT法で測定した。
PIは強力な細胞傷害活性を示した。PIの傷害性は血清の存在で弱くなることから、非特異的にタンパク質に結合することが示唆された。PIの含漱により、舌、特に、頬粘膜の細菌数が顕著に減少した。PI単体ではVSC値を高めることはないが、PIで含漱すると、瞬間的に高いVSC値を示した。PIが何らかの生体反応を引き起こす可能性が考えられた。
頬粘膜における細菌数の減少と口腔粘膜細胞に対する傷害性との比率の算出は、OTC薬の口腔機能改善作用の評価に有用と思われた。

竿尾 歩, 岡山大学歯学部, 2年生

低フッ素濃度の過飽和溶液によるエナメル質再石灰化の促進

低フッ素濃度の過飽和溶液によるエナメル質再石灰化の促進本発表では、低濃度のフッ化物を含むリン酸カルシウム過飽和水溶液をエナメル質上で乾燥することで、迅速に再石灰化させる新しい方法を提案した。この方法は、数日から数週間連続的にエナメル質を過飽和溶液中に暴露してアパタイトを析出させるというこれまでに提案された再石灰化法と比較して、より短時間での再石灰化を目指したものである。本発表の結果を発展させて、さらに迅速かつ危険性の低い再石灰化処置法を確立することで、一般の患者はもとより、特に在宅医療などで治療環境に制限がある患者や、超高齢社会を迎えて急増する高齢者のう蝕マネージメントの簡便化が期待できる。

榮田 奈々, 鶴見大学歯学部, 6年生

ケラチン75が及ぼす抜け毛と齲蝕の関連性解明のための基礎研究

ケラチン75(KRT75)遺伝子の突然変異は、抜け毛のみならず齲蝕など歯に対しても様々な問題を引き起こす可能性があり、エナメル質にも存在することが報告されているが、その動態については不明である。本研究では形成過程にあるブタエナメル質中のKRT75について免疫組織化学(IHC)、遺伝子およびタンパク実験を行うことを目的とした。IHC実験は、生後5日齢および11日齢のマウス下顎臼歯切片を作製してKRT75抗体を用いた免疫染色を行った。遺伝子実験は、生後約5ケ月のブタ永久切歯エナメル器より基質形成期、移行期、成熟期に相当する領域からtotal RNAを調製してKRT75の遺伝子発現を定量PCRにて分析した。タンパク実験は、同齢のブタ永久第二大臼歯の幼若エナメル質よりKRT75の分離精製を行い、質量分析を行った。生後5日および11日齢マウスにおいてKRT75は中間層に主に局在していた。その遺伝子発現はエナメル質形成過程の全ステージで確認されたが、移行期で特に発現が高かった。さらにタンパク実験では、KRT75が、幼若および成熟エナメル質で検出され、LC-MS/MS分析によりKRT75であることが同定された。以上、KRT75はエナメル質形成過程において他のエナメルタンパク質とは異なる動態を示していることが考えられた。

佐々木 瑛美, 日本歯科大学生命歯学部, 4年生

マウス歯胚への局所照射法は歯根発生における放射線の直接的影響を考察させる

過去にマウスの歯根形成期にエックス線の頭部照射を行い、ヘルトヴィッヒ上皮鞘とその周囲の細胞動態に異常が生じ歯根形成障害を引き起こすことを明らかにした。しかし、頭部照射の照射野には歯胚発生に関わる内分泌器等が含まれるため、放射線が直接的に歯胚にダメージを与えた影響を観察しているとはいえない。そのため、鉛ガラスを用いてマウスの下顎第一臼歯歯胚のみにエックス線を局所照射できる方法を確立した。本研究ではマウスの生後5日齢(P5)に20Gy局所照射後、P13にサンプリングを行い、頭部照射、非照射グループと比較した。
頭部照射マウスのGH、PTHの血中濃度は非照射マウスに比べて約1/2に減少しているのに対し、局所照射マウスでは非照射マウスと同程度であった。局所照射マウスの歯根長は非照射マウスと比べ有意に短く、頭部照射マウスと同程度であった。組織観察において、局所照射マウスは頭部照射マウスと同様の結果を示した。
内分泌器に障害は生じておらず、一方で歯根は頭部照射マウスと同様の組織学的形態異常が観察されたことより、頭部照射により生じた歯根形成障害は放射線の歯胚への直接的なダメージが関与していると考えられた。

澤崎 孝平, 北海道医療大学歯学部, 5年生

エピジェネティクス修飾による新規象牙質再生療法の開発

深在性のう蝕は、抜髄せず歯髄を保護する目的で歯髄保存療法を行うのが望ましい。現在、歯髄保存療法剤として水酸化カルシウム製剤を用いた直接覆髄法が広く行われている。しかし、長期間の水酸化カルシウム製剤の使用は歯髄壊死や病的石灰化を誘発することがある。また、被蓋象牙質の質や形成に要する期間などを考慮すると、改善が必要である。
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACi)は、悪性腫瘍に対する分子標的薬剤として近年用いられている。一般的に、HDACiはヒストンのアセチル化亢進を介して、遺伝子の発現を促進させる薬剤である。近年、HDACiが種々の細胞の増殖や分化に影響を与えることが報告されている。HDACiは骨芽細胞の骨形成を促進し、破骨細胞の分化を著しく阻害することが報告されている。我々は、HDACiは象牙芽細胞の分化の促進に関与していると仮定した。本研究では、HDACiによる歯質の硬組織分化誘導について検証した。
HDACiは、象牙芽細胞の分化を促進し、歯髄の石灰化を誘導することが示唆された。したがってHDACiは、歯髄保存療法に有用な可能性がある。

竹内 俊介, 東京医科歯科大学歯学部, 6年生

マウス接触アレルギーモデルにおける口腔粘膜に集積するCD8+ T細胞の制御機構

接触アレルギーはT細胞による遅延型過敏応答であり、皮膚や粘膜へのアレルゲン暴露により誘導される。臨床的アレルギー症状は、皮膚と口腔粘膜では大きく異なるが、その免疫病理学的違いは明らかでない。本研究では、ハプテン感作後に、頬粘膜で惹起する接触過敏モデルを樹立し、頬粘膜と耳介皮膚間での応答の違いについて検討した。頬粘膜惹起は、耳介皮膚に比べ、好中球とCD8+ T細胞の浸潤による急速で激しい組織炎症を呈したが、この炎症は急激に回復した。頬粘膜に集積するCD8+ T細胞は、炎症性サイトカインIFN-γ発現は低く、免疫チェックポイントPD-1発現が高く、増殖マーカーKi-67発現は皮膚と変わらなかったことから、増殖はしているが、最終エフェクターT細胞に分化できずに疲弊細胞に転ずる細胞であることが示された。これが、頬粘膜の激しい炎症が急速に回復する原因と思われた。ピーク炎症時の頬粘膜上皮では、PD-1リガンドであるB7-H1の強い発現が認められ、B7-H1の欠如は過敏応答を加速させたことから、PD-1:B7-H1経路による制御が局所で存在している可能性が示された。本結果は、口腔接触アレルギーの特性の理解に役立ち、接触アレルギー制御の新規戦略を生み出す一助になると思われた。

田中 雄祐, 日本歯科大学新潟生命歯学部, 2年生

歯科診療環境における汚染状況の可視化とその対策

歯科診療においてユニットや電子カルテ記入、予約作成に使われるPCは患者や歯科医師、歯科衛生士など多くの人に利用される。しかし、歯科診療においては治療器具や検査器具の消毒、滅菌が重視され、前述のような部位の汚染は軽視されやすい。また、汚染されていることが予想されていても汚染の程度が不明なため、効果的な対策が立てづらい。そこで、私たちはまずATP拭き取り検査キットと微粒子カウンター、フードスタンプを用いて歯科診療環境の汚染状況を可視化することを試みた。次に測定部位に応じた対応策を実施し、その効果を検討した。その結果、汚染はスピットンやパソコンのキーボードに集中しており、画一的な清拭では汚染状況が改善されなかった。
以上のことから歯科診療環境の衛生状況を良好に保つために画一的な消毒だけではなく、各器具や装置の形状や材質を考慮した衛生管理を行わなければならないと言える。また、歯科診療環境が必ずしも無菌的ではないという認識を患者、医療従事者の両者が持つべきであると考えられる。

土持 那菜子, 福岡歯科大学, 5年生

口腔扁平上皮癌治療抵抗性へのオートファジーの関与

他の癌細胞と同様に、口腔扁平上皮癌(OSCC)の治療抵抗性は解糖系経路(Warburg効果)の最終段階を制御する筋肉型ピルビン酸キナーゼ(PKM2)/還元グルタチオン(GSH)経路に依存している。最近の研究報告は、グルコース供給阻害による解糖系の抑制をオートファジーが補い、PKM2/GSH経路を保持する可能性を示唆している。本研究は、無グルコース培養OSCC細胞における誘導オートファジーによる治療抵抗性の促進について検討した。高グルコース培養OSCC細胞は200μMシスプラチン(Cis)添加により生存率が顕著に減少した。一方、無グルコース培養細胞ではCis添加による生存率の減少はみられず、治療抵抗性を示した。さらに、Cis添加の無グルコース培養細胞では、治療誘導性オートファジーが促進し、PKM2および細胞内GSHの発現が亢進した。以上の結果から、OSCC細胞はグルコース途絶状態においてもオートファジー誘導を介してWwarburg効果を活性化した。OSCC細胞の治療抵抗性は治療誘導性オートファジーにより活性化されたPKM2/GSH経路により促進することが示唆された。

寺本 朱里, 大阪歯科大学歯学部, 4年生

植物由来パパインによる歯の着色予防の研究

赤ワインやコーヒー、紅茶などの食品に含まれる色素は、歯の表面のペリクルに付着して着色の原因となる。歯面上のペリクルに着色物質が吸着してすぐにペリクルを切断することができれば、着色原因物質が歯の表面から離れ、着色を抑制できると考えられる。そこで、特異性の低いタンパク質分解酵素で植物由来のパパインに着目し、パパインがペリクルの主成分である糖タンパク質を切断することで歯面への着色を予防できるか調べた。その結果、ヒドロキシアパタイト(Hap)ディスクに唾液をつけると経時的に着色が促進した。これらの着色をパパインがペリクルを切断することにより抑制すると考えたが、抑制しなかった。さらにHA粉末を使うことにより、一旦、切断したタンパク質の再付着を防ぐようにしたが、同様に着色は抑制しなかった。パパインがHApに結合したタンパク質を分解することは電気泳動により証明されていたのにもかかわらず、着色が抑制できなかったのは、着色物質が歯面における再石灰化とともにエナメル質内部に取り込まれることによって、強固なステインが形成されていく以外に、エナメル質が直接着色するメカニズムがあると考えられる。

中野 雄貴, 日本大学松戸歯学部, 5年生

MDPのカルシウム塩の生成量はMDP含有ワンステップボンディング材のエナメル質および象牙質接着性を表す指標となる?

10-Methacryloyloxydecyl dihydrogen phosphate(MDP)を酸性モノマーとするワンステップボンディング材は臨床において広く使用されている。これは、MDPがボンディングレジンの接着性に影響を及ぼすためである。しかし、MDP含有ワンステップボンディング材の歯質接着性は製品間で異なるのが現状である。本研究の目的は、4種の市販ボンディング材と1種の試作ボンディング材を用いて、MDPのカルシウム(MDP-Ca)塩の生成量がエナメル質および象牙質接着性に及ぼす影響を検討することである。
ボンディング材とエナメル質および象牙質反応生成物を調整し、反応残渣の固体 31 P NMRスペクトルを測定した。この 31 P NMRスペクトルを波形分離し、MDP-Ca塩の生成量を求めた。次に市販および試作ボンディング材について接着強さの測定を行った。
エナメル質および象牙質アパタイトの脱灰過程を通して生成されるMDP-Ca塩の生成量は、歯質アパタイトの脱灰の程度を表し、MDP含有ワンステップボンディング材のエナメル質および象牙質接着性を表す有用な指標であることが判明した。象牙質接着はエナメル質接着と異なり、MDP-Ca塩の生成量との間に負の相関を示した。これは、レジンの接着機構がエナメル質と象牙質とでは異なるためと考えられる。

中南 友里, 九州歯科大学, 6年生

骨格筋代謝におけるNF-κBシグナルの動態とその役割

骨格筋の萎縮は、要支援・要介護の主要な原因である。また疫学研究から骨格筋量が多いと様々な疾病に対する罹患率が低下し、健康長寿であることが明らかであるため、骨格筋の萎縮を予防・治療することは超高齢社会のわが国にとって重要な課題である。転写因子NF-κBは免疫応答、細胞分化や増殖などの様々な生命現象に関連し、骨格筋の萎縮にも関与することが知られているが不明な点も多い。今回、骨格筋代謝におけるNF-κBの役割を明らかにする目的で、①骨格筋線維の分解・減少、②骨格筋幹細胞の増殖、③分化・融合過程におけるNF-κBの動態とその作用を検討した。NF-κBレポーターマウスを用いた実験から、骨格筋線維の分解および骨格筋幹細胞の増殖過程でNF-κBシグナルが亢進した。一方、骨格筋幹細胞の分化・融合過程ではNF-κBシグナルは低下した。さらにTNFα処理で誘導したNF-κBは筋線維の幅径を減少させた。またNF-κBは骨格筋幹細胞の増殖を誘導したが、分化と融合を抑制した。現在、NF-κBの阻害は骨格筋萎縮の有力なストラテジーと考えられているが、骨格筋幹細胞の増殖を抑制しないように骨格筋代謝過程に応じた厳密な NF-κBの制御が必要と思われた。

中村 和貴, 長崎大学歯学部, 6年生

頭頸部がん患者における放射線誘発う蝕のリスク因子

頭頸部がん患者における放射線性顎骨壊死の主な原因の一つに放射線治療(RT)後の進行性う蝕が考えられている。この研究の目的は、放射線性の進行性う蝕の予防法を確立するために、RT後のう蝕発生に関するリスク因子を調査することである。
RTを受けた31名の患者(RT群)と手術単独を受けた25名の患者(対照群)について、治療後1年または2年後のう蝕を調べた。次にさまざまな因子とう蝕の関連について一元配置分散分析および重回帰分析により検討を行った。
RT群のう蝕増加数は対照群よりも有意に多かった。単変量解析では照射野に唾液腺や歯が含まれるとう蝕の増加数は有意に高くなった。多変量解析では照射野に含まれる歯数のみがう蝕増加と有意に関連していた。
これらの所見から、RT後の進行性う蝕の発症機序として、RTによる唾液性障害に起因する唾液減少とならんで、RTによる歯への直接障害が考えられた。

中山 慶美, 愛知学院大学歯学部, 5年生

交感神経細胞は直接α1アドレナリン受容体を介して骨細胞によるRANKL発現を制御する

交感神経は骨芽細胞のアドレナリン受容体を介しreceptor activator of nuclear factor-κB ligand(RANKL)発現を介し骨吸収を制御する。また、生理的な骨吸収は主に骨細胞由来のRANKLによって制御される。しかし、交感神経細胞と骨細胞との機能的な繋がり、およびそのシグナル経路はなお十分には解明されていない。本研究ではマウス骨細胞様細胞、MLO-Y4細胞に交感神経α1B受容体が発現していることを確認した後、ノルアドレナリンとα1受容体作動薬フェニレフリンによりα1B受容体経由でRANKLの発現が増加することを明らかにした。さらに、In vitro共培養系を用い交感神経―骨細胞間の直接的なシグナル伝達の存在を確認した。α1受容体作動薬フェニレフリンにより細胞内カルシウムが増加し、NFATc1の核内移行が増加した。これはα1受容体拮抗薬プラゾシンによりブロックされた。以上の結果から、交感神経細胞と骨細胞とが直接機能的に繋がり、RANKLの発現が増加することが明らかとなった。

洪 珮瑜, 神奈川歯科大学, 3年生

高齢者における義歯装着による咬合回復が水嚥下時の脳活動への影響に関する研究

喪失歯数が増加していく高齢者において、咬合支持を喪失した多数歯欠損に対して、有床義歯補綴装着による咬合回復の状態を脳機能の面から評価する手法は未だない。今回は臨床で簡便に使用可能な軽量小型ワイヤレスfNIRS(functional near-infrared spectroscopy:近赤外分光分析法)を用いた高齢者の義歯装着による咬合回復が水嚥下時の前頭前野における脳活動に及ぼす影響について検討した。
その結果、義歯装着時の水嚥下時のVAS “0”に対して、未装着時の水嚥下時のVASは”72″で、義歯未装着は強い水嚥下困難感を感じていた。その時の脳活動の比較において、義歯未装着時と装着時の酸化ヘモグロビン量(Oxy-Hb)に有意な差が認められた。また義歯未装着時の安静時と水嚥下時の酸化ヘモグロビン量(Oxy-Hb)においても有意な差が認められた。
咬合支持を喪失した片顎以上の無歯顎者に対する可撤性有床義歯による咬合回復は、義歯未装着時に比較して、嚥下状態を脳活動に反映していることが明確になった。これは、高齢者における欠損補綴の意義を脳活動の面から”見える化”を具現化する可能性を示唆している。

前野 真太郎, 朝日大学歯学部, 3年生

若齢期の歯の喪失が海馬の細胞新生に及ぼす影響

これまでに老化促進モデルマウス(SAMP8)において、上顎臼歯を喪失すると、加齢にともない、マウスの寿命の短縮、血中のコルチコステロン濃度の上昇、空間認知能の低下が起こり、老化促進することが明らかになっている。
また、最近の研究により海馬における細胞新生は海馬機能維持に極めて重大な役割を担っており、この細胞新生はストレスの影響を受けやすいことがわかっている。また新生細胞から分化するオリゴデンドロサイトは、中枢において髄鞘形成により跳躍電動を誘導し活動電位の伝導速度を速める役割を担っており、ストレスの影響を受けやすいことがわかっている。
しかし、若齢期の歯の喪失による空間認知能低下と海馬における細胞新生およびオリゴデンドロサイトとの関連は明らかにされていない。若齢期の歯の喪失は慢性的なストレスとして作用し、血中コルチコステロン濃度を上昇させ、海馬における細胞新生が抑制され、オリゴデンドロサイトも減少した結果、空間認知能の低下が生じると考えられるため検証を行った。

三橋 あい子, 昭和大学歯学部, 5年生

重力が歯と骨の恒常性に及ぼす生物学的作用 -メダカを用いた加重力実験-

私達は常に重力のもとで生活しており、骨はその影響を受けやすい組織の1つとして知られる。一方、歯や歯周組織が重力の影響を受けるか否かは不明である。私は、歯の生える方向は重力方向と平行であることから、歯や歯周組織の発生や維持に重力が関係するのではないかと考えた。そこで、国際宇宙ステーション関連事業で開発された生物学的重力実験装置を応用し、破骨細胞が蛍光タンパク質で標識された遺伝子改変メダカに地上の5倍の重力(5G)を負荷しながら飼育することで、重力がメダカの咽頭歯骨や他の組織に及ぼす影響について解析した。その結果、5Gの重力下で飼育したメダカの咽頭歯骨では、その周辺の破骨細胞数とカルシウム沈着量が減少していた。さらに骨代謝に必須のAP-1遺伝子の発現レベルも低下していた。これは、咽頭歯骨を維持する破骨細胞と骨芽細胞の骨代謝回転が加重力により低下したことを示唆する。咽頭歯骨以外では、平衡感覚を司る耳石の形成異常と、脊椎骨の背側への湾曲も認められた。以上のことから、重力は遺伝子発現制御を介して歯や歯周組織の骨芽細胞と破骨細胞による骨代謝回転や、耳石や脊椎骨の恒常性を調節することが示唆された。

山口 久穂, 松本歯科大学, 4年生

スクリューピンに超弾性合金を用いた場合のインプラント体の強度に及ぼす影響
-非線形有限要素解析による検討-

インプラント治療の事故原因は様々であるが、その中にインプラント体の破折も含まれている。インプラント体の破折はアバットメントの動揺によりを引き起こされることから、緩まないアバットメントスクリューの開発が急務である。緩みは、咬合力によりスクリューピンが回転することによって生じる。スクリューピンをより大きなトルクで締結すれば回転を防止できるが、骨と結合しているインプラント体をも回転させてしまい、大きなトルクを掛けることは出来ない。しかしスクリューピンの材料を既存のチタン合金から超弾性合金(Ni-Ti)に変更すれば、温度変化によって締結力を増加させ得ることや、塑性変形による緩みを防止できる可能性がある。そこで、まずNi-Ti合金の機械的性質を引張試験より求めた。得られた物性値を用いて、既存のインプラント体について有限要素法により検討した。その結果、既存の構造においては十分な効果を発揮し得ないことが判明した。このため超弾性効果が発揮できるよう、スクリューピンならびにインプラント体を再設計して解析したところ、緩みの発生しないスクリューピンを作成することができることが判明した。

山下 紗智子, 鹿児島大学歯学部, 4年生

骨形成タンパク質9(BMP9)は骨芽細胞におけるNotchエフェクター分子Hes1の発現を誘導する:その分子機構および機能的意義についての解析

骨形成タンパク質(BMP)は、骨形成能を有する一群のサイトカインであり、特にBMP9は、強い骨芽細胞分化促進能を有し、口腔領域を含めた骨再生療法への応用が期待されている。私達の研究室では、BMP9が骨芽細胞におけるHes1の発現を増加させることを最近明らかにした。Hes1は転写調節因子であり、Notchシグナルのエフェクター分子として知られる。マウス骨芽細胞株であるMC3T3-E1細胞、およびマウス初代培養骨芽細胞をBMP9で刺激し、Hes1のmRNAとタンパク発現量を調べると、周期的な発現パターンが誘導された。Notchの上流シグナル阻害剤およびBFAによる前処置は、BMP9によるHes1発現誘導に有意な影響を与えなかったことにより、BMP9は、Notchやその固有リガンドの発現誘導を介さずに、Hes1の発現を直接的に骨芽細胞内に誘導することが明らかになった。また、骨芽細胞の分化段階は、BMP9によるHes1の誘導に著明な影響を与えなかった。次に、siRNAを用いたHes1のノックダウン実験によって、骨芽細胞のBMP9反応性におけるHes1発現の機能的役割を解析した。

渡邊 輝, 奥羽大学歯学部, 4年生

頸神経ワナの位置測定による頸部郭清時の舌骨下筋群の保護

頭頸部のリンパ節転移に対して頸部郭清術を行うが、その術中、頸神経ワナの保護は術者によって異なっていた。そこで今回、頸神経ワナ保護のために周囲構造物との位置関係の測定を行った。測定方法は胸鎖乳突筋を利用する方法(1)、舌骨体中心部の高さと頸神経ワナのループ下端の距離、舌骨体から鎖骨と内頚静脈との交点の距離の割合を測定する方法(2)、総頚動脈の外頚動脈と内頚動脈との分岐点を利用して測定する方法(3)の3つとした。(1)では胸鎖乳突筋の上端から52~66%の範囲に交点が集中していた。これは胸鎖乳突筋切断時に上端から2/3より下方で切断すれば、損傷のリスクの低減が可能であると考えられる。(2)では舌骨体中心の位置から下方に約35㎜の地点、距離の割合で52.0±10.8%に頸神経ワナの下端が存在することを示した。これも切断リスクの低下に役立つと考えられる。(3)は頸神経ワナの位置を触診で推定できる利点があり、分岐点の下方、約40~64㎜の範囲に頸神経ワナのループの下端が存在していた。これらの結果を併用することで、頸部郭清時の頸神経ワナ切断のリスクを低下させ、患者のQOL向上に役立つと考えられる。

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