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2019 年 3 月 のアーカイブ

第24回大会

2019 年 3 月 10 日 コメントはありません

第24回大会 2018年(平成30年)8月24日 参加校26校

タイトルおよび発表内容要旨 (上位入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝/日本代表 – 基礎部門 第1位:阿部 未来, 北海道大学歯学部, 6年生

骨リモデリングとモデリングの骨芽細胞活性化における細胞学的相互作用
Cellular Interaction Activating Osteoblastic Bone Formation during Bone Modeling and Remodeling

【目的】骨リモデリングおよびモデリング部位における骨芽細胞活性化の機序を明らかにすることを目的として、破骨細胞・骨芽細胞間のカップリングが破綻しているc-fos遺伝子欠損マウス(c-fos-/-マウス:破骨細胞が存在しないマウス)と野生型マウスを用いて、骨芽細胞の活性化・骨形成を組織化学・微細構造学的に検索した。
【材料と方法】生後8週齢の野生型マウスとc-fos遺伝子欠損マウス大腿骨の一次骨梁(モデリング)と二次骨梁(骨リモデリング)において、カルセイン標識、ALPase,endomucin,EphB4,ephrinB2免疫組織化学、および、透過型電子顕微鏡観察を行った。
【結果と考察】野生型マウスとc-fos-/-マウスのモデリング部位では、ALPase陽性活性型骨芽細胞ならびにカルセイン標識が観察された。c-fos-/-マウスの骨リモデリング部位では、扁平なALPase弱陽性骨芽細胞は存在したが、カルセイン標識を認めなかった。一方、モデリング部位では、endomucin陽性骨特異的血管がEphB4を有しており、また、その周囲に局在する骨芽細胞はephrinB2陽性を示したことから、EphB4/ephrinB2による骨・血管連関が示唆された。従って、モデリング部位では破骨細胞ではなく骨特異的血管が骨芽細胞を活性化することが示唆された。

準優勝 – 臨床部門 第1位:山下 絵利子, 北海道医療大学歯学部, 5年生

歯周病原細菌の膵がん発症への関与
-関連遺伝子の同定と膵がん組織内での細菌叢解析-
Involvement of Periodontal Pathogenic Bacteria in the Development of Pancreatic Cancer – Identification of Related Genes and Analysis of Bacterial Flora in Pancreatic Cancer Tissues-

膵がんの発症には、慢性膵炎に加え、アルコールの消費や肥満などの環境要因も危険因子として関係している。歯周病と膵がんの関係を示す疫学研究があるものの、その分子機構は明らかにされていない。本研究では、P. gingivalisのLPS(PG-LPS)の全身投与がマウス膵臓に与える影響を網羅的に解析し、またヒト膵がん組織中の細菌叢解析を行なった。実験に際し動物実験センターの承認と倫理委員会の承認を得た。網羅的解析のデータから、PG-LPSで刺激した膵臓で発現量が最も高い10遺伝子のうち、膵臓がんに関連するregeneratingislet-derived 3G(Reg3G)遺伝子が認められた。Control群と比較してPG-LPS群ではReg3Gの発現が73倍であった。免疫染色でPG-LPS群のランゲルハンス島のα細胞部にReg3G陽性が認められた。ヒト膵臓がん組織の細菌叢解析から、種々の歯周病原細菌が検出された。これらの結果から、Reg3Gが歯周病関連膵がんに関与し、歯周病細菌が膵がん患者の血流を介して膵臓に達する可能性が考えられる。歯周病が膵がんの危険因子になり得ることが推察された。

臨床部門 第2位:中田 智是, 松本歯科大学, 4年生

溶血性を持つGemella属は歯周病の抑制と関連する
Novel Pharmacological Effects of Anti-bone Resorptive Drugs on Oral- and Immune-related Tissues

細菌には、赤血球を分解する溶血活性を有する菌種が存在し、重篤なヒト感染症との関連性が数多く報告されている。しかし、唾 液中の溶血性細菌の特性は、ほとんど明らかになっていない。本研究の目的は、溶血性細菌の特性を調べ、歯周疾患との関連性を明らかにすることである。唾液を血液寒天培地に塗布し、溶血帯の数を解析したところ、歯周病患者だけでなく健常者からも多くの強い溶血性を持つ細菌が分離された。16S rRNA塩基配列に基づく解析を行ったところ、溶血性を示す細菌の多くがGemella属であり、G. sanguinis , G. haemolysans , G. morbillorum の3種を同定した。また、定量的PCR法により、唾液中の各Gemella 属の存在比を定量したところ、歯周病患者に比べて健常者ではG. haemolysans が有意に高い割合で存在していることが示された。さらに、G. haemolysansと歯周病病原菌との関連性を調べるために、競合生育阻害実験を行ったところ、G. haemolysansP.gingivalis の生育を直接的に阻害することが明らかとなった。以上のことから、G. haemolysansは口腔内環境を正常(健康)に保つための重要な細菌種であることが示唆された。

基礎部門 第2位:西田 訓子, 昭和大学歯学部, 5年生

口腔と免疫関連組織に対する骨吸収抑制薬の新たな薬理作用
Hemolytic Gemella is Associated with Suppression of Periodontal Disease

ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体製剤(デノスマブ)などの骨吸収抑制薬は妊婦に禁忌とされているが、小児に対して制限はなく、骨軟化症治療などに用いられている。一般に小児は成人よりも薬物に対する反応が強く身体的変化が進行しているため、副作用や後遺症のリスクが高い。しかし小児に対する骨吸収抑制薬の薬理作用の詳細は不明であり、これは臨床上重大な問題である。そこで我々は、若齢マウスを用いて骨吸収抑制薬が成長や免疫に及ぼす影響について解明することを目的とした。1週齢時にゾレドロネートを投与したマウスでは、7週後(8週齢時)に身長と体重の減少が認められ、2週後(3週齢時)に歯根伸長阻害による歯の萌出障害と骨髄におけるB細胞(B220陽性細胞)の減少が認められた。一方、抗RANKL抗体を投与したマウスでは身長と体重に異常はなく、胸腺におけるCD4陽性細胞(T細胞)数の減少が認められた。以上の結果は、ゾレドロネートを小児に投与すると、身長・体重の抑制、歯の発生異常、および免疫異常が誘発される可能性があることを示している。また、抗RANKL抗体も免疫系に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。

青山 直樹, 東北大学歯学部, 5年生

下顎骨発生過程における破骨細胞の形態形成に関する研究

胎生期の骨発生における過去の研究の多くは骨芽細胞の役割に焦点を置いており、骨基質を吸収する破骨細胞に着目した研究は少なく、骨発生過程における破骨細胞の形態やその出現時期については未だ不明である。そこで本研究では、胎生13日~18日齢(E13d~E18d)のマウスを用いて、下顎骨発生における石灰化開始時期と破骨細胞の出現時期、さらに破骨細胞の核数や形態について検討した。Von Kossa染色により下顎骨の石灰化開始はE15dであることが明らかになった。骨が石灰化する前の時期であるE14dでは、小型のTRAP陽性細胞が認められた。E16d以降は、石灰化した骨の周囲に大型で多核のTRAP陽性細胞が見られた。E14dで検出されたTRAP陽性細胞のほどんどが単核であったが、E15dになると単核の細胞が減少し、多核の細胞が増加した。E17dでは、単核の細胞がさらに減少して、多核の細胞が大部分を占めた。本研究により、マウスの下顎骨発生における破骨細胞の出現は下顎骨の石灰化開始時期より早く、骨形成が進むにつれて小型で単核の破骨細胞の割合が減少し、大型で多核の破骨細胞の割合が増加することが示唆された。

上野 智也, 長崎大学歯学部, 6年生

骨肉腫においてRunx3はTGFβシグナルの下流で機能する「がん遺伝子」である

骨肉腫は間葉系細胞由来の悪性腫瘍で、若年層に多く発症が認められる。しかし、その発症機序はほとんど明らかになっていない。そこで我々は、骨芽細胞特異的p53遺伝子欠損マウスの解析から、骨肉腫の発症と進展は、p53非存在下で発現が亢進したRunx3によるc-Mycの過剰な発現誘導に起因することを見出したが、その発端となるRunx3の発現亢進メカニズムは不明のままであった。
腫瘍微小環境において、TGFβは悪性化因子として機能する。本研究で、骨肉腫細胞においてTGFβによってRunx3の発現が誘導され、その結果c-Mycの発現が亢進されることが明らかになった。Runx3転写開始地点から122kb上流にRunx3とSmad2/3の高い集積が認められ、ゲノム編集によりそこに変異を加えると、Runx3とc-Mycの発現亢進が抑制され、さらに骨肉腫細胞の造腫瘍能も抑えられた。
以上の結果は、骨肉腫においてRunx3はTGFβシグナルの下流で腫瘍化促進因子として機能することを明確に示している。なお、本研究は長崎大学動物実験委員会の承認を得て実行した(承認番号:1603151292-7)。

 

川上 紘佳, 九州歯科大学大学, 6年生

GDF10は骨格筋幹細胞分化を抑制する

骨格筋の萎縮は、要 支援・要介護の主要な原因である。また 疫学研究から骨格筋量が多いと様々 な疾病に対する罹患率が低下し、健 康長寿であることが明らかであるため、骨格筋の 萎縮を予防・ 治療することは超高齢社会のわが国にとって重要な課題である。GDF10(BMP-3b)はTGF-βスー パーファミリーに属するサイトカインである。GDF10は他のBMPと異なりTGF-βやActivinと同様に Smad2/3シグナルを活性化する。Myostatinに代表されるようにSmad2/3シグナルの活性化は骨格 筋分化を負に制御すると考えられるが、骨格筋代謝におけるGDF10の作用は全く不明である。そこで 今回、骨格筋の組織幹細胞であるサテライト細胞の分化におけるGDF10の作用を検討した。GDF10 の添加や過剰発現はサテライト細胞の細胞株であるC2C12細胞や初代 培養サテライト細胞において MyogeninやMyosin heavy chainなどの筋分化マーカーの発現を抑制したが、筋分化のマスター レギュレーターであるMyoDの発現には影響を与えなかった。そこでMG185ルシフェラーゼレポー ターアッセイを用いてMyoDの転写活性への作用を検討したところGDF10は活性を抑制した。よって GDF10はMyoDの転写活性を制御することでサテライト細胞の分化を抑制すると考えられる。GDF10 の抑制は骨格筋再生の重要な戦略になる可能性がある。

河村 崚介, 大阪大学歯学部, 4年生

細胞の成長と代謝を司るTORC1はセリン合成を直接制御する

細胞は栄養素をTORC1により厳密に感知している。栄養存在下でTORC1は自身のリン酸化酵素活性 化し、分解過程である異化作用を抑制すると同時に、同化作用(生体内高分子化合物の合成)を亢進することで細胞成長を促す。こうした栄養源に応じた増殖と成長の制御因子としての機能は真核生物において進化的に保存されている。一方で、栄養素がどのようにTORC1を活性化するのか、TORC1が何をリン酸化して細胞増殖と成長を促すのか、という最も重要な課題が残っている。上記背景をもとに、生化学的解析と細胞生物学的解析を組み合わせることにより酵母TORC1相互作用因子を探索した。その結果、セリン合成 経路の最も初期段階を触媒する酵素を同定した。この機能欠損はTORC1活性に影響がないこと、TORC1によりリン酸化されることから下流因子であると結論した。機能欠損株は TORC1阻害剤であるラパマイシンに感受性を示し、この感受性は培地にセリンを添加することで抑圧されたことからTORC1の阻害により増殖に必要な細胞内のセリン濃度を維持できないと考えられる。本研究により既知のタンパク質、脂質、核酸に加え、TORC1がアミノ酸の生合成を直接制御していることが明らかとなった。

木田 美沙希, 朝日大学歯学部, 3年生

高濃度カルシウム含有水のアルジネート印象材への適用を検証する

海外では炭酸を豊富に含んでいる水、あるいは高濃度ミネラル含有水(硬水)のような水を日常で使用している地域がある。本研究ではアルジネート印象材に対する硬水の影響について検討した。5種類(A-D)の硬水を選び、コントロールには水道水および純水を用いた。アルジネート印象材は硬化が変色で判断できる製品を選び実験に供した。メーカー指示に従い、硬化時間、弾性ひずみ、永久ひずみを測定した。
A-Dはコントロールに比べて脱色効果が早期に発現され、硬化を促進する作用があることが認められた。しかし、練和初期より着色が認められない練和水もあった。弾性ひずみの測定結果ではいずれの水も規格値である5-20%以内の値を示した。特にCa濃度が高いA,BではCont.1,2と比較して有意に値が大きかった。一方で、永久ひずみではISO規格で定められている95%以内の弾性回復に届かないものもあった。高濃度ミネラル含有の硬水を市販アルジネート印象材の練和液として検討した結果、軟水に比べて硬化が早まる傾向であること、弾性ひずみ、永久ひずみに影響を及ぼす可能性が高いことが示唆された。

工藤 千華子, 鶴見大学歯学部, 2年生

象牙質再生に向けたミダゾラムのドラッグ・リポジショニングの可能性

歯科治療において、ミダゾラム(MDZ)は主に麻酔導入・鎮静薬として用いられている。本研究では、近年創薬戦略として注目されているドラッグ・リポジショニングにおけるMDZの新規効用を見出すため、歯髄細胞に対するMDZの効果について調べた。ブタ切歯歯髄から調製した不死化細胞(PPU-7細胞)にMDZ単独、MDZとBMP2の併用、MDZとTGF-β1の併用の3つの投与群を通常培地および石灰化培地を用いて培養し、それぞれの投与群の細胞分化能についてはアルカリホスファターゼ(ALP)活性から、石灰化誘導能については石灰化沈着物のAlizarin Red S染色およびVon Kossa染色とカルシウム定量から比較した。さらに各種細胞分化マーカー遺伝子に対する定量PCR解析と石灰化沈着物中のタンパク質の電気泳動からどの細胞に分化傾向があるかを検討した。PPU-7細胞に対するALP活性およびカルシウム量はMDZ単独群が顕著であった。さらに石灰化沈着物中から象牙質リンタンパク質が検出された。MDZ単独で7日間培養したPPU-7細胞の遺伝子発現は、象牙芽細胞の遺伝子マーカーが、骨芽細胞および軟骨細胞の遺伝子マーカーより優位に上昇した。以上のことより、PPU-7細胞に対してMDZは象牙芽細胞分化を促進することが示唆された。

小瀬川 将, 岩手医科大学歯学部, 3年生

ヒト口腔扁平上皮癌細胞における上皮間葉転換調節メカニズムの解明

【問題点】ヒト口腔扁平上皮癌(hOSCC)細胞の上皮間葉転換(EMT)や間葉上皮転換(MET)を制御する分子メカニズムの詳細は明らかとされていない。
【仮説】hOSCC細胞以外の癌細胞では転写因子Sox9がEMTの誘導に深く関わることが知られている。一方、hOSCC細胞以外の癌細胞ではYAPやTAZにより活性化されるHippo 経路がEMTの誘導に深く関わることが知られている。そこで我々は、EMT関連転写因子としてのSox9やHippo経路エフェクターとしてのYAPならびにTAZがhOSCC細胞のEMTを正に調節するものと仮説を立て、その実証を試みた。
【方法】hOSCC 細胞としてHSC-4細胞株を用いた。mRNAの発現はRT-qPCR法、タンパク質の発現はウェスタンブロット法及び免疫蛍光法により解析した。
【結果】HSC-4細胞ではSox9、YAPならびにTAZの遺伝子ノックダウンにより、EMTマーカーであるN-カドヘリンの発現が減少し、METマーカーであるE-カドヘリンの発現が増加した。
【結論】hOSCC細胞のEMT誘導では、EMT関連転写因子Sox9の発現やHippo経路の活性化が重要な役割を担っていることが示唆された。現在、Hippo経路の活性化がSox9の発現誘導に関わるかどうかについて調査中である。

小林 徳子, 明海大学歯学部, 3年生

口腔癌におけるGlutathione Peroxidase Enzyme 4 (GPX4)の役割

ヒト口腔扁平上皮癌の臨床的な治療成果は徐々に改善しているが、患者の5年生存率はその開発に寄与した分子事象とこの疾患の病因の解明における限界に反して未だ落胆させられる。このように、口腔癌の発生を促進している分子メカニズムのより良い理解は、この疾患に対する新しい診断と治療アプローチを誘導し、ヒト口腔扁平上皮癌患者の予後を改善するかもしれない。腫瘍におけるGPX4の発現は、腫瘍の生存と正の相関があり、細胞増殖、運動性および組織再構築に関係している。ここで、GPX4の発現抑制は腫瘍細胞増殖による癌の進展を抑制することが報告されている。しかしながら、ヒト口腔癌におけるGPX4の影響は未だ明らかでない。そこで、本研究ではヒト口腔扁平上皮癌におけるGPX4の役割について検索した。この結果から、GPX4が口腔癌の増殖と進展に重大な役割を担っており、GPX4がヒト口腔扁平上皮癌において、将来性のある治療標的として役立つかもしれないことが示唆された。

佐伯 彩華, 福岡歯科大学, 5年生

口腔扁平上皮癌における癌スフェアー形成へのオートファジーの関与

口腔扁平上皮癌(OSCC)の少数の細胞群は、自己複製能をもつ未分化な癌幹細胞様細胞(CSCs)に酷似する。スフェアー形成試験は、幹細胞の自己複製能を利用したもので、CSCsの検出方法である。そこで、本研究は、OSCC細胞からの癌スフェアー形成をオートファジーが制御しているかを検討した。低接着性プレートに培養したOSCC細胞は、球状のスフェアーを形成した。LC3-II, beclin-1およびAtg5の発現がOSCCスフェアーで亢進した。autophagosomeの形成阻害剤である3-MAおよびCQ添加により、スフェアー形成は抑制された。STA3ノックダウンはスフェアー形成に関与するオートファジー経路への関連性は認められなかった。それに対して、pAMPKおよびpULK1発現がOSCCスフェアー形成では亢進し、さらにULK1ノックダウンによりスフェアー形成が抑制された。以上の結果から、自己複製能によるOSCCスフェアーの形成は、STAT3非依存性のオートファジーにより制御される。AMPK/ULK1経路がオートファジー誘導性の癌スフェアー形成に関与する可能性が示唆された。

佐藤 祐太郎, 東京歯科大学, 5年生

ビルベリー抽出物の歯周病原性菌に対する抗菌作用

歯周病原性細菌は歯周炎の発症に関わるのみならず他臓器の疾患に関わり全身の健康に影響を及ぼすことが示されている。感染症の病原体に対しては通常抗菌薬が使われるが、歯周炎の様な長期経過をとる慢性疾患においては耐性菌の出現等の問題により使用に困難な点がある。本研究では、ビルベリー果実から歯周病原性菌を駆除する物質の抽出・精製を試みた。始めに、ビルベリー抽出物のPorphyromonas gingivalisへの増殖阻害活性を測定した。その結果、抽出物に阻害活性を認めた(EC50 = 90μg/mL)。さらに我々は、抽出物を精製し薄層クロマトグラフィー上で単一のスポットとなるフラクションについて、P. gingivalisに対する増殖阻害活性とヒト歯肉ガン由来の細胞Ca9-22に対する細胞毒性を検討した。その結果、同精製物の増殖阻害活性はEC50 = 11μg/mLであり、細胞毒性はLC50 = 82μg/mLであった。これらの事からビルベリー抽出物には歯周病原性菌を駆除する化合物が含まれる事が示唆された。本大会ではビルベリー果実からの抽出、精製、増殖阻害活性測定と細胞毒性測定までの流れについて発表する。

篠木 大輔, 奥羽大学歯学部, 4年生

下顎骨における神経分布の分析

歯科では顎骨において侵襲的な手術が行われているが、下顎骨における神経分布を組織学的に研究した報告はない。ウイスター系ラットの下顎骨から組織切片を取り出すことができれば、PGP(protein gene product)および CGRP(calcitonin gene-related peptide)抗体による染色で、それぞれ、全神経と知覚神経の下顎骨における分布を測定することが可能となる。
動物から組織を摘出して組織標本を作成した後、歯槽頂から下顎管までの標本を数か所の部位に分けた。PGP陽性神経とCGRP陽性神経における神経分布密度を顕微鏡下に計測した。統計処理にはカイ二乗検定を用い、危険率5%未満を有意差ありとした。PGP陽性神経およびCGRP陽性神経の両者において、垂直的には歯槽頂から下顎管に向かって神経数は増加し、水平的には骨膜側から歯根膜側に向かって神経数は増加した。
外科的侵襲が下顎管や歯根膜に向かって深くなるにつれて、痛みは増加するものと思われる。したがって、十分な局所麻酔薬の浸潤が必要であるとともに、必要に応じて伝達麻酔や歯根膜麻酔の併用が求められる。

柴﨑 慎司, 新潟大学歯学部, 6年生

ヒト乳歯歯髄幹細胞維持に必要なfeeder細胞の作製

組織幹細胞は再生医療研究には重要な素材であるが、長期培養によりその分化多能性が低下する。そこで本研究では、歯髄幹細胞を含むヒト乳歯歯髄細胞(HDDPCs)に幹細胞の増殖に有効と期待される様々な成長因子遺伝子を導入した組換え細胞を作製し、それがfeeder細胞として初代 HDDPCs培養細胞の長期維持に有効かを検討した。遺伝子導入の効率が高いとされるpiggy Bac (PB)トランスポゾン系プラスミドベクターにヒトLIF、BMP4、FGF2遺伝子および抗生物質耐性遺伝子を搭載したPBベクターを作製した。さらに細胞の持続的維持のために、ヒトパピローマウイルスの初期遺伝子(E7)を配したPBベクターを作製した。これらのPBプラスミドをHDDPCsへ共遺伝子導入し、1週間抗生物質存在下にて培養維持し、生存した細胞を株化した。この細胞株は、4時間のmitomycin C処理により細胞分裂を止めヒトfeeder細胞とし、この細胞上に別患者から採取した初代培養細胞を播種した。長期培養HDDPCsと比較してヒトfeeder細胞上でのHDDPCsは増加が早く、また、長期培養後の分化多能性も維持されていた。本研究で樹立したヒトfeeder細胞は、初代HDDPCs培養細胞以外にも他組織由来の幹細胞などの培養維持にも有用と考えられ、今後の幹細胞研究に大いに寄与すると考えられる。

城山 佳洋, 大阪歯科大学歯学部, 4年生

セルロースナノファイバーはグラスアイオノマーセメントの強化に応用できるか

グラスアイオノマーセメント(GIC)は優れたフッ化物イオン溶出能や生体親和性、歯質接着性等の利点を有し、近年提唱されている齲蝕への生物学的アプローチに必要不可欠な材料である。しかし、金属やコンポジットレジンと比較して機械的強度が劣る。そこで我々は、軽くて強く、低い熱膨張性、高い透明性および生体親和性を有するセルロースナノファイバー(CNF)をGICの補強材とすることに着目した。しかし、CNFをGICに均一に分散させて添加できるか否かも不明であった。そこで本研究は、まずCNFをGICに添加できるか否かを検討し、次にCNFはGICの利点を損なうことなく機械的強度を向上できるかを検証した。
その結果、従来型GICガラス粉末に対して約5%に相当するCNFを添加したGICの作製が可能であった。そのCNF添加GICは、CNFを添加しなかった従来型GICと比較して、曲げ強さのみならず圧縮強さも有意に向上し、さらにGICの利点であるフッ化物イオン溶出能を低下させないことが明らかとなった。以上の結果より、CNFは従来型GICの補強材として有効であることが示唆された。

辻 菜々, 岡山大学歯学部, 4年生

感染症発生動向調査を用いたB型肝炎と歯科診療の関連症例調査

昨年、約半数の歯科診療所が治療用器具を患者に使いまわしをしているとして院内感染の可能性が指摘された。しかし、歯科治療におけるB型肝炎ウイルス感染と考えられる症例数を証明する資料はほとんどなかった。
そこで、以下の方法で急性B型肝炎患者のうち、歯科治療を受けたことが感染の原因の一つとして考えられる症例がどのくらい存在するかを調べるとともに、抽出された症例について時・場所・人の要素を中心に記述疫学的にまとめた。
2007年~2016年の感染症発生動向調査の結果を用いて歯科治療による感染の可能性がある症例を抽出した。急性B型肝炎として診断された患者のうち、キーワード検索「歯」を行い、受診病院名に「歯」が含まれる症例、明らかに歯科とは関係のない症例を除き、残ったものを歯科治療がB型肝炎と関連する可能性がある症例として抽出した。
抽出した結果、症例数は10例に及び、うち1例は歯科衛生士が職場で感染した可能性があった。また、男女比、年齢がB型肝炎患者全体の平均よりも高齢かつ女性の比率が高く、歯科受診者の傾向に似ていることが分かった。
以上より、歯科診療はB型肝炎に関連している可能性があると考えらえる症例が見つかった。

照井 博久, 日本大学松戸歯学部, 5年生

CAD/CAM冠用の試作GFRPに関する実験的および解析的な特性評価

ハイブリッドレジ ンブロックによる 小臼歯用 CAD/CAM冠が2014年に健康保険に適用された 。しかし、そのようなCAD/CAMハイブリッドレジンの臨床成績はセラミックスや合金などのCAD/ CAM材料に比べて劣ることが知られている。そのため、レジン系CAD/CAM材料はさらなる開発と調査が必要となる。本研 究の目的は、CAD/CAM冠に使 用するため、グラスファイバーとポリカーボネートからなる実験用グラスファイバー強化型プラスチック(GFRP)を試作し、一般的なCAD/CAM 材料と比較して、その物理的・機械的特性を評価することである。ファイバー強化材は補強効果があるため、曲げ試験により得られたGFRPの曲げ特性は、CAD/CAM冠用の一般的なハイブリッドレジンの特性(文献値)に比べて大きかった。さらに、有限要素解析によるコンピューターシミュレーションの結果は、CAD/CAMハイブリットレジン冠は他のCAD/CAM材料(GFRP、セラミック)に比べて、支台歯において高いフォンミーゼス応力を引き起こすことを示した。実験およびコンピュータ解析の両面から得られた結果より、グラスファイバーとポリカーボネートから構成される試作GFRPはハイブリットレジンに比べて優れた機械的特性を有し、CAD/CAM冠として臨床応用可能であることが示唆 された。

二階堂 修, 日本歯科大学生命歯学部, 4年生

学生教育における側面セファログラムの計測精度と計測方法の違いに関する検討

矯正歯科治療において側面頭部X線規格写真における計測点の精度は正確な診断を立てる上で重要で、歯学部生においても歯科矯正学の授業や実習のカリキュラムの一環としてセファロ分析が組み込まれている。しかしこれまで歯科矯正学の専門教育を受けたものがセファロ分析の精度の検証の対象者であることが多く、専門教育を受けていない学生が対象となる研究は少なく、セファロ分析において教育に左右されず誤差が出やすい計測項目は調べられていない。本研究では専門教育を受けていない学生がセファロ分析を行うことで、セファロ分析の精度向上や効率的な教育方法の考案への寄与を目的とした。
歯科矯正学を学んでいない学生30人により、5症例のセファロ分析を行い20種類の計測項目の計測者間誤差を求めた。また選択した10人が行った従来の方法による分析をアナログ群、セファロ分析ソフトによる分析をデジタル群とし、各群の計測者間誤差を統計学的に比較した。骨格系より歯系の計測項目が統計学的に優位に大きい計測者間誤差を示すとともに、デジタル群にて誤差が小さく、専門教育を受けていない歯学部生におけるセファロ分析ソフトを使用した教育の有効性が示唆された。

野口 幸恵, 鹿児島大学歯学部, 4年生

転写因子Egr-1(Early Growth Response Protein 1)は骨形成因子(BMP9) による骨芽細胞分化誘導に重要な役割を果たす

骨形成因子(BMPs)は強い骨再生促進作用を有するサイトカインファミリーであり、歯周病に対する歯槽骨再生や骨折治癒の促進のための骨再生療法への臨床応用が期待されている。BMP-9はBMPファミリーの中でも特に強い骨芽細胞分化誘導作用を有することが報告されているが、その作用分子機構の詳細には未だに不明な点が多い。私達の研究室では、骨芽細胞のBMP-9刺激によって、転写因子であるEgr-1の発現量が著明に増加することを最近見出した。今回、骨芽細胞前駆細胞MC3T3-E1のBMP-9刺激を行った結果から、骨芽細胞前駆細胞に分化誘導を行うことによりEgr-1の発現量は一過性に増加することを示した。また、作成したEgr-1特異的なsiRNAのMC3T3-E1細胞への形質導入に
より、BMP-9によるEgr-1タンパクの発現誘導は著明に抑制され、同時にBMP-9刺激によって誘導される骨芽細胞分化マーカーの発現レベルは著しく減少した。この結果から、Egr-1の発現誘導はBMP-9の骨芽細胞分化作用において重要な役割を果たすことが明らかになった。Egr-1の発現量の経時的な変化により骨芽細胞分化能を調節することができれば、新たな骨再生療法の開発に有用となる可能性がある。

藤原 由, 日本大学歯学部, 5年生

歯肉上皮細胞の短鎖脂肪酸誘導細胞死および関節リウマチ誘導因子の放出には活性 酸素産生が必要である

関節リウマチ(RA)は関節の骨吸収と強い痛みを伴う自己免疫疾患である。歯周疾患が本疾患発症に関与している可能性が示唆されているにも関わらず、その分子的・生物学的な説明は殆どされていない。これまで、歯垢細菌が産生する短鎖 脂肪酸のうち4種が歯肉上皮細胞の細胞死を誘導し、それに伴いRA誘導因子が放出されることがわかっている。しかしながら、この細胞死が起こるメカニズムは不明である。私はRAおよび歯周疾患発症には活性酸素種が重要であることから、短鎖脂肪酸誘導細胞死には活性酸素種が重要であると考えた。そこで本研究では、短鎖脂肪酸誘導の細胞死とRA誘導因子の放出には活性酸素種が重要である可能性を検討した。その結果、細胞死を誘導した4種の短鎖 脂肪酸は活性酸素種の産生を増強し、産生された活性酸素の消去は短鎖脂肪酸誘導の細胞死およびRA誘導因子の細胞外放出を抑制することが分かった。以 上のことから、歯垢細菌の産生する短鎖脂肪酸による細胞死およびRA誘導因子の放出には活性酸素種の産生が重要であることが示された。この結果により、歯周疾患が関連するRA発症の予防には活性酸素の消去が重要である可能性が示唆された。

丸山 茉耶, 日本歯科大学新潟生命歯学部, 2年生

赤外線サーモグラフィーにより唾液腺マッサージの効果を評価できるか?

口腔乾燥の対策として、唾液腺マッサージが有効とされ介護予防教室などで指導されるようになってきた。しかし、そのマッサージ効果を評価する方法は確立されていない状況にあり、客観的かつ簡便にマッサージ効果を評価できる方法があれば、高齢者自身も効果を実感しやすいと考えられた。そこで、私たちは非侵襲的に生体を観察でき、結果をイメージとして理 解しやすい赤外線サーモグラフィーに着目し、事前に頬部冷却を実施した後に、赤外線サーモグラフィーと携帯型NIRS(近赤外線組織酸素モニタ)で測定を行い、それがマッサージ効果の評価方法として活用できる可能性について検証した。その結果、サーモグラフィー熱 画像の観察結果からは、冷却による変化域中央に温度変化中心点が存在し、同部が血行改善に向けてマッサージを実施する場合のターゲットになると推察された。また、温度回復時間の平均値は、対象者全員でマッサージ実施の方が非実施より短縮していた。NIRSによる深部測定結果とも類似した傾向が確認できた。これら結果から、今回試みた方法により唾液腺マッサージ効果を評価できる可能性を確認できた。

村上 知徳, 広島大学歯学部, 5年生

グラミシジン穿孔パッチクランプ法により表出される唾液腺腺房細胞Cl-分泌の律速 分子活性

糖尿病モデル動物では唾液腺房細胞でのSGLT1(ナトリウム-グルコース共輸送体1)の発現が減少することが報告されている。そこで、SGLT1が唾液分泌減少に関与しているのではないかと考えた。コラゲナーゼ処理により単離したマウス顎下腺腺房細胞にグラミシジン穿孔パッチクランプを行いCl-電流の記録を行った。グラミシジン穿孔後に副交感神経作動薬のカルバコールで刺激を行い、その後ブメタニド(Na+/K+/2Cl-共輸送体阻害剤)もしくはフロリジン(SGLT1阻害剤)を投与し、カルバコール刺激により誘発されるCl-電流に対するブメタニドやフロリジンの効果を調べた。結果としてカルバコールで誘発された振動性のCl-電流はブメタニドの添加により抑制された。また、カルバコールによる刺激時には振動性のCl-電流が見られたが、その後のフロリジン+カルバコール刺激ではCl-電流の反応が消失した。以上より、SGLT1により細胞内に取り込まれるグルコースがNa+/K+/2Cl-共輸送体を通して細胞内に流入しCa2+依存性Cl-チャネルを通して流出するCl-の流れに何らかの関与をすると考えられた。

山木 大地, 九州大学歯学部, 5年生

複数のモダリティからの顔面3次元形状データの相同モデル化と顎変形症治療評価への応用

下顎前突症などの顎変形症患者に対しては、通常顎矯正手術が適応となる。その形態評価は軟組織を中心に行うのが望ましいが、軟組織の正確な形態評価は困難であり、さらに顔貌全体の評価法は確立していないのが現状である。また、術前後の評価にはCTがよく用いられるが、被曝を伴うという問題点があった。そこで、以下の仮説を立て検証を行った。
(A)3D画像撮影解析装置(以下3Dカメラ)で採取した顔貌3次元データは、同一人物のCT画像の顔貌データの代用となるのではないか。
対象は下顎前突症の患者5名とした。支援ソフトにて各対象患者のCTの顔貌データと3Dカメラの顔貌データの面間距離を測定し、同一被検者内での誤差が少なかった12点間の距離を測定した。顔貌データ全体の面間距離の5つの平均値は0.856mm±0.211mmであり、12点の距離はほとんどの部位で2mm未満であったことから、CT画像の表面データと比較することは可能であると考えられた。
(B)相同モデル化した顔貌データでの統計的解析により顎変形症の治療評価に応用できる新たな軟組織評価が確立できるのではないか。
対象は健常者10名と下顎前突症の女性患者10名とした。相同モデル化した顔貌データを用いて健常者と術前患者、健常者と術後患者で統計解析ソフトによる主成分分析を行った。健常者と術前患者では第1主成分と第2主成分に有意差(p<0.05)が見られた。さらに、術後患者では概ね健常者の顔貌に近づいており、顎変形症の治療評価にも有用であることが示唆された。

吉田 幸司, 徳島大学歯学部, 5年生

オンデマンド剥離可能なスマート歯科用セメントの開発
-イオン液体の種類が接着特性に与える影響-

近年、歯科用セメントの接着力向上により被着物の脱離リスクが減少した反面、再治療時の被着物除去の際に、健全歯質の削合量増大や歯根破折のリスク増大が懸念される。この相反の解決には、強固な接着力を示しつつ、オンデマンドで接着力が大きく減少するスマートなセメントが必要である。本研究ではこれまで、歯科用グラスアイオノマーセメント(GIC)にイオン液体を添加すると、通電によって接着力の減少が可能となることを明らかにしてきた。今回は、異なるイオン液体をレジン添加型GICに添加したセメントを3種類試作し、その接着力と通電特性を調べた。
その結果、イオン液体の種類によって試作セメントの電気伝導特性に差異が生じるため、接着力低下に必要なイオン液体濃度が異なることがわかった。しかし、いずれのイオン液体でも濃度を最適化すれば、元のセメントと同程度の接着力を維持しつつ、通電によって接着力の有意な減少が可能であり、イオン液体の種類は問わない可能性が示された。今後、生体安全性が十分高いイオン液体が開発されれば、それを用いたスマート歯科用セメントの実用化が可能と期待される。

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