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2015 年 5 月 のアーカイブ

第20回大会

2015 年 5 月 17 日 コメントはありません

第20回大会 2014年(平成26年)8月20日 参加校28校

タイトルおよび発表内容要旨 (上位入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝/日本代表 – 基礎部門 第1位:道家 碧,昭和大学歯学部,6年生

歯周病原細菌の産生するヌクレアーゼの解析

歯周病は、プラーク中の歯周病原細菌によって引き起こされる炎症性疾患である。歯周病原細菌は、宿主の免疫防御を回避して定着し、歯周病の病態の成立に関与している。
好中球から産生されるn e u t r o p h i l e x t r a c e l l u l a r t r a p s (N E T s)というD N Aやヒストンからなる網目状の細胞外構造体が病原微生物を捕捉し、排除を担うという自然免疫システムが報告された。歯周病原細菌が最初に直面する歯肉上皮においてもこのN E T sが形成されている。我々は、歯周病原細菌が細胞外に分泌するn u c l e a s eがN E T sを分解し、宿主の免疫防御を回避して、細菌の定着を可能にしているのではないか、という仮説を立てた。そこで、本研究では、まず歯周病原細菌のn u c l e a s e 産生能を調べ、n u c l e a s e 活性をもつP r e v o t e l l a i n t e r m e d i a のゲノムデータベースからn u c l e a s eホモログ(n u c D )を見出し、組換えタンパク質を用いて酵素学的性質を解析した。その結果、組換えタンパク質のn u c l e a s e 活性にはM g2 +とC a2 +が必須であり、一本鎖D N A、二本鎖直鎖D N A、二本鎖環状D N Aの分解活性が認められた。加えて、ヒト好中球から誘導したN E T sの分解活性を検討した。以上の結果から、P . i n t e r m e d i a はn u c l e a s e 活性によりN E T sの防御機構を回避する可能性が示唆され、他のn u c l e a s e 活性をもつ歯周病原性細菌も同様の機構を持つことが示唆された。

準優勝 – 臨床部門 第1位:神田 舞,日本大学歯学部,5年生

OCTを用いたバイオアクティブガラス含有歯磨剤がエナメル質の脱灰に及ぼす影響の検討

口腔内において、歯質は脱灰と再石灰化を繰り返しながら平衡状態を保っている。もし、この平衡状態が崩れて脱灰傾向が強くなると、結果的に齲蝕を形成する。近年、歯質の脱灰抑制効果を有するとされるバイオアクティブガラス含有歯磨剤が開発され、齲蝕抑制効果に期待がもたれている。しかし、この歯磨剤に関しては、市販から間もないこともあり効果の詳細については不明な点が多い。そこで、バイオアクティブガラス含有歯磨剤がエナメル質の脱灰抑制に及ぼす効果について、光干渉断層法 (O C T)を用いて検討した。
その結果、O C Tで得られたシグナルピーク強度ならびに1 / e2における波形の幅の変化は、コントロール群で実験期間の変化が認められなかったのに対して、バイオアクティブガラス含有歯磨剤塗布群では実験開始の7日間で大きく変化し、その後わずかに変化する傾向を示した。以上のように、本実験の結果から、O C T 装置を用いることによってバイオアクティブガラス含有歯磨剤の有する再石灰化および脱灰抑制効果を確認することができた。また、再石灰化能を有する口腔ケア用品を使用することによって、口腔環境の健康を維持および増進することが可能であることが示唆された。

基礎部門 第2位:本池 総太,広島大学歯学部,6年生

間葉系幹細胞集塊c l u m p s o f M S C / E C M c o m p l e xを用いた新規再生治療法開発

M e s e n c h y m a l s t e m c e l l s(M S C s)は多分化能を有し、組織再生治療法への応用が期待されている。私たちの研究室では、これまでにMSCs 自身が産生する細胞外基質(ECM)を利用して三次元的人工細胞集塊clumps of MSC/ECM complex(C-MSCs)を作成した。C-MSCsは細胞集塊の状態での培養が可能であり、人工の足場材料を用いることなく欠損組織へ移植できることが示された。
さらに、分化の方向性が移植部周囲の環境に影響されてしまうM S C sにとって、e x v i v oでその分化程度・細胞機能を制御することができれば、目的にあわせてより効率的な治療効果をもたらすことが可能になると考えた。本研究では、ex vivoにおいてC-MSCsの骨分化能、免疫調節能を制御し、新規細胞治療法としての有効性を評価することを目的とした。
1)骨分化誘導培地にてC-MSCsを培養し、Osteopontin mRNA 発現量、Alkaline phosphatase 活性、カルシウム含有量について分析を行ったところ、いずれも有意な上昇がみられた。
2)C-MSCsをIFN-γで刺激し、抗炎症性サイトカインIL-10および免疫抑制性酵素indoleamine 2,3-dioxygenase(IDO)の産生量を測定したところIL-10の時間依存的増加とIDOの時間、濃度依存的増加が認められた。
以上の結果から、C-MSCsは治療用途にあわせてex vivoで骨分化能、免疫調節能を制御できる、より効率的な新規細胞治療法となりうることが示唆された。

臨床部門 第2位:三上 優,大阪歯科大学,5年生

睡眠中のアロマテラピーはS I g Aの分泌促進と唾液中細菌数の減少を促進する

睡眠時には唾液分泌量が減少するので、齲蝕や歯周病の発症頻度が上昇すると考えられている。一方、アロマテラピーは免疫強化作用や唾液分泌促進作用があることが知られていることから、本研究では睡眠時の口腔環境の改善を目的として、睡眠時に用いることができる唾液採取器の開発を試み、アロマ適用が睡眠時の唾液の抗菌作用にどのような成果があるかを検討した。アロマ非適用時では、唾液中のα-アミラーゼ活性は入眠時よりほとんど変化はなかったが、S I g A 濃度は徐々に増加し起床時に最大値に達した。一方、アロマ適用によって睡眠の深度に影響はなかったが、α-アミラーゼ活性およびS I g A濃度が顕著に増加し、総細菌数の増加は抑制された。以上の結果から睡眠中にアロマを適用すると、唾液による細菌の増殖抑制効果が上昇することが明らかとなり、歯科疾患の予防効果がある事が示唆された。また今回開発した唾液採取器は極めて有用であることがわかったので、今後はアロマの種類および上記以外の抗菌因子についても検討を重ね睡眠中の口腔環境の向上に寄与できると考える。

赤松 由佳子 大阪大学歯学部, 4年生

トリセルラータイトジャンクションを介した化膿レンサ球菌の上皮バリア突破機構

化膿レンサ球菌はヒトの咽頭炎や扁桃炎の起因菌として知られるが、時として、致死性の高い劇症型レンサ球菌感染症を惹起する。化膿レンサ球菌が劇症型レンサ球菌感染症を発症させるためには、物理バリアである上皮細胞層を突破する必要がある。本研究では、化膿レンサ球菌がプラスミノーゲン存在下において、3つの細胞の角が接するトリセルラータイトジャンクションから上皮バリアを突破することに着目し、その分子メカニズムを解析した。トリセルラータイトジャンクションの主な構成分子であるトリセルリンとプラスミノーゲンの結合は、表面プラズモン共鳴解析で検討した。その結果、プラスミノーゲンはトリセルリンの細胞外ドメインと結合することを確認した。また、化膿レンサ球菌は表層タンパクであるエノラーゼとプラスミノーゲンの相互作用を介してトリセルリンに結合することをE L I S A 法で証明した。さらに、エノラーゼ変異体はトリセルラータイトジャンクションへの局在が観察されなかったことから、化膿レンサ球菌はエノラーゼとプラスミノーゲンの結合を介してトリセルラータイトジャンクションに局在し、この領域から上皮バリアを突破することが示唆された。

東根 まりい, 岩手医科大学歯学部, 3年生

上顎洞底挙上術の解剖学的リスクファクター -動脈-

上顎臼歯部で骨吸収が著しいケースに対するインプラント埋入手術に必要な骨の厚みを増成する上顎洞底挙上術ではシュナイダー膜を洞底から剥離、挙上するが、上顎洞内に分布する血管の詳細な報告はほとんどない。上顎洞粘膜に分布する動脈は4 種類あり、全て顎動脈の枝である。上顎洞内側壁から蝶口蓋動脈の枝、下行口蓋動脈の枝、後方から後上歯槽動脈、上壁と前壁から眼窩下動脈の枝であった。解剖実習で使用したご遺体1 0 体2 0 側の上顎洞外側壁で血管分布を検索した。後上歯槽動脈は歯槽孔より上顎洞内に入り、前方に向かって走行し、眼窩下孔付近の孔から侵入した眼窩下動脈の枝または前上歯槽動脈の枝と吻合していた。上顎洞底からの高さは平均6 . 2 ㎜( 2-9 ㎜)であった。この上顎洞外側壁を前後方向に走行する動脈は現時点では和名はつけられておらず、古い文献にM a l a r a r t e r yが記載されていたが、現在の教科書には記載がない。一方、上顎洞底挙上術が一般化され、それに伴い、1 5 年前にA l v e o l a r a n t r a l a r t e r yと命名されたが和名はない。私は歴史的にM a l a r a r t e r y という名称の復活を推奨したい。

内野 加穂, 長崎大学歯学部, 5年生

リクイリチゲニンによる破骨細胞形成抑制効果

【問題点】現在使用されている代表的な骨代謝治療薬は、ビスフォスフォネート製剤やエストロゲン製剤などであるが、これらは副作用が強く、副作用の少ない新しい予防薬・治療薬が求められている。
【仮説】我々は副作用が少なく強力な破骨細胞抑制活性を持つ天然化合物に着目しており、以前、抗炎症・抗酸化作用を持つ生薬、黄連に含まれるベルベリンが破骨細胞形成を抑制することを報告した。本研究では同様に抗炎症・抗酸化作用を持つ甘草に含まれるリクイリチゲニンに破骨細胞形成抑制作用があるのではないかと考え、実験を行った。
【方法】マウスより採取した骨髄細胞をM – C S FとR A N K Lで刺激する系を用いた。T R A P 染色により多核破骨細胞の形成を、細胞増殖試験により細胞増殖能を評価し、ウエスタンブロッテング法を用いて破骨細胞のマーカー蛋白の発現とR A N K L 刺激後のシグナルの活性化を比較した。
【結果】リクイリチゲニンは、主にR A N K L 刺激後のIκBαのリン酸化を阻害することでマウス骨髄細胞の破骨細胞形成を濃度依存的に抑制したが、破骨細胞に対する細胞毒性は認められなかった。
【結論】リクイリチゲニンは細胞毒性が極めて低く、比較的強い破骨細胞抑制活性を持つことが示唆される。

恵谷 陽介, 神奈川歯科大学, 4年生

新規生物学的歯内療法の開発に関する基礎研究

【目的】歯内療法の理想的治癒形態は根尖部の硬組織被蓋である。本研究は、M i n e r a l t r i o x i d ea g g r e g a t e(M T A)セメントを用いて、根尖歯周組織に存在する細胞の硬組織誘導を制御することによって生物学的に治癒可能な新規歯内療法を開発することを目的とした。
【材料と方法】MTAセメントの規格試料片を作製後、ヒトセメント芽細胞(HCEM)、ヒト歯髄細胞(HPulp)およびヒト歯根膜細胞(H P L C)と2 4~9 6 時間の共培養後に細胞を回収した。回収後の各細胞は、定量R T―P C R 法を用いてB o n e S i a l o p r o t e i n (B S P), O s t e o c a l c i n (O C N), A l k a l i n e p h o s p h a t a s e( ALP)の発現について解析を行った。
【結果】すべての供試細胞は、2 4時間後にB S P , O C N 発現が最大になることが示され, 石灰化組織(骨またはセメント質)の形成能力が確認された。また、A L P 発現上昇によりリン酸カルシウムの析出による硬組織形成誘導が促進される可能性が示唆された。
【考察】M T Aセメントは、根尖部歯周組織に存在するH C E M、H P u l p、H P L Cの分化誘導を促進し根尖孔封鎖時の硬組織誘導に関与する事が示された。

大山 剛平, 岡山大学歯学部, 4年生

舌苔スコアと口腔内アセトアルデヒド濃度の関係

アセトアルデヒドの発がん性が指摘されている。一方、口腔常在菌がアルコールやグルコースを代謝しアセトアルデヒドを産生すること、また、1日のブラッシング回数が多い人ほど上部消化管がん発症のオッズ比が低くなることが報告されている。しかし、実際のヒトの口腔内アセトアルデヒド濃度と口腔衛生状態との関係については明らかになっていない。
本研究では、口腔衛生状態が不良であると口腔内アセトアルデヒド濃度が高い、という仮説を設定し、口腔内アセトアルデヒド濃度と舌背表面の細菌数、舌苔の付着範囲、口腔内状態、生活習慣、アルコール代謝能力との関係を調べた。
その結果、舌苔の付着範囲が大きい者ほど口腔内アセトアルデヒド濃度が有意に高かった。また、1日のブラッシング回数が2 回以上の者のほうが、1 回の者と比較して口腔内アセトアルデヒド濃度が有意に低かった。一方、歯垢の付着状態など、その他の指標との関連は認められなかった。
以上より、口腔内アセトアルデヒド産生の主な原因は舌苔中の細菌であり、アセトアルデヒドの産生を減少させるためには、ブラッシングに加えて舌苔を除去することが重要であることが示唆された。

木村 太一, 松本歯科大学, 4年生

江戸時代の出土歯と現代日本人の比較解析

4000本を超える人間の歯が寺院の骨堂跡と思われる場所から出土した。これらの歯は同場所から出土した貨幣などより江戸中期の歯と推定される。
江戸時代の食生活は現代と異なり居住地域や階層により相違があった。主に米や粟、稗などの穀物が中心であったが、その反面、現代の食生活は多種の食品によって成り立っている。
我々は、食物の物理的性質の違いが現代と江戸時代の歯の構造や形態に反映されているのではないか、という仮説を立てた。また、江戸時代の平均寿命は現代より短かったため、歯が物理的刺激を受け、第三象牙質が形成される機会が少なかったと思われる。反面、江戸時代のヒトの口腔内は現代人に比べて衛生状態が不良であると想像され、第三象牙質の成因となる齲蝕の罹患率が増加しうる環境となっていたと推察される。これらの仮説をもとに江戸時代の歯と現代の歯の歯髄腔の形態比較や体積比をもとめ、比較解析を行った。
結果、江戸時代と現代人の違いは歯の内部構造に大きな影響を及ぼしていないという結論に至ったが、この結果からはサンプル数が少なく断定的なことをいうことはできず、今後はサンプル数を増やし確実なデータとする必要がある。

倉澤 馨, 東京歯科大学, 4年生

象牙芽細胞における細胞外H+ 感知機構: Gタンパク質共役型H+ 受容体は細胞外C a2 + 濃度依存性を示す

象牙芽細胞は様々な侵害刺激を受容し、第三象牙質・反応性象牙質を形成する。象牙質齲蝕により象牙細管が口腔へ露出すると、齲蝕原因菌が象牙細管内に侵入し、産生した酸が象牙質を脱灰する。本研究は、象牙芽細胞の細胞外H+ 受容タンパク質に着目し、象牙芽細胞機能を駆動する細胞内Ca2 + シグナル伝達の解明を目的とした。実験にはマウス由来の象牙芽細胞系細胞を用いた。細胞外刺激に対する細胞内Ca2 + 濃度 ([Ca2 + ]i) 変化は、fura-2を用いて記録した。細胞外Ca2 + 存在下と非存在下でのH+ 刺激は、[Ca2 + ]iを一過性に増加し、H+ 依存性を示した。pH 7 .0 – 6 .0の範囲における [Ca2 + ]iの変化は、Ca2 +の存在下・非存在下で変化は見られなかったが、pH 5 .5以下の刺激による[Ca2 + ]iの変化は、Ca2 + 非存在下で有意に増加した。Ca2 + 非存在下でのcyclopiazonic acidは、pH 5 .5による[Ca2 + ]iの増加を有意に抑制した。
同様にCa2 + 非存在下でのdantroleneは、pH 5 .5による[Ca2 + ]iの増加を有意に抑制した。牙質石灰化前線における細胞外Ca2 + 濃度の増減が、象牙芽細胞のH+ 刺激による[Ca2 + ]iの増加に対するフィードバック機構となることを示している。象牙質表面へのH+ 刺激は、象牙芽細胞のH+ 受容体で感知され、Ca2 + 濃度依存的なCa2 + 輸送が生じる結果、第三象牙質形成が促進することが示唆される。

後藤 達哉, 日本歯科大学生命歯学部, 4年生

歯原性腫瘍の3次元組織構造解析

歯原性腫瘍は胎生期の歯胚組織に由来する。病理組織学的な特徴として成書の多くが歯胚組織との類似性に触れているが、各種歯原性病変がどの程度歯胚組織の形質を継承しているかは不明である。我々は、2次元組織像では捉えにくい腫瘍構造や進展様式を理解するため、上皮成分を検出するサイトケラチン免疫染色の連続切片画像に基づいてエナメル上皮腫、エナメル上皮線維腫の立体模型を作製し、直視観察した。
濾胞型エナメル上皮腫では、大小不同の腫瘍胞巣が間質組織に向かって伸長するのに対し、叢状型エナメル上皮腫では、網目状の腫瘍胞巣が間質を大小の空間に区画していた。エナメル上皮線維腫では、胞巣基部から複数の突起状胞巣が規則的に配列・出芽していた。歯胚立体模型との比較により、エナメル上皮線維腫の組織環境は歯胚発生の初期段階に相当することが確かめられた。対照観察した舌扁平上皮癌( 悪性腫瘍)では、間質空間に遊離・孤立した癌細胞が散在しており、組織空間内ですべて連結している歯原性腫瘍胞巣とは異なることも確認できた。本解析により、歯原性腫瘍の組織環境・構造を決定しうる要因は3次元的な胞巣形状の解析から推定できることが示された。

佐脇 有美, 東北大学歯学部, 6年生

酸素供給型培養デバイスによる三次元培養細胞の分化促進

近年、多孔性三次元担体に間葉系幹細胞を播種し、骨芽細胞に分化させて体内へ移植する組織工学的な骨再生治療法が開発され、自家骨移植に変わり得る新しい治療法として期待されている。しかし、移植前培養において担体材料に細胞を高密度で増殖させるため通常の培養法では酸素欠乏状態となり、移植用細胞の生存率や活性低下を引き起こす。また、骨芽細胞への分化に時間を要し、移植までに時間がかかることが問題点である。そこで本研究では、移植前培養に用いるための酸素供給型培養デバイスを開発し、間葉系幹細胞株の生存率及び骨芽細胞分化に与える影響について検討を行った。その結果、この酸素供給型デバイスを用いることで培地内酸素濃度を従来法よりも高く維持でき、細胞生存率を向上させることができることがわかった。さらに従来法よりも骨芽細胞分化を有意に促進することが示された。以上より、開発したデバイスは、間葉系幹細胞を生体外で迅速に分化させることができ、活性が高く、生存率の高い移植に適した細胞を調製できることが示唆された。本研究は、骨再生治療における治癒期間の短縮、コスト低減などを可能にすると期待できる。

鹿間 優子, 新潟大学歯学部, 3年生

K l f 4を含む巨大蛋白質複合体の精製

i P S 細胞の作製には、これまで4つの初期化遺伝子(O c t 3 / 4 , K l f 4 , S o x 2 , c – M y c)を導入し、細胞内で発現させる事が必要であった。細胞への遺伝子導入については、ウイルスベクター利用以外の比較的安全な手法が開発されつつあるが、癌化などの危険性を回避する事が難しいのが現状である。そこで、初期化に必要な遺伝子産物すなわちタンパク質を細胞の外から導入する手法を利用したp r o t e i n i P S 細胞(p i S P 細胞)が注目されている。H E K 2 9 3 細胞を用い、ビオチン化された初期化関連タンパク質(K l f 4 及びK l f 4 + S o x 2)の発現、および抽出を行った。s a m p l eを、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーにより分離・精製した。その後S D S – P A G EやN a t i v e – P A G Eさらにw e s t e r n b l o t、C B B 染色を行い複合体の構成するタンパク質について調べた。その結果、K l f 4が2種類の複合体を作ることが判明した。小さい複合体は、リプログラミングにおいて重要であると考えられる。またS o x 2の存在により、この複合体が消失することがリプログラミング効率を下げると考えられた。

成昌ファン, 鹿児島大学歯学部, 4年生

超音波により幹細胞の未分化能を維持させる

間葉系幹細胞(M e s e n c h y m a l S t e m C e l l s:M S C)は、自己再生能力をもつ多能性細胞である。M S Cは培養条件を変えることで、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞へと分化することが知られている。骨欠損に対して、M S Cを骨分化させた細胞を用いて骨再生を効率的に誘導することができれば、歯科臨床における非常に有用な治療法となる可能性がある。M S Cの細胞培養は比較的簡単であり、複数回の継代により大量の細胞数の確保も可能であるが、継代を重ねると、その可塑性や形態も徐々に失われる。しかし、臨床応用のために必要となるM S Cを未分化状態で維持できる技術の完成度はまだ不十分である。そこで、低出力超音波(L o w – i n t e n s i t y P u l s e d U l t r a s o u n d : L I P U S)による物理的刺激でM S Cの未分化を維持できないかという仮説を立てた。M S CにL I P U Sを照射したところ、M S Cを未分化な状態に保つ重要な遺伝子であるO c t 4の発現を上昇した。一方、O c t 4と同様にM S Cの未分化性の保持に関わるN a n o gとS o x 2の発現には影響をしなかった。L I P U Sを照射しながらM S Cの長期培養を行うと、O c t 4の高発現を保ちながら、M S Cの未分化性を保持できることが示唆された。L I P U SによるメカニカルストレスはM S Cの未分化性を調節できる有用なツールである可能性がある。

高橋 一寿, 鶴見大学歯学部, 3年生

唾液中の新規カリクレイン4の分離精製およびコラーゲンに対する分解能

カリクレイン4(K L K 4)は成熟期エナメル質形成過程において重要なプロテアーゼであるが、マウス顎下唾液腺においても遺伝子発現が確認されている。本研究ではヒト唾液中におけるK L K 4の分離精製および機能解析を行うことを目的とした。ヒト安静時唾液を上清と沈殿画分に分離した後、カゼインおよびゲラチンを基質としたザイモグラフィーをEDTA 存在下で行って、MMP 以外のプロテアーゼ(non-MMP)を検出した。さらにK L K 4 抗体を用いたウェスタンブロットを行ってK L K 4の存在を確認した。次いで唾液沈殿画分をヘパリンクロマトグラフィーおよび逆相- 高速液体クロマトグラフィー(R P – H P L C)にて分離し、K L K 4を精製した。このK L K 4を用いてⅠ型、Ⅲ型、Ⅴ型コラーゲンおよびヒト象牙質の不溶性コラーゲンに対する分解能を調べた。唾液K L K 4はゲラチンザイモグラフィーおよびウェスタンブロットにより唾液沈殿画分に含まれる分子量約2 0 k D aのバンドとして検出され、ヘパリンクロマトグラフィーおよびR P -H P L Cによりこのプロテアーゼを分離精製することができた。K L K 4を用いたコラーゲンに対する分解能実験では、いずれのコラーゲンも分解されることが判明した。本研究によりヒト唾液中のK L K 4はコラーゲン分解能を有していることが示された。

武末 康寛, 九州大学歯学部, 4年生

マウス胎生期下顎隆起器官培養法を用いた下顎形態形成の検討

【目的】下顎骨の成長発育は顎顔面骨格へ多大な影響を与えるため、その制御に関する分子メカニズムの解明が望まれる。本研究では、胎生期マウス下顎隆起の器官培養法を用いて、下顎形態形成をmi c r oRNA 2 0 0 a( miR- 2 0 0 a)の働きに着目し検討した。
【方法】胎齢1 0日I C Rマウス胎仔より下顎隆起を摘出し、m i R – 2 0 0 a m i m i cと緑色蛍光標識したc o n t r o l s i R N Aの遺伝子導入をエレクトロポレーション法により行い、器官培養を行った。蛍光顕微鏡による観察、リアルタイムP C R 法による発現量の検討、アルシアンブルー染色による下顎頭軟骨およびメッケル軟骨形成の観察を行った。
【結果】miR-200 a の遺伝子発現は経時的に上昇した。Control siRNAを導入した下顎隆起では導入部位における緑色蛍光が観察された。また、miR-200 a mimicを導入した下顎隆起では、miR-200 aの発現量が有意に上昇した。7日間器官培養をした下顎隆起では正常な下顎の発育が観察され、アルシアンブルー染色によりメッケル軟骨の形成が観察された。下顎頭軟骨の形成が認められない下顎隆起が観察された。
【結論】胎生期マウス下顎隆起器官培養に対するマイクロインジェクションとエレクトロポレーション法を用いた遺伝子導入を応用し、下顎形態形成の検討を行うことができる可能性が示唆された。

中村 知寿, 北海道医療大学歯学部, 4年生

ビールはS. mutansの増殖とバイオフィルムの形成を抑制するか?

近年、ビールの健康増進効果が明らかになりつつある。レンサ球菌に対する抗菌作用があるホップと殺菌作用のあるアルコールを含んでいるため、ビールにはS t r e p t o c o c c u s m u t a n sS . m u t a n s )の増殖と口腔バイオフィルム形成を直接阻害する効果もあると考えられる。本研究では、ピルスナー(PLS)、インディア・ペールエール(I P A)、ヴァイツェン(W e i s)の3 種類のビールとノンアルコールビール(N a b)についてS . m u t a n s の増殖とバイオフィルム形成を抑制する効果があるかについて検証した。
S . m u t a n s の2 4、4 8 時間培養では、コントロールと比較しP L S、I P A、W e i s、N a bに増殖抑制効果が認められた。1、2、5 分の殺菌処理では、コントロールと比較しP L S、I P A、W e i s、N a bに殺菌効果が認められた。共焦点レーザー顕微鏡による観察で、コントロールはバイオフィルムの形成が認められた。一方、I P Aはわずかなバイオフィルムの形成が観察されたが、P L S、W e i s、N a bは観察されなかった。gtf-Bの発現は、コントロールよりもIPAで有意な上昇を、Nabで有意な低下を認めた。gtf-Cの発現は、コントロールよりもP L S、W e i s、N a bで有意な低下を認めた。これらの結果から、ビールはS . m u t a n sの発育を阻害することが示唆された。バイオフィルム形成に対してのビールの効果は、ビールの種類に依存すると考えられる。ノンアルコールビールは口腔保健に有益な可能性がある。

野田 千織, 徳島大学歯学部, 5年生

運動による解糖系および乳酸輸送担体M C Tの遺伝子発現の変化
– S P O R T Sラットをモデルに-

糖尿病は歯周病とも関連する疾患で、その予防・治療法の一つに運動がある。そこで、自発的な運動量が増加したラットの株(S P O R T S)を用い、ライフスタイルにおける運動の意義について検討することにした。運動させたS P O R T Sラットとコントロールラットの遺伝子発現の違いを比較すれば、運動療法の標的遺伝子や運動の効果を遺伝子レベルで解析する手がかりが得られる可能性がある。実験として、それぞれの骨格筋から抽出したR N Aを用いて、マイクロアレイ解析を行った。その結果、解糖系の遺伝子群に顕著な発現上昇が認められた。一方、T C A 回路の遺伝子発現に変動はなかった。このことは解糖能の亢進によるA T Pの盛んな合成を示唆する。解糖能の亢進は、乳酸蓄積による細胞障害を招く可能性があるが、細胞外から細胞内への乳酸輸送担体M C T1の発現は低下し、細胞内から細胞外への乳酸輸送担体M C T 4の発現は上昇していた。これは、運動により細胞内への乳酸蓄積を防ぐシステムが増強されていることを示唆している。以上から、S P O R T Sラットでは解糖系関連遺伝子の発現を変化させることで、自発的・持続的な運動に対応していると考えられた。

長谷川 淳子, 愛知学院大学歯学部, 5年生

Lactobacillus 種と口腔内細菌の共凝集に関する一研究

歯周病は、歯周組織にバイオフィルムを形成して定着した細菌により引き起こされる慢性細菌感染症である。P o r p h y r o m o n a s g i n g i v a l i s , F u s o b a c t e r i u m n u c l e a t u m , および T a n n e r e l l af o r s y t h i a などが歯周病との関連が指摘されている。それらを制御する事で歯周病を抑制できると考えられるが、有効で持続可能な方法はない。一方、近年、乳酸菌がP . g i n g i v a l i s などを抑制させるということが報告されている。そこで乳酸菌を口腔内に定着させる事で歯周病関連細菌を抑制できるという事が示唆される。そこでL a c t o b a c i l l u s 種の口腔内定着の可能性を検討する目的で、種々の口腔細菌との共凝集性について検討した。その結果、 L a c t o b a c i l l u s 種は上記3菌種と強く凝集した。また、その凝集は二価のイオンの存在に依存し、 L a c t o b a c i l l u s 表面の糖鎖分子と歯周病関連細菌表面のタンパクが関与していると示唆された。以上より、 Lactobacillus 種の口腔内定着の可能性は示された。

朴 真実, 九州歯科大学, 6年生

飲酒による体温低下はプロスタグランジン系が関与する

酒を飲むと、体温の変化を感じる。飲み始めは温かく、次第に寒くなる。温かく感じるのは、エタノールの代謝産物であるアセトアルデヒドが血管を拡張させ皮膚血流が増加するのが原因だと考えられている。一方、エタノール摂取により皮膚血流は増加するが、皮膚温は増加しないこと、しかも、深部体温はむしろ低下することが示されており、温度感覚と実際の生理現象との間の乖離が起こっているようにみえる。このような温度に対する錯覚を起こすのは、体温調節中枢のセットポイント( 設定温度)が変わったことによると考えられる。セットポイントの上昇にはプロスタグランジンE2、低下にはプロスタグランジンD2( PGD2)が関与する。しかし、飲酒後の体温低下にP G D 2 が関与するメカニズムについてほとんど検討されていない。我々は、飲酒後の体温低下のメカニズムを調べるため、ラットを用いて実験を行った。実験結果より、エタノールによる体温低下は、アセトアルデヒドの体内蓄積量に比例して起こることが示唆された。アセトアルデヒドはP G D 2 産生を促し、脳の体温調節中枢に存在するプロスタグランジン受容体に作用し、セットポイントを低下させていることが考えられた。

秦 史子, 日本歯科大学新潟生命歯学部, 2年生

唾液とストレスの関係

【問題点】現代はストレス社会と呼ばれている。ストレスが人体に及ぼす影響を歯科学生として身近な唾液から検証した。
【仮説】種々の唾液マーカーの検索がストレスなど全身状態に影響を及ぼすかの評価を可能にする。
【方法】1.温湿度検査紙による唾液分泌量の測定 2.白金電極法による酸化還元電位の測定 3.誘電泳動インピーダンス測定による菌数の測定 4.酵素分析法による唾液アミラーゼ活性の測定 5. パルスオキシメーターによる脈拍とS p O 2の測定 6.スマートフォンのアプリによるストレス度の測定
【結果】ストレス度合いと脈拍、唾液の分泌量と唾液酸化還元電位、唾液酸化還元電位とストレス度合い、唾液分泌量と唾液ストレス度合いには相関関係があった。
【結論】唾液の酸化度が高いと、ストレス度合いが高いことが導かれた。すなわち、唾液はストレスマーカーとして用いることが可能であるかもしれない。

安田 梨沙, 福岡歯科大学, 5年生

歯科用コーンビームC Tによるb i f i d m a n d i b u l a r c a n a l sの検出能

下顎管内を走行する下歯槽神経は下顎智歯部で臼後枝や臼枝を分枝する。これらの分岐した枝が走行する管がエックス線写真においても描出され、B i f i d M a n d i b u l a r C a n a lと呼ばれている。この分岐導管を検出することは、智歯の抜去やインプラント埋入を安全に行う上で重要な術前情報である。本研究の目的は、歯科用コーンビームC TのB i f i d M a n d i b u l a r C a n a lの検出能と下顎智歯の埋伏状態との関連を評価することである。
対象は下顎智歯の抜去の術前検査としてパノラマエックス線撮影および歯科用コーンビームCTを行った1 7 0 例( 2 2 4 側)であった。
B i f i d M a n d i b u l a r C a n a lの形態分類をタイプ1~4に分類し、下顎智歯の埋伏状態を1)水平 2)垂直 3)近心傾斜 4)遠心傾斜 5)埋伏せずの5 分類し、B i f i d M a n d i b u l a r C a n a lのタイプ別の検出と下顎智歯の埋伏状態との関連を検討した。
B i f i d M a n d i b u l a r C a n a lは2 2 4 側中1 0 8 側において検出された。また、下顎智歯の埋伏状態がB i f i d M a n d i b u l a r C a n a lの検出に影響を与えている可能性が示唆された。

安永 賢史, 北海道大学歯学部, 6年生

腫瘍血管内皮マーカーB i g l y c a nの発現制御システムに関する検討

血管新生は腫瘍の進展や転移に重要である。腫瘍血管は正常血管と比べて走行が乱雑であり、漏出性が高いことが報告されていた。これまで我々は、腫瘍血管内皮細胞 (T u m o r E n d o t h e l i a l C e l l s : T E C) が正常血管内皮細胞 (N o r m a l E n d o t h e l i a l C e l l s : N E C) と比較し血管新生能が高いなど様々な異常性を示すことを報告してきた。D N A m i c r o a r r a y 解析によりT E Cにおいて発現が亢進していたB i g l y c a nに着目し、B i g l y c a nがT E Cの高い遊走能、管腔形成能に関与していることを最近見出した。腫瘍微小環境ではT E Cは低酸素状態に陥っており、また腫瘍細胞から様々な増殖因子などの様々な因子の影響を受けている。本研究では、腫瘍微小環境においてT E CがB i g l y c a nを発現亢進するメカニズムと、B i g l y c a nの下流シグナルについて検討した。その結果、腫瘍細胞由来因子存在下および低酸素条件においてB i g l y c a nの発現が亢進した。また、B i g l y c a n存在下で下流シグナルが活性化した。腫瘍微小環境において血管内皮細胞はB i g l y c a nの発現を亢進し、高い血管新生能を獲得していることが示唆された。

山本 吉則, 朝日大学歯学部, 3年生

硬骨魚類三種における摂食器官のメカニズム

硬骨魚類の頭蓋は、他の脊椎動物に比べてより多くの骨と関節で構成され、複雑な運動を行う。硬骨魚類における顎筋の作用や頭蓋に存在する関節の可動性は、利用する食物と密接な関わりをもつものと考えられる。そこで本研究では、藻類食のアユ、他の魚類を食べるタチウオ、甲殻類・ゴカイ・クラゲなどを食べるウマヅラハギの頭部を解剖し、摂食機構と食性との関連性について考察を行った。タチウオは上顎と下顎、鰓蓋部と舌弓部の間に関節が存在しており、下顎の大きな下制を可能していることが明らかになった。アユでは下顎骨と舌弓部の間にのみ関節が存在し、上顎の可動性は認められなかった。ウマヅラハギでは、上顎・下顎が頭部の先端に位置し、それぞれ独立した運動が可能であった。また閉口筋である下顎内転筋が3部位に分化し、比較した三種の中では最も複雑な顎運動を示していた。今回の研究から、硬骨魚類は上顎・下顎の可動性や運動パターンを変化させることによって柔軟に食物に適応していることが明らかになった。また、我々の側頭筋と相同な閉口筋である下顎内転筋は、作用の異なるいくつかの部位に分化して食物処理能力を高めている場合があると考えられた。

尤 雅田, 明海大学歯学部, 3年生

歯の移動に伴う疼痛に対する漢方薬の効果

歯の移動に伴う痛みを抑えるとともに骨吸収を制御しない鎮痛薬として、歴史的に歯科で使われC O X阻害以外の作用機序を持つと考えられる立効散と半夏瀉心湯に注目し、既存の仮性疼痛反応モデルと新規に作成した歯の移動モデルを使って両者の鎮痛効果および有効濃度を既存の鎮痛薬と比較した。
マウスに立効散、半夏瀉心湯、アスピリン、アセトアミノフェンをそれぞれ経口投与し、酢酸腹腔内投与で発現する体躯の伸展反応を比較した。歯の移動の動物モデルとして、ラットの上顎右側第一臼歯に矯正力を負荷した。両側上顎第一大臼歯に電気刺激を与え、開口反射を誘発する強度( 閾値)を左右で比較した。薬物処置群には、矯正力負荷直後から立効散、半夏瀉心湯、アスピリンをそれぞれ反復投与し1日後に閾値の測定を行った。
立効散はいずれのモデルでも鎮痛効果を発現したが、半夏瀉心湯は歯の移動に伴う疼痛を緩和できず、立効散の有効性が示唆された。アスピリンは歯の移動モデルで右側閾値を有意に上昇させた事から、片側への矯正力負荷が反対側の感覚変調を起こしている可能性が示唆された。また、歯の移動に伴う疼痛への鎮痛薬効果の判定に本モデルが有効であることも示された。

米長 秀祐, 日本大学松戸歯学部, 4年生

抗体産生の日内変動に高脂肪食が与える影響

近年、食の欧米化に伴って日常的な高脂肪食化が進んでいる。また、肥満者は有病率が高いことが知られており、肥満者に多い癌や感染症の発病には、免疫機能の低調が関わると考えられている。本研究では食習慣に着目し、マウスをN o r m a l d i e t(N D)群とH i g h – F a t d i e t(H F D)群の2群に分けて高脂肪食が生体に与える影響を3週間後に調査した。その結果、H F D 群において血漿中I g Gには産生量の低下が見られた。血漿中I g Aでは産生リズムの変化が見られ、糞便中S – I g Aでは産生量の増加が見られた。一方で体重に大きな差は認められず、抗体産生量ないし産生リズムの変化は高脂肪食によるものであるといえる。これにより、高脂肪食の摂取が生体の恒常性に影響を与えていることが分かった。また、ストレスホルモンであるc r t i c o s t e r o n eのH F D 群での増加が見られ、またc o r t i c o s t e r o n eの日内変動と血漿中の抗体量には相関傾向が見られた。この事から、抗体産生がストレスによっても変化しうるといえる。以上の事から、高脂肪食の習慣的摂取が生体の恒常性に影響を与え、全身および粘膜面での免疫応答に変調をきたしたと考えられる。

渡辺 数基, 東京医科歯科大学歯学部, 6年生

メラトニンによるキンギョの血漿グルコース濃度低下作用

メラトニンは松果体ホルモンとして知られており、主な働きとして概日リズムの同調作用が挙げられる。また、その他にも免疫活性化作用や抗酸化作用を持つことや、骨芽細胞、破骨細胞に作用して骨形成を促進、骨吸収を抑制することなどが知られている。近年では、哺乳類を用いてメラトニンの糖代謝への関与が示唆されているが、その作用機序に関しては明らかでない部分が多い。そこで本研究では、雄キンギョ(C a r a s s i u s a u r a t u s )を用いて、血漿グルコース濃度及びブロックマン小体( 魚類におけるインスリン産生器官)におけるインスリンm R N Aの発現に対するメラトニンの影響を調べた。その結果、メラトニンの投与により糖負荷環境下における血漿グルコース濃度は対照群と比較し有意に低下したが、一方でブロックマン小体でのインスリンm R N Aの発現には有意な変化は見られなかった。このことから、メラトニンにはインスリンを介さない経路で血漿グルコース濃度を低下させる作用があると考えられた。

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