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2005 年 8 月 のアーカイブ

第11回大会

2005 年 8 月 10 日 コメントはありません

第11回大会 2005年(平成17年)8月10日 参加校 22校
タイトルおよび発表内容要旨 (入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝:宇波 雅人, 日本歯科大学新潟歯学部, 4年生

デジタルカメラにおけるマクロ撮影の可能性(携帯カメラを含めて)

軽量で操作の簡単なコンパクトタイプのデジタルカメラ(DSCタイプ)を用いてでも、口腔内撮影が可能ではないかと考え、市販されているDSCタイプや携帯電話に装備されたカメラ(CPタイプ)について装着する装置を新たに開発・製作し、口腔内マクロ撮影が可能かどうか検討した。カメラ本体に装備されたフラッシュを光源とするリング状の発光装置を、クリアタイプの即時重合レジンによって自製し、影を作る事なく明るい口腔内写真の撮影を行うことに成功した。日常臨床で口腔内撮影を行っている歯科医師ら35名に開発したカメラを使用してもらい、その有用性について問うたところ、画質について97%が十分満足である、携帯性・操作性についても97%超が有用であるとの回答を得た。今回開発したカメラを携帯電話の持つネットワーク機能と組み合わせることにより、訪問歯科診療制度や緊急災害現場における歯科医療でも、省電力で携帯性にすぐれ、瞬時に情報伝達が可能なマクロ撮影装置は有効であると考えられた。
今回の研究は、新たな歯科医療における画像の可能性を示唆するものと思われた。

準優勝:信田 智美, 新潟大学歯学部, 4年生

震災被災地における歯科医療活動の検証-歯学部学生だからできる支援活動を考える-

大震災を始めとする大規模自然災害は被災地に甚大な被害をもたらす。今回我々は、今後も起こりうる大規模自然災害の際に、歯科医療スタッフによる的確な対策を講じることを可能とするため、過去の実際の事例における歯科医療のあり方を検証した。昨年の新潟県中越大震災の際に、被災地の歯科医療活動に直接携わった歯科医療関係者に聞き取りを行い、同時に過去の災害時歯科医療に関する資料を調査し、状況を比較検討した。さらに今後同様の大規模自然災害が起こった際に歯科医療関係者が取り得る対策と、歯学部学生が関与できる部分について考察した。その結果、中越大震災では円滑な歯科医療支援が行われていた。一方、避難所に支給された食料の質的問題点が明らかとなった。食料が供給されても、口腔慢性疾患をもち摂食し難い方々がいるとすれば、食品の質を考慮する必要がある。そこで実際にどのような食品が適当かを調査検討したところ、地元企業の非常用食品が適当であるとの結論に達した。その味や食べやすさに関しては良好であったが、調理方法には若干の慣れが必要であり、我々歯学部学生でも食事支援であれば充分可能で、またその必要性は非常に高いと考えられた。

第3位:中村 彩花, 東京歯科大学, 6年生

第一大臼歯の前後的咬合関係の変化および乳臼歯における齲触経験歯数が下顎第一大臼歯の齲触罹患に及ぼす影響について;16年間の追跡調査

本研究は、下顎第一大臼歯の齲触罹患を出齦後から2か月間隔で調査するとともに、歯列の成長に伴う第一大臼歯の咬合関係の変化や乳臼歯の罹患経験と第一大臼歯の齲触罹患との関連性を解明したものである。調査対象は60名の小児の左右側下顎第一大臼歯120歯であり、16年間にわたる調査を行った。
その結果、齲触に罹患した下顎第一大臼歯は36歯(30.0%)であり、齲触罹患が最も多かったのは出齦後24~48ヶ月と、49~72ヶ月であった。しかし、その後も齲触罹患歯は増加し、出齦後14~16年経過しても齲触に罹患する場合があった。
咬合関係の変化別に齲触罹患率をみた場合、最も齲触罹患率が高かったのはClass2からClass2の咬合関係を示した歯牙(56.3%)であった。また、Class2の咬合関係の場合は出齦後10年以降であっても齲触に罹患する歯牙が多数存在した。次に、乳臼歯の齲触経験歯数別に下顎第一大臼歯の齲触罹患率をみた場合、乳臼歯の齲触経験歯数が多い小児ほど第一大臼歯の齲触罹患率は高率であった。以上の結果は、予防填塞の実施時期に関する今までの適応概念の再考を示唆するものである。

青山 典生, 東京医科歯科大学歯学部, 6年生

MRIを用いた顎顔面領域における血管系画像診断法の検討

顎顔面領域では、血管の走行が複雑で血流速度も多様であり、MRIによる血管撮像法(MRA)が確立されているとはいえない。本研究の目的は、近年開発された造影剤と高速撮像法を用いることで、顎顔面領域のMRAの最適な撮像法を検討することである。
血管内の至適造影剤濃度を調べる目的で、造影剤を希釈してMRAで撮像した。人工的に血管モデルを作成し、造影剤を流してMRAで撮像し、3次元的に良好な像が得られるかを調べた。造影剤の流速と信号強度の関係を知る目的で、この血管モデルを用いて造影剤の流速を変えてMRAで撮像した。併せて、フリップ角と信号強度の関係を調べた。
本研究結果から、造影剤を用いることで顎顔面領域でも良好な画像を得られる可能性があることがわかった。血管の走行や血流速度よりも、血液中の造影剤濃度が高い信号強度を得るために重要であると示唆された。
造影剤を用いたMRAでは、非常に短時間の撮像が可能であり、3次元的にどの方向の血流でも良好な画像が得られることがわかった。よって造影MRAは、顎顔面領域でも適用が可能であると考えられる。

今井 遊, 鶴見大学歯学部, 3年生

過酢酸の漂白効果

現在使用されているホワイトニング剤は過酸化物による酸化作用を利用したものである。しかしその漂白効果の信頼度は低い。そこでより身近で親しみのある物質、酢酸の過酸化物である過酢酸に注目し、その酸化作用を利用してのホワイトニング効果を検証した。
残渣や歯垢はスケーリングによって除去したヒトの切歯を4時間紅茶の溶液に浸した。その後ティッシュでぬぐい、プラスチックのフタに固定し、サンプルとした。
リン酸緩衝液で0.09%に希釈した過酢酸溶液または酢酸溶液に浸して25分および60分間室温に保った。分光光度計で測定し色差(⊿E)を算出した。
コントロールである蒸留水の色差は酢酸のものとほとんど同じであった。しかし25分で過酢酸の⊿Eは蒸留水では高くなった。60分では酢酸の⊿Eは顕著に上昇し、過酢酸の漂白効果が明らかに見られた。
また顕微鏡観察により歯面の損傷の程度を組織学的見地から検討する必要があると思われた。

梅田 まりこ, 福岡歯科大学, 4年生

痛覚過敏のメカニズム~カルシウムチャネルの関与について~

歯科における主訴の約80%は痛みである。その中で口腔領域における痛覚過敏、例えば抜歯、抜髄後に発生する非歯原性歯痛などは鎮痛薬や局所麻酔薬が無効とされ、その治療は臨床的に問題になることが多い。しかし、このような感覚異常の発症機序には不明な点が多い。末梢からの痛みの伝達は、知覚神経シナプスに存在する電位依存性Ca2+チャネル(N,P/Q,L型がある)で制御される痛覚伝導物質の開口放出により行われている。私は痛覚過敏のメカニズムを明らかにする為に三叉神経節と同様の一次知覚神経細胞が存在する脊髄後根神経節(DRG)におけるCa2+チャネルに着目し、糖尿病性痛覚過敏モデル動物を用い遺伝子発現の定量、免疫染色による解析を行った。
本研究により痛覚過敏動物のDRG細胞において、P/Q型Ca2+チャネルを発現する細胞と痛みを伝えるC線維を出す小型神経細胞の特異的な増加という結果が得られた。
結果より、ある種の痛覚過敏に対して選択的P/Q型Ca2+チャネルを遮断することによって痛みや疼痛過敏を抑制することが可能になることが示唆された。将来的に歯科領域における痛覚過敏症の治療法の開発にもつながると期待される。

岡澤 仁志, 朝日大学歯学, 2年生

国際交流プログラム参加経験が歯学部生の臨床実習と他の動機付けに与える影響のアンケート調査

本学歯学部が行っている国際交流プログラムの短期海外研修は、5学年の夏期休暇を利用し、海外の歯学部を訪問、学生との交流を図り、国際的見聞を広げ、国際感覚を持った学生の育成を目的としている。この短期海外研修の教育効果認識のためのアンケート調査を行った。対象は、平成17年度の本学歯学部6年生、短期海外研修経験者30人を含む141人である。質問は、1. 臨床実習への期待 2. 臨床実習で自分自身が直接やりたいこと 3. 将来の歯科医師像 4. 海外の歯科医療に対する考え 5. 生涯研修に関する考え 6. 患者さんが歯科医師に要求しているもの といったもので、短期海外研修経験者と非経験者に分け集計し、有意差の検定を行った。その結果、経験者、非経験者の間に優位差を見出すことはできなかった。しかし、短期海外研修が臨床実習、その他の将来展望に対して良い影響を与えている傾向を把握できた。それは、 2、4、5の質問の回答において、歯学部学生として勉強、課外活動といった生活の中で、短期海外研修の経験者は、歯科医師としての前向きな動機を持っていることが認識できた。

塩出 信太郎, 明海大学歯学部, 4年生

タマネギ(Allium cepa L.)抽出液のStreptococcus mutansに対する抗菌活性

抗菌作用が知られているタマネギの、Streptococcus mutans(S. mutans)に対する抗菌活性を調べたところ明らかな活性が認められた。そこで、この抗菌因子を精製同定することを目的とした。S. mutans ATCC25175を使用した。抗菌活性は、BHI培地に100 cfuになるように播種したS. mutansにタマネギ抽出液を添加し、37℃で24時間培養した後の O.D. 660を測定することにより求めた。抗菌効果は、タマネギ抽出液5%以上の添加で明らかに認められた。酸処理で失活しなかったがアルカリ処理で失活した。 100℃10分で失活したが、60℃30分では失活しなかった。proteinase K処理によるタマネギ抽出液の抗菌活性への影響は認められなかった。BD法によるクロロホルム抽出画分に抗菌活性が認められた。クロロホルム抽出画分を溶媒[クロロホルム:メタノール:酢酸(65:25:10)]を用いてTLCプレート上で展開したところ6つのバンドに展開され、抗菌活性はフロントラインのバンドに認められた。以上の結果から、タマネギに存在する抗菌活性物質は極性を有した脂質であることが示唆された。この研究結果は、タマネギに含まれる抗菌活性物質が齲蝕予防に有用で安全な因子である可能性を示唆している。

菊地 萌, 栄養成分解析による食習慣と歯周病との関連の検索, 4年生

栄養成分解析による食習慣と歯周病との関連の検索

近年の健康ブームにより、世界中で“食生活”への関心が非常に高まっている。特に生活習慣病が提唱されると、食習慣と様々な疾患との関連性が注目を集めるようになった。そこで今回我々は、食習慣と生活習慣病のひとつの歯周病との関連を明らかにしようと試みた。
本研究の被験者は健康な男女18名(平均年齢22.4歳)とし、喫煙者や抗生物質服用者など口腔への影響がある要因を持つ者を除外した。食習慣は、被験者にアンケートと食事記録を課して調査した。また、本研究では新しい試みとして、食事記録を基に理論的な数値を栄養素ごとに導きだし、個々の被験者の食習慣を評価した。歯周病の検査は、被験者にとって非侵襲性であり簡便に採取できる唾液検査と口腔内写真診査、また歯科医師による検診で行った。
その結果、規則正しい食習慣の被験者では歯肉炎が少なく、食習慣に片寄りのある被験者と比較して、より良い口腔状態が維持されていることが示唆された。
今回の研究によって少しでも多くの人々が食習慣を見つめ直し、それが口腔、さらには全身の健康管理への関心へとつながっていくことを期待する。

桜井 良子, 神奈川歯科大学, 6年生

唾液中のクロモグラニンA(CgA)および神経栄養因子(BDNF)はストレスレベルの判定に有効で咀嚼器官の活動にも反応する

目的:クロモグラニンA(CgA)神経栄養因子(BDNF)は、多くの組織にあるペプチドホルモンで、ストレスに反応することが知られている。本研究では、唾液中CgAおよびBDNFのストレス判定性、および咀嚼器官活動との関連性について検討した。
研究方法:本研究は成人ボランティアの協力で行われた。CgAおよびBDNFの測定は、ELISA法によって行った。ストレス負荷は、非常ベルを大音量で聞かせるという方法で、咀嚼器官の活動の効果はブラキシズム運動を行わせて調べた。
結果:唾液CgAのレベルはストレス負荷によって増加し、この増加は、咀嚼器官の活動によって抑制された。ヒト顎下腺でCgAが合成分泌されていることを確認した。唾液BDNFはストレス負荷で変動することが確かめられた。動物実験により、唾液腺のBDNF-mRNAおよびBDNF蛋白の発現、さらに唾液 BDNFのストレス性の上昇が確かめられた。
考察と結論:本研究の結果、唾液中のCgA、BDNFはストレスに顕著に反応し、ストレスレベルの評価に有効である可能性が示された。咀嚼器官はこれらのストレス性変化を制御している可能性が示唆された。

澤田 愛, 岩手医科大学歯学部, 6年生

糖質の供給が口腔の揮発性硫化物質産生に及ぼす影響

口臭には日内変動があることが知られており、起床時や空腹時には口臭がより強くなる。また、長期間の経管栄養患者が強い口臭を発することが経験的に知られている。これらのことから糖質の摂取を制限することが口臭の原因になるという仮説をたてた。口腔内の揮発性硫化物(VSC)産生に対する糖質供給の影響を検討するために、4―5時間絶飲食後にブドウ糖または蒸留水で洗口し、口中気体VSC濃度をガスクロマトグラフィーにより測定した。その結果、洗口5分後の平均VSC濃度はブドウ糖溶液洗口の場合、有意に低下したことから、短時間の糖欠乏状態に対する糖供給が口腔内でのVSC産生を抑制することが示された。さらに、口臭に対する糖質の効果をより直接的に検討するために、刺激唾液からのH2S産生量を測定した。その結果、ソルビトール添加によりH2S産生量は1/10~1/100に減少し、ブドウ糖により1/1,000以下、あるいは完全に阻害された。これらの結果から、定期的な糖供給が病的に強い口臭の発生を抑制するものと考えられ、糖欠乏状態の口腔に対して、適切な量の糖を供給することにより口臭をコントロールできる可能性が示唆された。

谷木 俊夫, 鹿児島大学歯学部, 5年生

チタンの表面改質によるレジン接着力の向上

我々はチタンの表面改質により、前装する硬質レジンとの結合強さを向上させる研究を行ってきた。本研究では、濃硫酸を用いてレジン前装の前処理としての応用を検討し、長期接着耐久性が認められたので報告する。市販純チタンを18%塩酸、43%リン酸、48%硫酸の3種の高濃度酸と4.8%硫酸によって処理した。酸処理を施したチタンとレジンの接着強さは、試料を水中に37℃で24時間浸漬後に測定した。さらに、5種のレジンと8種の処理をしたチタンとの接着強さを10,000回、20,000回の熱サイクル試験(4℃、1分 ─ 60℃、1分)前後で測定した。48%硫酸水溶液に60℃で60分間の酸処理のみを行った試料が全てのレジンに対して最も強い接着強さを示した。サンドブラストは接着耐久性において効果を示さなかった。真空焼成は全ての硬質レジンへの接着強さにおいて有意差がなかった。以上の結果より、濃硫酸による酸処理はレジンとの接着性に対する単純かつ効果的なチタンの表面改質であると結論づけられた。

谷詰 直穂, 北海道医療大学歯学部, 5年生

歯科用金属修復物・補綴物の歯冠色レジンによる審美コーティング

金属材料は、機械的特性が陶材やレジン系材料と比較して優れているが、色調が天然歯と大きく異なっており、審美性に関しては劣っている。そこで本研究では、金属の表層をポ-ラス化することによってレジンとの機械的結合を強化する技術を応用し、機能と審美性に優れたクラスプとリテンションビーズを有しない硬質レジン前装冠を製作した。14K金合金を用いてクラスプならびにブリッジを鋳造し、高温酸化と酸洗い処理を施すことによって、鋳造体の表層をポーラス化した。表面にフロアブルレジンを筆で塗布し、ポアの内部へ浸透したレジンを70℃で30分間加熱して重合した。その後、硬質レジンを築盛し、光を照射してレジンを重合した。完成したクラスプを作業模型に150回着脱してみたが、クラスプの弾性変形時に被覆した硬質レジンの破折や剥離は認められなかった。また、ブリッジの適合性は極めてよく、高温酸化処理時に金属コーピングの変形は起こらないことが確認された。これらの結果から、表層をポーラス化した合金とレジンとを強固に接合する技術を用いることによって、優れた機械的特性と審美性を合わせ持った新しい補綴物を製作できることが明らかとなった。

千原 育子, 松本歯科大学, 4年生

漢方薬を用いた歯肉増殖症の治療法の開発

歯肉増殖はカルシウム拮抗薬(ニフェジピン等)および抗てんかん薬(フェニトイン等)、免疫抑制剤(シクロスポリンA等)の副作用として起こることが知られているが、その原因療法は確立されていない。本研究では漢方薬の一つである紫苓湯が薬物による歯肉増殖を抑制するかどうかを解明することを目的として、紫苓湯の作用を培養細胞系を用いて検討した。ヒト歯肉線維芽細胞Gin-1にニフェジピンあるいはニフェジピンおよび紫苓湯を作用させ、細胞増殖および bFGF分泌量、?型コラーゲン産生量を定量した。紫苓湯はニフェジピンによるGin-1細胞の増殖、bFGF産生、?型コラーゲン産生を有意に低下させることが示された。今回の結果は、紫苓湯がメザンギウム細胞および特発性後腹膜線維症における線維芽細胞の増殖を抑制するという結果と一致している。また、本研究の結果からbFGF産生量の低下によりGin-1細胞の増殖が抑制されたと考えられる。これらの結果から紫苓湯がニフェジピンによる歯肉増殖の治療に対して有効である可能性が示唆された。

陳 資史, 大阪歯科大学, 5年生

もし、スポーツ中に歯が抜けたら-スポーツドリンクがヒト歯根膜細胞に及ぼす影響-

スポーツ中に思いがけず歯が脱落した場合、歯に残存する歯根膜が新鮮な状態を保持することが再植成功の重要な因子である。今回の実験ではスポーツ中に一番身近にあり、また比較的清潔な状態で脱落した歯が保存できるという点から、市販されているスポーツドリンクの保存液としての有用性に着眼した。保存液として、スポーツドリンクは5種(A~E)を選び、比較に牛乳を用いた。研究室で保存のヒト歯根膜細胞を用い、保存液中で30分から8時間保存した後、細胞形態、トリパンブルーによる死細胞の染色およびCellTiterによる生細胞の測定を行った。その結果、牛乳に比べ4種のスポーツドリンクでは1時間保存で約80%の生存が認められたが、保存時間が長くなるに伴い細胞は死滅していた。このような牛乳との違いを検討するため、各種スポーツドリンクのpHを測定した結果、すべてが約4であり、牛乳では約7であった。保存後洗浄を数回繰り返し、再び元の環境に戻しても細胞の損傷修復は不可能であった。歯の保存にスポーツドリンクをそのまま用いた場合、保存液としての有用性は低いことが示唆された。

月村 光志, 日本大学松戸歯学部, 5年生

コンポジットレジンと象牙質との接着におけるセルフエッチングプライマー処理の効果

コンポジットレジンと象牙質との接着におけるセルフエッチングプライマー(SEP)処理の効果を評価した。ヒト抜去歯を耐水研磨紙で研磨し、象牙質を露出させた後に、1)SEP処理後、ボンディング剤塗布(SEP群)、2)SEP処理を行わずにボンディング剤塗布(NON-SEP群)3)SEPとボンディング剤の混合液(1:1)で象牙質面を処理(SEP+BOND群)、のいずれかの処理を行った。その後、光重合型コンポジットレジンを充填し、光照射によりレジンを硬化させた。コンポジットレジン接着直後、および37℃の水中に1週間浸漬した後に、引張接着強さを測定した。SEP群の場合にはレジン接着直後で約7.6MPa、水中浸漬後でも約6.3MPaと統計学的に有意な低下は見られなかった。一方、NON-SEP群では、レジン接着直後では SEP群と同程度の接着強さであったが、水中浸漬1週間後では大きく低下した。また、SEP+BOND群では、直後および水中浸漬後、どちらも低い接着強さであり、SEPの効果は発揮されなかった。
以上の結果から、SEP処理はコンポジットレジンと象牙質との接着に有効な役割を果たしていることが判明した。

西野 仁, 大阪大学歯学部, 3年生

食物由来ポリフェノールは歯周組織再生誘導因子で刺激した歯根膜細胞を歯周病菌の感染から保護する

エナメル基質抽出物(enamel matrix derivative; EMD)は歯周外科臨床に用いられている組織再生誘導因子である。これまでの研究から、歯周病菌Porphyromonas gingivalis (Pg) は培養歯根膜細胞(PDL細胞)へのEMDの効果を著しく阻害し、この阻害能は本菌のGingipainとよばれる強力なタンパク分解酵素により発揮されることが示されている。そのため、十分なEMDの歯周再生効率を得るためには、抗Gingipain活性を有する補助成分が切望されている。そこで今回、生体への安全性が確かめられている食物由来ポリフェノールの、EMD刺激されたPDL細胞をPgから保護する活性の有無を検討した。EMD刺激を与えた PDL細胞をPgに感染させ、2種のリンゴポリフェノール、3種のホップポリフェノール、緑茶由来エピガロカテキンガラート(EGCg)を用いて、細胞増殖、細胞移動へのポリフェノールの保護能を評価した。全てのポリフェノールはPg Gingipainのタンパク分解活性に対し顕著な阻害能を示した。さらに、リンゴおよびホップ由来ポリフェノールは感染PDL細胞の細胞増殖、細胞移動を誘導し、PDL細胞への保護活性を示したが、EGCgは明らかな細胞毒性を発揮し、組織再生保護作用は得られなかった。

蓮池 聡, 日本大学歯学部, 5年生

デジタルカメラによる忠実な色再現を可能とする撮影方法

デジタル技術の普及に伴い、歯科臨床においても口腔内撮影にデジタルカメラが使用されるようになってきた。デジタルカメラ撮影は即時性、保存・再現性、遠隔地通信などアナログカメラ撮影に比較し優位性が高い。しかしながら、デジタルカメラで得られた画像にはさまざまな因子が影響し統一性に乏しいのが現状である。そこで今回、デジタルカメラを用いシェードテイキングを行う際に、忠実な色再現を可能にする撮影方法に関して検討を行った。
まず、従来の市販歯科用カメラ各機種を用い口腔内をオート設定により撮影し、適正なキャリブレーションを行ったモニターでの撮影後画像のイメージの差を比較した。この結果、各機種間で画像のイメージに大きな差がみられることが判明した。さらにストロボ光に着目し、ストロボ光の波形を変化させることで得られた画像の変化をRGBの各色成分を評価することで検討した。その結果、ストロボ光がデジタル画像に多大な影響を与えることが明らかになった。以上、本研究結果から、より忠実な色再現を可能とする歯科用デジタルカメラシステムの開発可能性を示唆する結果が得られた。

平井 幹士, 岡山大学歯学部, 5年生

ビスコクラウリン型アルカロイド製剤のシスプラチン誘発腎毒性に対する防御効果

白金化合物であるシスプラチン(CDDP)は、抗腫瘍薬として口腔領域においてもよく使用されるが、嘔吐・腎毒性などの副作用が治療上の制約となることが多い。一方、メタロチオネイン(MT)は、重金属により誘導され、重金属毒性に対し防御的な役割を果たしていると考えられている金属結合蛋白質である。われわれはある種のビスコクラウリン型アルカロイド製剤(BAP)が腎由来細胞でMTを誘導することを見出した。この知見はBAPによるMT誘導がCDDP 誘発腎毒性を軽減する可能性を示唆する。そこで今回、BAPのCDDP誘発腎毒性に対する防御効果について検討した。その結果、野生型マウスではBAP前投与による血清尿素窒素(BUN)濃度の低下が認められた。一方、MT 遺伝子欠損マウスを用いた検討では、BAP前投与群と非投与群との間でBUN濃度に有意な差は認められなかった。また、組織学的検討によりBAP非投与群の尿細管は、前投与群と比べ著しく傷害されていた。以上より、BAP前投与によりCDDP誘発腎毒性を防御できること、および、その機序の一部にMTの生合成が関与していることが示唆された。

藤江 由佳, 奥羽大学歯学部, 3年生

Actinobacillus actinomycetemcomitansの特異的凝集因子の解明

Actinobacillus actinomycetemcomitans (Aa) は限局型若年性歯周炎の原因菌として知られている。同菌はa-fの6種類の血清型に分類される。特にAa c型株は、成人性歯周炎の有力な原因菌であるPorphyromonas gingivalis (Pg) と高頻度に同時検出されることが報告されている。本研究では、Aa血清型c株が歯周炎患者の歯周ポケットから高頻度に分離される理由を明らかにするために、まず共凝集反応試験を用いてAa血清型株とPg株にみられる共凝集関係を解析し、さらにトランスポゾンを用いてAa c型株のPgに対する特異凝集因子を同定した。共凝集反応試験の結果、Aa c型株のみがPg株と強い凝集反応を示した。また、トランスポゾンを用いて得た凝集能欠失株を解析したところ、Aa c型株とPg株の特異的共凝集にはc型菌体表層多糖抗原が関与していることが明らかになった。Aa血清型c株は、菌体表層多糖抗原を介してPgと特異的に凝集し、歯周ポケットに定着することが示唆された。

藤田 光訓, 徳島大学歯学部, 4年生

オッセオインテグレーションにおけるFGF-2とメラトニンの促進効果

インプラント治療や骨再建における問題点の一つとして、新生骨が既存骨と同等の形態や機能を獲得するまでに極めて長い時間を要する点が挙げられる。もしこの期間を短縮することができれば病悩期間を短縮し、ひいては患者のQOL向上に貢献することができる。
そこでわれわれはFGF-2とメラトニンを同時に作用させることで骨芽細胞の増殖および分化を同時に促進させ、短期間に十分量の骨形成を行わせることができる可能性に着目した。そしてこの可能性を検証するため、ラット脛骨に埋入したチタンインプラントのオッセオインテグレーションにおけるFGF-2の局所投与とメラトニンの全身投与の効果を検証した。
その結果、FGF-2とメラトニンは同程度にチタンインプラント周囲の骨形成を促進し、さらに両方を併用した群では単独で投与した群と比較して、インプラント周囲により多くの新生骨が形成された。
以上の結果より、FGF-2とメラトニンはオッセオインテグレーションを促進させること、さらに両者を併用することでオッセオインテグレーションがさらに促進されることが強く示唆された。

横田 理絵, 広島大学歯学部, 5年生

スカフォールド生体材料の創製

ヒトの硬組織は炭酸を含んだアパタイトとして存在する。骨欠損がある場合、骨欠損部への補充材として、自家移植やハイドロキシアパタイトを用いて治療が行われているが、炭酸を含んだアパタイトはほとんど使用されていないのが現状である。そこで、より生体骨に近い組成や結晶性を有する炭酸アパタイトの創製を目的として、5種類の炭酸アパタイトとハイドロキシアパタイトを合成し、X線回折とFT-IRを用いてアパタイトの炭酸への置換と結晶格子の大きさを比較検討した。走査型電子顕微鏡で形態観察も行った。次に、生体骨が炭酸アパタイトとコラーゲンから成ることを考慮し、炭酸含有量の異なるアパタイトとコラーゲンを混ぜてコラーゲンスポンジを作り、骨芽細胞を播いて足場としての骨形成を試みた。その結果、炭酸アパタイトは炭酸の濃度が高くなるにつれて、結晶格子の大きさが小さくなり、針状結晶の形態も崩れてきた。X線回折により炭酸イオンが一部結晶内に置換していることも明らかになった。また、炭酸アパタイト -コラーゲンスポンジ上での細胞培養の結果では、スポンジへの細胞のなじみは良好で、内部まで侵入し、三次元培養が可能であることが示唆された。

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