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2018 年 5 月 のアーカイブ

第23回大会

2018 年 5 月 4 日 コメント 1 件

第23回大会 2017年(平成29年)8月18日 参加校28校(歯科大学全校参加)

タイトルおよび発表内容要旨 (上位入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝/日本代表 – 基礎部門 第1位:吉野 舞, 広島大学歯学部, 5年生

単一細胞トランスクリプトミクスによる骨芽細胞の多様性の解析

骨形成を終えた骨芽細胞は多くがアポトーシスにより死に至るが、一部は骨細胞やライニング細胞へと分化する。また、加齢や骨粗鬆症等の病態に伴い脂肪細胞へと分化転換する例も報告されている。しかし、これらの分子基盤は殆ど解明されていない。そこで、以下の方法で骨芽細胞の遺伝子発現レベルを単一細胞レベルでプロファイリングするとともに、脂肪細胞への分化転換能について検討を加えた。
Col1a1プロモーター制御下でLyn-Venusを発現するレポーターマウスを作製し、同マウス新生仔頭頂骨よりVenus+ 細胞を分離した。同細胞について単一細胞レベルでハイスループット mRNA Seqを行い、そのうち90細胞のトランスクリプトーム解析を行なった。Venus+ 細胞の脂肪細胞分化能はin vitroで確認した。
教師なし階層的クラスタリングの結果、Venus+ 細胞は大きく2つの集団に分類され、一方はさらに複数に分類された。PPARgをはじめとする脂肪細胞分化に関与する遺伝子群も多数発現しており、PPARγの合成リガンドを負荷すると、Venus+細胞の一部は脂肪細胞へ分化した。
以上より、今回、単一細胞レベルにおいて骨芽細胞の多様性が初めて明らかとなった。また、一部の骨芽細胞集団は脂肪細胞分化能を持つものと考えられた。

 

準優勝 – 臨床部門 第1位:福留 彩音, 日本大学歯学部, 5年生

歯槽骨吸収予測指標としての歯肉溝滲出液中ストレスシグナリングの解析と臨床応用への検討

歯周炎の進行に伴い歯槽骨の吸収が起こるが、その程度は患者の口腔衛生状態や年齢も関与する。
歯肉溝滲出液(GCF)には歯周炎の病変を反映する様々な分子が含まれるため、GCFを解析することで歯槽骨吸収の進行を予測することが期待されているが、詳細については十分検討されていない。
そこで本研究では、20~70代の歯周炎患者を年代別、男女別にグループ分けし、ソフトウェアによる骨吸収程度、X線写真及びGCF中のストレスシグナリング分子と歯槽骨吸収状態との関連性を比較検討した。その結果、(1)歯槽骨マトリクスは性別と年齢に影響を受ける、(2)GCF中の分子の双方分布はNetwork 1(heme-H2O2-calcium)に起因し加齢変化と関連がある、(3)双方分布の移動はNetwork 2(GADD153-Substance P)に起因し、加齢による歯槽骨吸収の影響を受ける、(4)歯周炎はNetwork 2活性に影響を与え、歯槽骨吸収を促進する可能性があることがわかった。
以上の結果から、Network 2のGCF中分子は、臨床現場において歯槽骨吸収の早期発見と治療のための予測指標となり得る可能性が示唆された。

 

基礎部門 第2位:松本 夏, 大阪大学歯学部, 4年生

オートファジー誘導にはカリウム流入を抑制するホスファターゼが必須である

オートファジーは主に飢餓によって誘導され、細胞質成分を分解し栄養源やエネルギー源を供給している。また、細胞内に侵入した細菌をオートファジーによって除去する機構も知られている。これまでにオートファジー制御において、複数のリン酸化酵素の関与が明らかとなっている一方、脱リン酸化酵素は知見がない。そこで新規オートファジー関連ホスファターゼの単離および機能解析を行った。
出芽酵母全ホスファターゼ40種のスクリーニングの結果、過剰発現により通常オートファジーがみられない富栄養条件でオートファジーを誘導し、機能欠失により飢餓条件でオートファジー不全を呈するPpz1とそのパラログのPpz2を同定した。二重欠損株で種々のオートファジー関連タンパク質(Atg)への影響を検討し、Ppz1,2はオートファジー誘導経路の最上流因子であるAtg1の活性化に必須であることが分かった。さらに、Ppz1,2はカリウムトランスポーターTrk1,2を負に制御していることが明らかになっており、Ppz1,2に加えTrk1,2の四重破壊株ではオートファジー活性は野生株同等に回復した。このことから、オートファジーの誘導にはPpz1,2がTrk1,2を負に制御し、細胞内カリウム流入を抑制することが必要であると考えられる。

 

臨床部門 第2位:柳田 陵介, 東京歯科大学, 5年生

フッ化物微量拡散法による乳児一日フッ化物摂取量評価

フッ化物応用の齲蝕予防効果は多くの疫学研究から示されている。安全性に配慮したフッ化物応用を行うためには経口摂取する一日フッ化物量(Daily Fluoride Intake, DFI)を確認することが必須である。
本研究では成人よりも体内へのフッ化物の吸収率が高く、少量で過剰摂取による影響が出やすい乳児期の食事を想定し、離乳食、粉ミルクおよび飲料水から摂取されるフッ化物含有量を測定した。さらに、その総和から乳児期のDFIを推定し、目安量との比較を行った。検討の結果、乳児期の離乳食、粉ミルク、飲料水を合算し、推定されたDFIは5か月齢で185.34μg/day、7か月齢で181.16μg/day、9か月齢で174.59μg/day、12か月齢で179.19μg/dayであることが明らかになった。
本結果のDFIは全ての月齢において欧米目安量の約1/3~2/3ほどの低値を示しており、近年の食の多様化と欧米化に伴って日本人のDFIが減少傾向であるという我々の仮説は支持された。本データはフッ化物応用の安全性指標として有用であり、食生活の変化に伴う乳児期DFIの変移を把握するために、今後も継続的な検討の必要性があると考えられる。

 

石川 瑛三郎, 岩手医科大学歯学部, 4年生

fMRIを用いた高齢者のタッピング時の脳活動研究

fMRIなどの非侵襲的手法の発達により、ヒトでの顎運動の脳回路解析が可能となった。本研究では、歯のタッピングに関与する脳部位とその機能的役割を明らかにする目的で、80歳以上の高齢有歯顎者(20本以上の歯を持つ)、無歯顎者および義歯装着した無歯顎者を被験者に、タッピング動作を行わせ、MRI画像を取得した。タッピングによって賦活化される多くの脳部位の中で、義歯装着により影響を受ける脳領域間結合を解析した結果、 1)タッピングによる感覚入力は視床VPM核から一次感覚野、島皮質を介して前頭連合野DLPFCに伝わり、随意運動開始のトリガーとなりうること。 2)小脳は、末梢からのフィードバック(小脳ループ)を介して円滑な運動遂行に、大脳基底核は、大脳基底核ループを介してリズミックな運動の開始、遂行に関与しうることが明らかになった。単純な歯のタッピング運動において、末梢からの感覚入力は、反射の調節だけでなく、皮質運動野や咀嚼野からの出力系を介する随意運動の制御にも重要な役割を果たしていることが示唆される。

石塚 啓太, 北海道大学歯学部, 6年生

抗がん剤治療後の腫瘍血管内皮細胞の薬剤耐性獲得

薬剤耐性は、がん患者の予後不良の大きな原因である。化学療法後に生き残っている腫瘍細胞は、様々なメカニズムで薬剤耐性能を獲得しており、その一つに薬剤排出トランスポーターの発現亢進がある。これまでわれわれは、腫瘍血管内皮細胞が染色体異常を示し、正常血管内皮細胞に比べて多剤耐性遺伝子MDR1の発現が高いこと、MDR1遺伝子がコードする薬剤排出トランスポーターABCB1を介して、抗がん剤パクリタキセルへの薬剤耐性を示すことを報告した。本研究では、抗癌剤治療そのものが、腫瘍血管内皮細胞の薬剤耐性を誘導している可能性があるのではと仮説を立て、抗癌剤治療による腫瘍血管内皮細胞のMDR1/ABCB1発現変化を検討することを目的とした。
抗癌剤治療後の腫瘍組織において、腫瘍血管内皮細胞のMDR1/ABCB1発現が亢進していた。そのメカニズムの一つとして、抗癌剤が誘導する腫瘍細胞のサイトカインXに着目した。サイトカインXは、腫瘍血管内皮細胞のMDR1/ABCB1を亢進させた。抗癌剤治療が、腫瘍細胞のサイトカイン発現亢進を介して、腫瘍血管内皮細胞の薬剤耐性を誘導していることが示唆された。

梅田 将旭, 徳島大学歯学部, 5年生

口腔扁平上皮癌の新たな浸潤促進因子としてのPeriostinスプライシングバリアントの同定

Periostinは癌細胞のみならず、正常組織や腫瘍間質中の線維芽細胞から分泌される細胞外マトリックスであり、その発現と悪性度との相関が報告されている。我々は、これまでに口腔扁平上皮癌の浸潤に関わる新規因子としてPeriostinを同定し、癌細胞の浸潤、血管・リンパ管新生を介して転移に関与することを報告してきた。最近、発表者はEMTを起こした口腔扁平上皮癌細胞株においてPeriostinが高発現していることを見出した。さらに、Periostinの発現を有さない細胞株においてもTGFβ刺激により、その発現が誘導されることを明らかにした。また、Periostinには9つのスプライシングバリアント(Isoforms)が存在することが最近明らかにされたが、その役割はほとんど報告されていない。そこで、Periostinのisoformsの発現パターンを解析したところ、isoform 3及び 6が特異的に発現することを見出した。さらにisoforms 3及び 6の発現ベクターを遺伝子導入し、浸潤能を検討したところ、isoform 3及び 6は浸潤を促進した。加えて、isoform 6はisoform 3とは異なり、ERKの活性化を誘導することを見出したことから、Isoform 3とは異なる作用機序を介して浸潤能を亢進させる可能性が示唆された。Periostinを起点とした癌細胞の浸潤制御機構の解明が新たな癌治療の開発に貢献できるものと考えられる。

亀田 真衣, 東北大学歯学部, 6年生

新規齲蝕関連細菌Scardovia wiggsiaeの齲蝕誘発能
-酸産生活性とフッ化物耐性-

Scardovia wiggsiaeは、最近の研究で重度の早期小児齲蝕や青年期における白斑齲蝕病変から検出されており新たな齲蝕関連細菌として注目されている。Scardovia属はフルクトース6リン酸経路(F6PPK shunt)という独自の糖代謝経路を有しており、他の齲蝕関連細菌とは糖代謝の性質が異なる可能性がある。そこで、酸産生活性、代謝産物、及びフッ化物への感受性についてStreptococcus mutansとの比較検討を行った。その結果、S. wiggsiaeは主に酢酸を産生したことから、F6PPK shuntを主要な代謝機構として利用することが明らかになった。またS. wiggsiaeはpH 5.5でも十分に酸を産生したことから、う蝕誘発能が高いことが示唆され、さらにフッ化物耐性はS. mutansよりも高かった。S. wiggsiaeの高いフッ化物耐性はフッ化物の利用に際し考慮が必要であると考えられた。酢酸は酸性環境において乳酸よりもエナメル質に浸透しやすく脱灰能が高いという報告があることから、S. wiggsiaeは乳酸産生菌とは異なる機序で齲蝕を誘発・促進することが予想される。今後、S. wiggsiaeのような酢酸産生性でフッ化物耐性の高い細菌のコントロール法の開発が望まれる。

小島 百代, 明海大学歯学部, 4年生

ポビドンヨード液を基準にしたOTCの口臭・口腔内細菌・口腔細胞に与える影響の検討

薬局で販売されているOTC医薬品の口腔機能改善効果を判断するためには、適切な基準薬を選択し、基準薬との相対的な強さを測定することが必要であるが、これまでの研究ではこの点の配慮がなされていなかった。
第3類薬品に属するポビドンヨード液(以下PIと略)は、高い抗菌性と抗ウイルス性を有するため、多くの人が使用しており、基準薬として妥当である。PIの口臭予防効果、抗菌効果、および細胞傷害性を定量化できればOTCの効果を客観的に測定できるという仮説を立てた。口臭(VSC値)、口腔内細菌数、細胞傷害性は、それぞれ、ブレストロン、細菌カウンタ、MTT法で測定した。
PIは強力な細胞傷害活性を示した。PIの傷害性は血清の存在で弱くなることから、非特異的にタンパク質に結合することが示唆された。PIの含漱により、舌、特に、頬粘膜の細菌数が顕著に減少した。PI単体ではVSC値を高めることはないが、PIで含漱すると、瞬間的に高いVSC値を示した。PIが何らかの生体反応を引き起こす可能性が考えられた。
頬粘膜における細菌数の減少と口腔粘膜細胞に対する傷害性との比率の算出は、OTC薬の口腔機能改善作用の評価に有用と思われた。

竿尾 歩, 岡山大学歯学部, 2年生

低フッ素濃度の過飽和溶液によるエナメル質再石灰化の促進

低フッ素濃度の過飽和溶液によるエナメル質再石灰化の促進本発表では、低濃度のフッ化物を含むリン酸カルシウム過飽和水溶液をエナメル質上で乾燥することで、迅速に再石灰化させる新しい方法を提案した。この方法は、数日から数週間連続的にエナメル質を過飽和溶液中に暴露してアパタイトを析出させるというこれまでに提案された再石灰化法と比較して、より短時間での再石灰化を目指したものである。本発表の結果を発展させて、さらに迅速かつ危険性の低い再石灰化処置法を確立することで、一般の患者はもとより、特に在宅医療などで治療環境に制限がある患者や、超高齢社会を迎えて急増する高齢者のう蝕マネージメントの簡便化が期待できる。

榮田 奈々, 鶴見大学歯学部, 6年生

ケラチン75が及ぼす抜け毛と齲蝕の関連性解明のための基礎研究

ケラチン75(KRT75)遺伝子の突然変異は、抜け毛のみならず齲蝕など歯に対しても様々な問題を引き起こす可能性があり、エナメル質にも存在することが報告されているが、その動態については不明である。本研究では形成過程にあるブタエナメル質中のKRT75について免疫組織化学(IHC)、遺伝子およびタンパク実験を行うことを目的とした。IHC実験は、生後5日齢および11日齢のマウス下顎臼歯切片を作製してKRT75抗体を用いた免疫染色を行った。遺伝子実験は、生後約5ケ月のブタ永久切歯エナメル器より基質形成期、移行期、成熟期に相当する領域からtotal RNAを調製してKRT75の遺伝子発現を定量PCRにて分析した。タンパク実験は、同齢のブタ永久第二大臼歯の幼若エナメル質よりKRT75の分離精製を行い、質量分析を行った。生後5日および11日齢マウスにおいてKRT75は中間層に主に局在していた。その遺伝子発現はエナメル質形成過程の全ステージで確認されたが、移行期で特に発現が高かった。さらにタンパク実験では、KRT75が、幼若および成熟エナメル質で検出され、LC-MS/MS分析によりKRT75であることが同定された。以上、KRT75はエナメル質形成過程において他のエナメルタンパク質とは異なる動態を示していることが考えられた。

佐々木 瑛美, 日本歯科大学生命歯学部, 4年生

マウス歯胚への局所照射法は歯根発生における放射線の直接的影響を考察させる

過去にマウスの歯根形成期にエックス線の頭部照射を行い、ヘルトヴィッヒ上皮鞘とその周囲の細胞動態に異常が生じ歯根形成障害を引き起こすことを明らかにした。しかし、頭部照射の照射野には歯胚発生に関わる内分泌器等が含まれるため、放射線が直接的に歯胚にダメージを与えた影響を観察しているとはいえない。そのため、鉛ガラスを用いてマウスの下顎第一臼歯歯胚のみにエックス線を局所照射できる方法を確立した。本研究ではマウスの生後5日齢(P5)に20Gy局所照射後、P13にサンプリングを行い、頭部照射、非照射グループと比較した。
頭部照射マウスのGH、PTHの血中濃度は非照射マウスに比べて約1/2に減少しているのに対し、局所照射マウスでは非照射マウスと同程度であった。局所照射マウスの歯根長は非照射マウスと比べ有意に短く、頭部照射マウスと同程度であった。組織観察において、局所照射マウスは頭部照射マウスと同様の結果を示した。
内分泌器に障害は生じておらず、一方で歯根は頭部照射マウスと同様の組織学的形態異常が観察されたことより、頭部照射により生じた歯根形成障害は放射線の歯胚への直接的なダメージが関与していると考えられた。

澤崎 孝平, 北海道医療大学歯学部, 5年生

エピジェネティクス修飾による新規象牙質再生療法の開発

深在性のう蝕は、抜髄せず歯髄を保護する目的で歯髄保存療法を行うのが望ましい。現在、歯髄保存療法剤として水酸化カルシウム製剤を用いた直接覆髄法が広く行われている。しかし、長期間の水酸化カルシウム製剤の使用は歯髄壊死や病的石灰化を誘発することがある。また、被蓋象牙質の質や形成に要する期間などを考慮すると、改善が必要である。
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACi)は、悪性腫瘍に対する分子標的薬剤として近年用いられている。一般的に、HDACiはヒストンのアセチル化亢進を介して、遺伝子の発現を促進させる薬剤である。近年、HDACiが種々の細胞の増殖や分化に影響を与えることが報告されている。HDACiは骨芽細胞の骨形成を促進し、破骨細胞の分化を著しく阻害することが報告されている。我々は、HDACiは象牙芽細胞の分化の促進に関与していると仮定した。本研究では、HDACiによる歯質の硬組織分化誘導について検証した。
HDACiは、象牙芽細胞の分化を促進し、歯髄の石灰化を誘導することが示唆された。したがってHDACiは、歯髄保存療法に有用な可能性がある。

竹内 俊介, 東京医科歯科大学歯学部, 6年生

マウス接触アレルギーモデルにおける口腔粘膜に集積するCD8+ T細胞の制御機構

接触アレルギーはT細胞による遅延型過敏応答であり、皮膚や粘膜へのアレルゲン暴露により誘導される。臨床的アレルギー症状は、皮膚と口腔粘膜では大きく異なるが、その免疫病理学的違いは明らかでない。本研究では、ハプテン感作後に、頬粘膜で惹起する接触過敏モデルを樹立し、頬粘膜と耳介皮膚間での応答の違いについて検討した。頬粘膜惹起は、耳介皮膚に比べ、好中球とCD8+ T細胞の浸潤による急速で激しい組織炎症を呈したが、この炎症は急激に回復した。頬粘膜に集積するCD8+ T細胞は、炎症性サイトカインIFN-γ発現は低く、免疫チェックポイントPD-1発現が高く、増殖マーカーKi-67発現は皮膚と変わらなかったことから、増殖はしているが、最終エフェクターT細胞に分化できずに疲弊細胞に転ずる細胞であることが示された。これが、頬粘膜の激しい炎症が急速に回復する原因と思われた。ピーク炎症時の頬粘膜上皮では、PD-1リガンドであるB7-H1の強い発現が認められ、B7-H1の欠如は過敏応答を加速させたことから、PD-1:B7-H1経路による制御が局所で存在している可能性が示された。本結果は、口腔接触アレルギーの特性の理解に役立ち、接触アレルギー制御の新規戦略を生み出す一助になると思われた。

田中 雄祐, 日本歯科大学新潟生命歯学部, 2年生

歯科診療環境における汚染状況の可視化とその対策

歯科診療においてユニットや電子カルテ記入、予約作成に使われるPCは患者や歯科医師、歯科衛生士など多くの人に利用される。しかし、歯科診療においては治療器具や検査器具の消毒、滅菌が重視され、前述のような部位の汚染は軽視されやすい。また、汚染されていることが予想されていても汚染の程度が不明なため、効果的な対策が立てづらい。そこで、私たちはまずATP拭き取り検査キットと微粒子カウンター、フードスタンプを用いて歯科診療環境の汚染状況を可視化することを試みた。次に測定部位に応じた対応策を実施し、その効果を検討した。その結果、汚染はスピットンやパソコンのキーボードに集中しており、画一的な清拭では汚染状況が改善されなかった。
以上のことから歯科診療環境の衛生状況を良好に保つために画一的な消毒だけではなく、各器具や装置の形状や材質を考慮した衛生管理を行わなければならないと言える。また、歯科診療環境が必ずしも無菌的ではないという認識を患者、医療従事者の両者が持つべきであると考えられる。

土持 那菜子, 福岡歯科大学, 5年生

口腔扁平上皮癌治療抵抗性へのオートファジーの関与

他の癌細胞と同様に、口腔扁平上皮癌(OSCC)の治療抵抗性は解糖系経路(Warburg効果)の最終段階を制御する筋肉型ピルビン酸キナーゼ(PKM2)/還元グルタチオン(GSH)経路に依存している。最近の研究報告は、グルコース供給阻害による解糖系の抑制をオートファジーが補い、PKM2/GSH経路を保持する可能性を示唆している。本研究は、無グルコース培養OSCC細胞における誘導オートファジーによる治療抵抗性の促進について検討した。高グルコース培養OSCC細胞は200μMシスプラチン(Cis)添加により生存率が顕著に減少した。一方、無グルコース培養細胞ではCis添加による生存率の減少はみられず、治療抵抗性を示した。さらに、Cis添加の無グルコース培養細胞では、治療誘導性オートファジーが促進し、PKM2および細胞内GSHの発現が亢進した。以上の結果から、OSCC細胞はグルコース途絶状態においてもオートファジー誘導を介してWwarburg効果を活性化した。OSCC細胞の治療抵抗性は治療誘導性オートファジーにより活性化されたPKM2/GSH経路により促進することが示唆された。

寺本 朱里, 大阪歯科大学歯学部, 4年生

植物由来パパインによる歯の着色予防の研究

赤ワインやコーヒー、紅茶などの食品に含まれる色素は、歯の表面のペリクルに付着して着色の原因となる。歯面上のペリクルに着色物質が吸着してすぐにペリクルを切断することができれば、着色原因物質が歯の表面から離れ、着色を抑制できると考えられる。そこで、特異性の低いタンパク質分解酵素で植物由来のパパインに着目し、パパインがペリクルの主成分である糖タンパク質を切断することで歯面への着色を予防できるか調べた。その結果、ヒドロキシアパタイト(Hap)ディスクに唾液をつけると経時的に着色が促進した。これらの着色をパパインがペリクルを切断することにより抑制すると考えたが、抑制しなかった。さらにHA粉末を使うことにより、一旦、切断したタンパク質の再付着を防ぐようにしたが、同様に着色は抑制しなかった。パパインがHApに結合したタンパク質を分解することは電気泳動により証明されていたのにもかかわらず、着色が抑制できなかったのは、着色物質が歯面における再石灰化とともにエナメル質内部に取り込まれることによって、強固なステインが形成されていく以外に、エナメル質が直接着色するメカニズムがあると考えられる。

中野 雄貴, 日本大学松戸歯学部, 5年生

MDPのカルシウム塩の生成量はMDP含有ワンステップボンディング材のエナメル質および象牙質接着性を表す指標となる?

10-Methacryloyloxydecyl dihydrogen phosphate(MDP)を酸性モノマーとするワンステップボンディング材は臨床において広く使用されている。これは、MDPがボンディングレジンの接着性に影響を及ぼすためである。しかし、MDP含有ワンステップボンディング材の歯質接着性は製品間で異なるのが現状である。本研究の目的は、4種の市販ボンディング材と1種の試作ボンディング材を用いて、MDPのカルシウム(MDP-Ca)塩の生成量がエナメル質および象牙質接着性に及ぼす影響を検討することである。
ボンディング材とエナメル質および象牙質反応生成物を調整し、反応残渣の固体 31 P NMRスペクトルを測定した。この 31 P NMRスペクトルを波形分離し、MDP-Ca塩の生成量を求めた。次に市販および試作ボンディング材について接着強さの測定を行った。
エナメル質および象牙質アパタイトの脱灰過程を通して生成されるMDP-Ca塩の生成量は、歯質アパタイトの脱灰の程度を表し、MDP含有ワンステップボンディング材のエナメル質および象牙質接着性を表す有用な指標であることが判明した。象牙質接着はエナメル質接着と異なり、MDP-Ca塩の生成量との間に負の相関を示した。これは、レジンの接着機構がエナメル質と象牙質とでは異なるためと考えられる。

中南 友里, 九州歯科大学, 6年生

骨格筋代謝におけるNF-κBシグナルの動態とその役割

骨格筋の萎縮は、要支援・要介護の主要な原因である。また疫学研究から骨格筋量が多いと様々な疾病に対する罹患率が低下し、健康長寿であることが明らかであるため、骨格筋の萎縮を予防・治療することは超高齢社会のわが国にとって重要な課題である。転写因子NF-κBは免疫応答、細胞分化や増殖などの様々な生命現象に関連し、骨格筋の萎縮にも関与することが知られているが不明な点も多い。今回、骨格筋代謝におけるNF-κBの役割を明らかにする目的で、①骨格筋線維の分解・減少、②骨格筋幹細胞の増殖、③分化・融合過程におけるNF-κBの動態とその作用を検討した。NF-κBレポーターマウスを用いた実験から、骨格筋線維の分解および骨格筋幹細胞の増殖過程でNF-κBシグナルが亢進した。一方、骨格筋幹細胞の分化・融合過程ではNF-κBシグナルは低下した。さらにTNFα処理で誘導したNF-κBは筋線維の幅径を減少させた。またNF-κBは骨格筋幹細胞の増殖を誘導したが、分化と融合を抑制した。現在、NF-κBの阻害は骨格筋萎縮の有力なストラテジーと考えられているが、骨格筋幹細胞の増殖を抑制しないように骨格筋代謝過程に応じた厳密な NF-κBの制御が必要と思われた。

中村 和貴, 長崎大学歯学部, 6年生

頭頸部がん患者における放射線誘発う蝕のリスク因子

頭頸部がん患者における放射線性顎骨壊死の主な原因の一つに放射線治療(RT)後の進行性う蝕が考えられている。この研究の目的は、放射線性の進行性う蝕の予防法を確立するために、RT後のう蝕発生に関するリスク因子を調査することである。
RTを受けた31名の患者(RT群)と手術単独を受けた25名の患者(対照群)について、治療後1年または2年後のう蝕を調べた。次にさまざまな因子とう蝕の関連について一元配置分散分析および重回帰分析により検討を行った。
RT群のう蝕増加数は対照群よりも有意に多かった。単変量解析では照射野に唾液腺や歯が含まれるとう蝕の増加数は有意に高くなった。多変量解析では照射野に含まれる歯数のみがう蝕増加と有意に関連していた。
これらの所見から、RT後の進行性う蝕の発症機序として、RTによる唾液性障害に起因する唾液減少とならんで、RTによる歯への直接障害が考えられた。

中山 慶美, 愛知学院大学歯学部, 5年生

交感神経細胞は直接α1アドレナリン受容体を介して骨細胞によるRANKL発現を制御する

交感神経は骨芽細胞のアドレナリン受容体を介しreceptor activator of nuclear factor-κB ligand(RANKL)発現を介し骨吸収を制御する。また、生理的な骨吸収は主に骨細胞由来のRANKLによって制御される。しかし、交感神経細胞と骨細胞との機能的な繋がり、およびそのシグナル経路はなお十分には解明されていない。本研究ではマウス骨細胞様細胞、MLO-Y4細胞に交感神経α1B受容体が発現していることを確認した後、ノルアドレナリンとα1受容体作動薬フェニレフリンによりα1B受容体経由でRANKLの発現が増加することを明らかにした。さらに、In vitro共培養系を用い交感神経―骨細胞間の直接的なシグナル伝達の存在を確認した。α1受容体作動薬フェニレフリンにより細胞内カルシウムが増加し、NFATc1の核内移行が増加した。これはα1受容体拮抗薬プラゾシンによりブロックされた。以上の結果から、交感神経細胞と骨細胞とが直接機能的に繋がり、RANKLの発現が増加することが明らかとなった。

洪 珮瑜, 神奈川歯科大学, 3年生

高齢者における義歯装着による咬合回復が水嚥下時の脳活動への影響に関する研究

喪失歯数が増加していく高齢者において、咬合支持を喪失した多数歯欠損に対して、有床義歯補綴装着による咬合回復の状態を脳機能の面から評価する手法は未だない。今回は臨床で簡便に使用可能な軽量小型ワイヤレスfNIRS(functional near-infrared spectroscopy:近赤外分光分析法)を用いた高齢者の義歯装着による咬合回復が水嚥下時の前頭前野における脳活動に及ぼす影響について検討した。
その結果、義歯装着時の水嚥下時のVAS “0”に対して、未装着時の水嚥下時のVASは”72″で、義歯未装着は強い水嚥下困難感を感じていた。その時の脳活動の比較において、義歯未装着時と装着時の酸化ヘモグロビン量(Oxy-Hb)に有意な差が認められた。また義歯未装着時の安静時と水嚥下時の酸化ヘモグロビン量(Oxy-Hb)においても有意な差が認められた。
咬合支持を喪失した片顎以上の無歯顎者に対する可撤性有床義歯による咬合回復は、義歯未装着時に比較して、嚥下状態を脳活動に反映していることが明確になった。これは、高齢者における欠損補綴の意義を脳活動の面から”見える化”を具現化する可能性を示唆している。

前野 真太郎, 朝日大学歯学部, 3年生

若齢期の歯の喪失が海馬の細胞新生に及ぼす影響

これまでに老化促進モデルマウス(SAMP8)において、上顎臼歯を喪失すると、加齢にともない、マウスの寿命の短縮、血中のコルチコステロン濃度の上昇、空間認知能の低下が起こり、老化促進することが明らかになっている。
また、最近の研究により海馬における細胞新生は海馬機能維持に極めて重大な役割を担っており、この細胞新生はストレスの影響を受けやすいことがわかっている。また新生細胞から分化するオリゴデンドロサイトは、中枢において髄鞘形成により跳躍電動を誘導し活動電位の伝導速度を速める役割を担っており、ストレスの影響を受けやすいことがわかっている。
しかし、若齢期の歯の喪失による空間認知能低下と海馬における細胞新生およびオリゴデンドロサイトとの関連は明らかにされていない。若齢期の歯の喪失は慢性的なストレスとして作用し、血中コルチコステロン濃度を上昇させ、海馬における細胞新生が抑制され、オリゴデンドロサイトも減少した結果、空間認知能の低下が生じると考えられるため検証を行った。

三橋 あい子, 昭和大学歯学部, 5年生

重力が歯と骨の恒常性に及ぼす生物学的作用 -メダカを用いた加重力実験-

私達は常に重力のもとで生活しており、骨はその影響を受けやすい組織の1つとして知られる。一方、歯や歯周組織が重力の影響を受けるか否かは不明である。私は、歯の生える方向は重力方向と平行であることから、歯や歯周組織の発生や維持に重力が関係するのではないかと考えた。そこで、国際宇宙ステーション関連事業で開発された生物学的重力実験装置を応用し、破骨細胞が蛍光タンパク質で標識された遺伝子改変メダカに地上の5倍の重力(5G)を負荷しながら飼育することで、重力がメダカの咽頭歯骨や他の組織に及ぼす影響について解析した。その結果、5Gの重力下で飼育したメダカの咽頭歯骨では、その周辺の破骨細胞数とカルシウム沈着量が減少していた。さらに骨代謝に必須のAP-1遺伝子の発現レベルも低下していた。これは、咽頭歯骨を維持する破骨細胞と骨芽細胞の骨代謝回転が加重力により低下したことを示唆する。咽頭歯骨以外では、平衡感覚を司る耳石の形成異常と、脊椎骨の背側への湾曲も認められた。以上のことから、重力は遺伝子発現制御を介して歯や歯周組織の骨芽細胞と破骨細胞による骨代謝回転や、耳石や脊椎骨の恒常性を調節することが示唆された。

山口 久穂, 松本歯科大学, 4年生

スクリューピンに超弾性合金を用いた場合のインプラント体の強度に及ぼす影響
-非線形有限要素解析による検討-

インプラント治療の事故原因は様々であるが、その中にインプラント体の破折も含まれている。インプラント体の破折はアバットメントの動揺によりを引き起こされることから、緩まないアバットメントスクリューの開発が急務である。緩みは、咬合力によりスクリューピンが回転することによって生じる。スクリューピンをより大きなトルクで締結すれば回転を防止できるが、骨と結合しているインプラント体をも回転させてしまい、大きなトルクを掛けることは出来ない。しかしスクリューピンの材料を既存のチタン合金から超弾性合金(Ni-Ti)に変更すれば、温度変化によって締結力を増加させ得ることや、塑性変形による緩みを防止できる可能性がある。そこで、まずNi-Ti合金の機械的性質を引張試験より求めた。得られた物性値を用いて、既存のインプラント体について有限要素法により検討した。その結果、既存の構造においては十分な効果を発揮し得ないことが判明した。このため超弾性効果が発揮できるよう、スクリューピンならびにインプラント体を再設計して解析したところ、緩みの発生しないスクリューピンを作成することができることが判明した。

山下 紗智子, 鹿児島大学歯学部, 4年生

骨形成タンパク質9(BMP9)は骨芽細胞におけるNotchエフェクター分子Hes1の発現を誘導する:その分子機構および機能的意義についての解析

骨形成タンパク質(BMP)は、骨形成能を有する一群のサイトカインであり、特にBMP9は、強い骨芽細胞分化促進能を有し、口腔領域を含めた骨再生療法への応用が期待されている。私達の研究室では、BMP9が骨芽細胞におけるHes1の発現を増加させることを最近明らかにした。Hes1は転写調節因子であり、Notchシグナルのエフェクター分子として知られる。マウス骨芽細胞株であるMC3T3-E1細胞、およびマウス初代培養骨芽細胞をBMP9で刺激し、Hes1のmRNAとタンパク発現量を調べると、周期的な発現パターンが誘導された。Notchの上流シグナル阻害剤およびBFAによる前処置は、BMP9によるHes1発現誘導に有意な影響を与えなかったことにより、BMP9は、Notchやその固有リガンドの発現誘導を介さずに、Hes1の発現を直接的に骨芽細胞内に誘導することが明らかになった。また、骨芽細胞の分化段階は、BMP9によるHes1の誘導に著明な影響を与えなかった。次に、siRNAを用いたHes1のノックダウン実験によって、骨芽細胞のBMP9反応性におけるHes1発現の機能的役割を解析した。

渡邊 輝, 奥羽大学歯学部, 4年生

頸神経ワナの位置測定による頸部郭清時の舌骨下筋群の保護

頭頸部のリンパ節転移に対して頸部郭清術を行うが、その術中、頸神経ワナの保護は術者によって異なっていた。そこで今回、頸神経ワナ保護のために周囲構造物との位置関係の測定を行った。測定方法は胸鎖乳突筋を利用する方法(1)、舌骨体中心部の高さと頸神経ワナのループ下端の距離、舌骨体から鎖骨と内頚静脈との交点の距離の割合を測定する方法(2)、総頚動脈の外頚動脈と内頚動脈との分岐点を利用して測定する方法(3)の3つとした。(1)では胸鎖乳突筋の上端から52~66%の範囲に交点が集中していた。これは胸鎖乳突筋切断時に上端から2/3より下方で切断すれば、損傷のリスクの低減が可能であると考えられる。(2)では舌骨体中心の位置から下方に約35㎜の地点、距離の割合で52.0±10.8%に頸神経ワナの下端が存在することを示した。これも切断リスクの低下に役立つと考えられる。(3)は頸神経ワナの位置を触診で推定できる利点があり、分岐点の下方、約40~64㎜の範囲に頸神経ワナのループの下端が存在していた。これらの結果を併用することで、頸部郭清時の頸神経ワナ切断のリスクを低下させ、患者のQOL向上に役立つと考えられる。

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