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第25回大会

2019 年 12 月 1 日

第25回大会 2019年(令和元年)8月24日 参加校24校

タイトルおよび発表内容要旨 (上位入賞者を除き発表者氏名50音順) ※氏名・所属・学年は発表当時

優勝/日本代表 – 基礎部門 第1位:前川原 思惟子, 広島大学歯学部, 5年生

Porphyromonas gingivalis(P.g.)-fimA type2とtype4 血清抗体価の上昇は歯周炎の関連する早産のマーカーとなる
Porphyromonas gingivalis (P.g.)-fimA (Type2 and Type4) Serum Antibody Titer is a Possible Marker for Preterm Birth Associated with Periodontitis

歯周炎による早産の発症メカニズムについては不明な点が多く、歯周炎による早産を予測/診断する マーカーも確立されていない。私の研究室では、P.g. 歯性感染早産モデルマウスを用い、P.g. が胎盤に移行・感染し、早産を誘導すること、その際、P.g. の血清抗体価の上昇がみられることを報告した。そこで、私は P.g. 血清抗体価が歯周炎の重症度と関連し、歯周炎関連早産のマーカーとなることを明らかにする目的で、当大学病院を受診した妊婦157名(早産48例;平均年齢32.8歳、正期産109例; 平均年齢33歳)の血清を用い、P.g. -fim A タイプ別血清抗体価と歯周病の重症度(PESA/PISA)や早産との関係を調べた。type2-type4血清抗体価高値群ではPESA/PISAの値が有意に高く、歯周炎の重症 度と相関していた。Type2とType4の血清抗体価は早産発生率との関連性が認められ(Type2;Odds 比3.04, CI:1.33-6.81、Type4;Odds比3.83, CI:1.42-10.29)、歯周炎関連早産のマーカーとなることが明らかとなった。特に、P.g. -fimA type4は、妊婦胎盤に移行・感染していることが確認できた。妊婦検診時の血液検査でP.g. 血清抗体価の測定を行い、type2とtype4の血清抗体価が高い妊婦には、歯周炎関連早産を予防するために口腔診査と歯周治療を行う必要があると考える。

準優勝 – 臨床部門 第1位:山崎 弘瑛, 九州歯科大学, 3年生

Evidence-Practice Gapに関する国際比較研究
International Comparison of the Evidence-Practice Gap

臨床研究で質の高いエビデンスが得られてもそれが診療現場で適切に実施されず、研究と診療の間にギャップが存在していることを、Evidence-Practice Gap(以下、EPG)と呼ぶ。今回我々は、1)日本の歯科診療におけるEPGを評価すること、2)米国の先行研究と比較し、日本の特徴的なEPGを特定すること、3)EPGと関連する要因を明らかにすることを目的としてウェブを用いた質問票調査を行い、日本の歯科医師297人中206人から回答を得た。EPGを測定する質問票は計10問で「う蝕」、「深在性 う蝕」および「修復処置」の診断と治療に関する内容で構成されている。主要アウトカムは、「エビデンス と実際の診療との一致率(以下、一致率)」とした。全10問での一致率は60.3%であった。日米国際 比較より、「カリエスリスク評価」、拡大鏡の使用」、「セメント質・象牙質辺縁のコンポジットレジン 修復」の3項目において日本の一致率が有意に低かった。また、女性歯科医師、政令指定都市で診療する歯科医師、エビデンスを英語論文から得る頻度が高い歯科医師の3項目が高い一致率と有意に関連していた。本研究から日本の歯科診療におけるEPGの存在が示唆され、特に日本において改善すべき 項目を特定できた。

臨床部門 第2位:相澤 知里, 新潟大学歯学部, 4年生

結晶性油脂がもたらす嚥下誘発促進効果
Facilitatory Effect of Crystaline Oil and Fat on Swallowing Initiation

本研究では、29℃という融点をもつ結晶性油脂が、融解時に熱を奪うことにより冷覚を生じることを受けて、口腔内での冷覚および嚥下機能への効果をみることを目的としたヒト実験を行った。最初に結晶性油脂を舌上の各部位に投与して、その効果と程度を比較した。次に最も効果のあった部位への投与後に随意嚥下運動がどのように変化するかを嚥下回数を計測することで評価した。最後に、随意嚥下誘発回数が増加したことを受けて、大脳皮質下行路の興奮性の変化を経頭蓋磁気刺激誘発性の嚥下関連筋筋電図記録によって確認した。結晶性油脂の冷覚誘発は明らかでその程度は投与量に依存し、さらに嚥下衝動は奥舌部刺激が最も高かった。嚥下回数は結晶性油脂により有意に増加し、誘発筋電位は有意に増加した。本研究に使用した結晶性油脂は、口腔内で冷感を得ることができるだけでなく、随意嚥下運動に関わる中枢性の興奮性変化を期待させる。その融解度の特性により室温での保存が可能なことから、摂食嚥下障害患者へ用いる安定性の高い食品素材としての価値を見出せる。

基礎部門 第2位:大塩 葵, 昭和大学歯学部, 5年生

歯周病性骨吸収および破骨細胞分化に対するオゾンジェルの効果
Effects of Ozone Gel on Periodontal Bone Resorption and Differentiation of Osteoblasts and Osteovlasts

骨の形態や強さは破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成が繰り返される骨のリモデリングにより維持されている。種々の細菌の感染によって発症する炎症性疾患である歯周病では、骨吸収が骨形成に対して優位になるため、歯槽骨吸収が進行し患者のQOLを低下させる。一方、オゾンは化学的反応生の高い酸素同素体で、殺菌剤として利用されている他、骨形成促進作用を持つことが報告され ている。そこで今回、マウス臼歯結紮歯周病モデルを用いて歯槽骨吸収に対するオゾンジェルの効果を解析した。オゾンジェルを1週間に5回、2週間臼歯部に滴下したところ、対照として用いたジェル基材のグリセロールに比べ、オゾンジェルによる歯槽骨吸収の抑制傾向が認められた。さらに、骨芽 細胞および破骨細胞の分化培養系にオゾンジェルを添加したところ、骨芽細胞による石灰化には影響を及ぼさなかったが、破骨細胞は有意に抑制された。以上より、オゾンジェルは、破骨細胞分化の阻害を介して歯周病性骨破壊を抑制する可能性が示唆された。

伊澤 輝, 奥羽大学歯学部, 3年生

頬神経と周囲ランドマークとの位置関係の計測

近年注目されている顎変形症の手術や、顎関節脱臼による口腔粘膜側頭腱膜短縮術などにおいて、頬神経を傷つけたために、術後に頬部に麻痺が生じることがある。本研究では、下顎小舌をランドマークとして頬神経との位置関係について検討した。下顎小舌をランドマークとした位置計測のために、頬神経と下顎枝前縁の交点の位置を歯科用コーンビームCTで撮影した。撮影したFH平面を基準とした画像データ上で、ボールベアリングでマークした下顎枝前縁での頬神経の高さと下顎小舌との垂直的距離を計測した。計測した結果、頬神経の位置と下顎小舌の距離は7.5mm±4.2であった。また、全ての値は0より大きく頬神経が下顎小舌よりも高い位置にあったが、2点が非常に近い値を示すものもあった。以上より、少しでも切開時に下顎小舌つまり咬合平面の高さよりも高い位置に切開を進めてしまうと、頬神経を傷つけてしまうリスクがあると考えられた。今回の結果から、下顎小舌の高さをランドマークとして、それ以上の高さでは頬神経損傷のリスクがあると考えて切開を進めることで頬神経損傷のリスクを軽減することができる可能性 が示唆された。

今井 浩人, 日本大学松戸歯学部, 5年生

口腔及び結腸直腸におけるFusobacterium nucleatumと免疫応答についての免疫組織学的検討

口腔感染症である歯周病が全身に及ぼす影響として、心臓疾患や糖尿病、低体重児の早産、骨粗鬆症などが知られている。近年、Fusobacterium nucleatumF. nucleatum)が潰瘍性大腸炎や大腸ガンの誘発に関与していると報告されている。長期的な慢性歯周炎により病原性細菌が腸管まで到達 し、腸粘膜への侵入により腸内環境が変化することで炎症が生じることで腸炎が誘発されることが考えられるが不明な点は多い。そこで、F. nucleatum を口腔内に接種させたマウス(F. nucleatum 接種群)と、接種していないマウス(対照群)の歯周組織を含む歯槽骨や小腸・大腸を摘出し免疫組織 学的検討を行った。F. nucleatum 接種群では対照群と比べて歯槽骨の吸収が著明に認められ、歯肉粘膜下固有層に単核細胞の侵入による歯肉の肥厚が認められた。下部消化器を観察したところ、小腸の粘膜下固有層には単核細胞の侵入は認められず、また、絨毛組織への変化は見られなかった。しかしながら、大腸では粘膜下固有層に単核細胞の侵入を認め、細胞塊が形成され、CD3陽性やB220陽性細胞が認められた。これらの結果からF. nucleatum は、歯周炎を惹き起こすだけではなく、下部消化器のなかで特に大腸で免疫細胞の動態にも影響を与えることが示唆された。

金谷 勇希, 九州大学歯学部, 5年生

可視光励起蛍光検出法を用いた舌苔に付着するporphyrin産生細菌の検出と関連因子の探索

近年、舌苔に付着する細菌は口腔や全身の健康と関連することが報告されている。従来の細菌の検出法 による質的評価には時間を要するが、可視光励起蛍光検出法(light-induced fluorescence: LF)を用いるとporphyrin産生細菌を迅速かつ視覚的に検出可能である。本研究では、舌苔中のporphyrin 産生細菌の検出とその検出に関連する因子を調べてLF法の臨床応用の可能性を検討した。
通所サービスを利用する高齢者97人を対象とし、LF法による歯垢観察装置を用い、舌苔中に赤色励起
が観察された者は62.9%であった。細菌16S rRNA遺伝子を対象とした定量PCR法によって舌苔の総細菌数を測定した結果、LF法による赤色励起の検出とは関連がなかった。これは、LF法では舌苔中の特異の細菌を検出していることを示唆している。また、LF法による検出と関連する因子を多変量解析で調べた結果、LF法による検出は飲酒習慣と関連していた。過去の研究でアセトアルデヒド産生能が高い者には唾液中にPrevotella 属の細菌が多く、またLF法によって検出される歯垢にもPrevotella 属の細菌が優勢であることが報告されていることから、飲酒者の舌苔にはPrevotella 属などのporphyrin 産生細菌が優勢である可能性が考えられる。
尚、本研究は九州大学医系地区部局倫理審査委員会の承認を得た。

北野 晃平, 日本大学歯学部, 5年生

口腔内の痛みによって生じる情動に対するアセチルコリンの調節機構

痛みの情動に関わる島皮質のニューロンは、快楽中枢である側坐核へ投射しており、この神経回路が痛みの抑制に働いている可能性がある。しかし島皮質と側坐核は物理的に離れており、in vitro 標本では島皮質からの神経投射を特異的に刺激することが困難であったため、その生理学的・薬理学的性質 はほとんど明らかにされていない。そこで「アセチルコリンは、島皮質→側坐核の神経回路におけるシナ プス伝達を修飾することによって口腔内の痛みの情動的側面に影響を及ぼす」との仮説を立て、オプトジェネティクスを用いてホールセルパッチクランプ法による実験を行った。
その結果、島皮質の神経細胞は側坐核中型有棘細胞へ直接投射しており、アセチルコリン受容体の活
性化によって興奮性入力は減弱され、その効果は一時的なものであることが明らかになった。これらの結果から、快楽中枢の興奮抑制が、歯科治療時の痛みによる不快な感覚を間接的に強めている可能性が考えられる。側坐核におけるアセチルコリン受容体の活性を特異的に阻害できれば、将来、口腔内の痛みによる不快感を軽減する治療の開発につながることが期待される。
なお本研究は動物実験委員会の承認を得て行われた。

小林 玄一郎, 日本歯科大学生命歯学部, 3年生

日常的に摂取する飲食物の酸蝕症に対する影響

酸蝕症とは細菌が関与せず歯が脱灰される症状であり、その発症には産業性疾患に加え、酸性飲食物 の摂取も要因の一つである。最近健康志向の日本人の増加に伴い、お酢やスポーツ飲料によって誘発される酸蝕症が問題となってきている。現在までに酸蝕症と飲食物の関係は十分に示されていない。そこで飲食物が歯に与える影響について検証した。ヒト抜去歯由来切片を飲食物で処理し、その影響を 走査電子顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、軟X線撮影機を用いて解析した。pHの低いレモン汁や炭酸 飲料では、走査電子顕微鏡においてエナメル小柱や象牙細管といった脱灰を表す微細構造の変化が 認められた。またレーザー顕微鏡による脱灰深度はエナメル質と象牙質共にpHが低い飲食物ほど大きな値を示した。エナメル質と象牙質の脱灰深度において明確な違いは認めることができなかった。軟X線 撮影により脱灰厚を測定した結果、エナメル質、象牙質共にpHが低いほど脱灰が亢進していることが再確認された。以上より、酸性飲食物は酸蝕症を誘発し、摂取する際には注意が必要であることが示唆された。なお、本研究は日本歯科大学生命歯学部倫理審査委員会の承認を得て行われた。

酒井 湧志, 鶴見大学歯学部, 3年生

プロバイオティクス菌であるLactobacillus属の産生物を用いた歯周病予防法の探索
Porphyromonas属をターゲットとして-

現在の歯周病に対する抗菌薬や消毒薬による予防や治療ではアレルギーや薬剤耐性菌の出現などの問題がある。それを克服する一つの方法として、プロバイオティクスである乳酸菌の産生物は歯周病 原細菌の発育抑制やジンジパイン(トリプシン様酵素)活性抑制の効果を持ち、予防に生かせる、という仮説を立てた。しかし、乳酸菌は有機酸を産生するため齲蝕のリスクも考えられたので、pH中性 で有効な菌株を探索した。
被検菌株は歯周病原細菌としてPorphyromonas 属(P.gingivalis, P. salivosa, P. gulae )に対し、13菌株のLactobacillus 培養上清をpH中性の状態で用いた。本研究では抗菌試験とジンジパイン活性の検出を行った。その結果、複数の菌株でPorphyromonas 属に対する抗菌性とジンジパイン活性抑制効果が確認された。したがって、有効な菌株の産生物質を用いて歯周病の発生予防に役立てることができると思われる。

清水 まや, 松本歯科大学, 6年生

なぜ乳腺腫瘍に類似する癌が唾液腺に発症するのか?

近年「分泌癌」と定義された腫瘍が小唾液腺に発症し、乳癌特異的マーカーMammaglobin(MGB)を発現する。MGBのタンパク局在とmRNA発現は乳腺で確認されているが、唾液腺では明らかでない。そこで口唇腺におけるMGBのタンパク局在とmRNA発現を検索した。
口唇生検30例を男女同数として選出し、MGBの免疫染色と腺上皮の形質特定のためMuc7等を用いた
蛍光重染色を行い、MGB mRNAをRT-PCRを用いて評価した。MGB陽性率(MGB-PR)を算出し、統計解析した。
MGBはMuc7+漿液腺房、Muc5b+粘液腺房、S100+筋上皮細胞およびSOX10+/-導管に共陽性を示した。腺房のMGB-PRは導管より高値を示したが、男女間と年齢間のMGB-PRに有意な差はなかった。 選出した7例のうち3例でMGB mRNAの発現を認め、種々の程度の発現量を確認できた。
MGBが正常な口唇腺に確認されたことにより、陽性細胞やその前駆細胞が唾液腺の分泌癌の発生母細胞となり得る。MGBは構成細胞に広く陽性であったことから、介在部に存在する幹細胞の一部が 分化過程でMGBの分泌能を獲得する可能性が考えられた。

千 和世, 岩手医科大学歯学部, 3年生

審美性歯冠修復物に対する牛歯エナメル質の摩耗挙動
-CAD/CAM材と前装材の比較-

患者の審美的要求によりセラミックスやコンポジットレジン修復物が用いられている。特にCAD/CAMによって製作された歯冠修復物は計測から切削までの精度が向上したことに加えて、修復用材料の 強度の向上により臨床応用が飛躍的に増加している。しかし、高強度で硬質である歯冠修復物は対合歯を摩耗させることが懸念される。本研究ではCAD/CAMで製作した歯冠修復材(ジルコニアと二ケイ酸 リチウム系セラミックス)と従来法で咬合面を再現した歯冠修復材(前装陶材と硬質レジン)に対する牛歯エナメル質の摩耗挙動を比較検討した。その結果、最も大きい硬さを有していたジルコニアは自身の摩耗がなく、対合の牛歯エナメル質を摩耗した。一方、牛歯エナメル質より硬さの小さい硬質レジン は牛歯エナメル質の摩耗量は少なく、材料自体が摩耗した。硬さが陶材より大きい二ケイ酸リチウム系 セラミックスは、対合の牛歯エナメル質の摩耗が陶材より少なく、材料自体が摩耗していた。したがって、ジルコニアのようなCAD/CAM用材料は高強度で均質であるため対合歯を摩耗し、二ケイ酸リチウム 系セラミックスや硬質レジンは微細な結晶粒やフィラーは対合歯の摩耗を促進しないことが明らかになった。

竹澤 百代, 東京歯科大学, 6年生

軟質リライン材を用いた暫間インプラントオーバーデンチャー用アタッチメントの維持力評価

本研究の目的は、シリコーン系の軟質リライン材を暫間用インプラントオーバーデンチャーのアタッチ メントに応用した際の維持力を評価することとした。
方法として、維持力の測定に際して歯槽堤を模したエポキシ模型と、オーバーデンチャーを模した実験 床を製作した。模型にhealing capを設定し実験床内面にシリコーン系軟質リライン材を貼付する群を実験群とし、模型にボールアタッチメント(直径1.7mmおよび2.2mm)を設定し実験床にO-ring を設定する群をコントロール群とした。デジタルフォースゲージにて実験床を牽引し、実験床が離脱する までにかかった力を維持力として計測し、比較検討した。
結果として、healing capとシリコーン系軟質リライン材を用いた実験群の維持力は、直径1.7mmの
ボールアタッチメントとO-ringを設定した群に匹敵する維持力を発揮した。
本研究の結果より、シリコーン系の軟質リライン材を用いたアタッチメントシステムは、暫間的インプ ラントオーバーデンチャーの維持機構の補助として維持力を発揮することが期待される。

根本 雅子, 東北大学歯学部, 6年生

歯科的身元確認のスクリーニングに有用な年齢推定法の検討

身元確認作業は、正確・迅速でなければならず高い作業効率が要求される。多数の候補者の中から年齢推定スクリーニングを行い、人物を抽出する段階的探索が有効である。しかし、簡便に行える方法は乏しい。そこで、齲蝕などの歯科疾患や歯科処置が見られる確率は加齢に伴って高くなることに着目し、平成28年度歯科疾患実態調査のデータから歯・年齢ごとに確率を求め、その確率が有効であるか 検討した。
実際に個人の上顎の歯の状況から年齢推定を行った。対象として、法医学講座で行われた司法解剖の
うち、無作為抽出した30症例を用いた。結果は、推定年齢から実年齢を引いた。
差が小さいものは、実年齢が50歳以上の症例で多く、差が大きいものは、実年齢が20歳代・30歳代と若い世代に多いことがわかった。若い世代で推定年齢が高くなったのは、この年齢層のサンプル数が少なく、また、近年口腔衛生状態が改善傾向にあり、歯科疾患の罹患年齢が高くなったためと考えられた。 確率の精度を上げるためには、検証数を増やすこと、農村や都市部といった色々な地域ごとのデータを 集めることなどが必要である。

バクティアリ ダリア, 日本歯科大学新潟生命歯学部, 3年生

咀嚼による頭頸部血流量の増加を赤外線サーモグラフィーで定量的に評価できるか?

咀嚼の効用として様々な効果が確認されているが、咀嚼筋や舌などの筋組織の運動により頭頸部の血流が増加し、それを背景として得られる効果も多いと考えられる。従来からの咀嚼機能評価方法の多くは、咬合の 結果を直接的に測定するものであり、オーラルフレイルの予防を想定した場合には、間接的に咬合機能を支持している周囲組織の状態を評価する必要が考えられた。そこで本研究では、単純に食品を咀嚼しただけで頭頸部の血流はどの程度増加するのかを、赤外線サーモグラフィーを用いて評価してみた。また、その結果から、口腔体操等の介護予防訓練に活用可能な評価指標について検討した。その結果、咀嚼開始後数分以内に咬筋などが存在する頬部だけでなく、頸部を含めた表層体温の上昇が確認できた。さらに、熱 画像の0.1℃単位で得たピクセル数の変化から、温度変化を定量的に評価できる指標を考案した。この指標であれば、簡便な方法で機能訓練や唾液腺マッサージ等の効果を評価でき、熱画像の変化も高齢者に分かり やすいことから、介護予防現場において活用できる可能性が示唆された。

橋谷 智子, 岡山大学歯学部, 4年生

脂肪細胞及びその分化に対する低出力パルス超音波(LIPUS)の抑制メカニズムの解明

【目的】低出力性パルス超音波(Low Intensity Pulsed Ultrasound:LIPUS)は脂肪細胞への分化を抑制するが、その詳細な機構は未だ不明である。本研究はLIPUSの脂肪細胞分化に対する 抑制機構の解明を目的とした。
【材料と方法】C 3H10T 1/2 細胞及び3T3 – L1 細胞を脂肪細胞に分化させた後、LIPUS 処置を1日20分、3-4日間連続で行った。脂肪細胞分化に対する影響は( 定量)real-time RT-PCR法及びWestern blot法で解析した。
【結果と考察】LIPUS処置により脂肪滴の形成は抑制され、C/EBPαの遺伝子発現量も有意に減少した。
また、insulin刺激したC3H10T1/2細胞にLIPUS処置を行うと、insulin受容体及びAkt、ERK1/2のリン酸化の
減弱が見られた。さらに、LIPUS処置はYAPタンパク質を核移行させ、その 標的分子であるCCN2の発現量を
増加させた。CCN2はPPARγの遺伝子発現レベルを負に制御 したことから、LIPUS処置はinsulinシグナルの
減弱とCCN2の産生亢進を介したPPARγの発現 抑制によって脂肪細胞分化を抑制すると示唆される。

廣畑 誠人, 愛知学院大学歯学部, 5年生

歯周病関連細菌Porphyromonas gingivalisのMfa1線毛の形態形成に関わる因子の探索

歯周病関連細菌 Porphyromonas gingivalis(P. g )はバイオフィルム形成に関与するMfa1線毛を発現している。Mfa1線毛は、Mfa1、Mfa2、Mfa3、Mfa4およびMfa5が重合することにより形成される が、本線毛の形態形成機序には不明な点が多い。研究が進んでいる大腸菌において外膜に局在する 前駆体リポタンパク質は、Lolシステム(LolA-LolEにより構成される装置)により輸送されることが 明らかになっている。P. gのMfa1、Mfa2、Mfa3およびMfa4にも脂質により修飾されると予想される配列が存在することから、これらの因子がLolシステムにより外膜へ運ばれ重合することが考えられる。そこで本研究ではP. g ATCC 33277株のゲノムよりLolA-LolEホモログを検索し、そして見出されたlol 遺伝子の欠損株を作製することによりLolシステムとMfa1線毛形成との関連性を検討した。その結果、P. g のゲノムにPGN0486(LolA)、PGN0420(LolD)、PGN1025(LolC)およびPGN1387(LolE)を発見した。さらに、PGN0486欠損株では、重合型Mfa1が減少していることが抗Mfa1抗体を 使用したウェスタンブロットにより示された。この結果からPGN0486がMfa1線毛の形態形成に関与していることが示唆された。また、PGN0420、PGN1025およびPGN1387欠損株を作製することが できなかったことから、これらの遺伝子はP. g の生存に必須であることが示唆された。

福井 咲穂, 長崎大学歯学部, 6年生

微小管関連タンパク質タウの象牙芽細胞分化における機能に関するノックアウトマウスを用いた解析

【目的】Colla1プロモーター下でRunx2を過剰発現したトランスジェニック(Runx2-tg)マウスの象牙芽 細胞では、象牙線維の喪失と象牙芽細胞マーカーの顕著な減少が認められ、すなわちRunx2は象牙芽 細胞の最終分化を阻害する。そして、神経突起に高度に発現する微小管関連タンパク質タウ(Mapt)が、野生型の象牙芽細胞に高度に発現し、Runx2-tgにおいて著しく減少する。本研究の目的は、象牙芽細胞の分化におけるMaptの機能を遺伝子改変マウスを作製して調べることである。【方法】Maptノックアウト(KO)マウスをCRISPR/Cas9システムにより作製した。遺伝子発現と表現型は、定量RT-PCR、イムノブロッティング、HE染色および免疫組織化学により解析した。【結果】野生型とMapt-KOマウスの臼歯における有意な形態学的相違はなかったが、Mapt-KOマウスの歯胚において、微小管関連タンパク質1B(Map1B)の増加が野生型マウスと比較して認められた。【結論】Maptの 欠損は、象牙芽細胞分化に重大な欠陥を示さず、MaptとMap1Bの間に機能的冗長性があることが 示唆された。 

渕端 尚, 大阪大学歯学部, 4年生

睡眠時ブラキシズム動物モデル(モルモット)の脳波および顎運動の電気生理学的検証

睡眠時ブラキシズム(SB)は顎関節症、補綴修復装置の破損等を引き起こす睡眠関連疾患である。 睡眠中にはリズム性咀嚼筋活動が発生し、SB患者ではその数が著明に増加する。しかし、SBの発生メカニズムは明らかではなく、基礎的研究におけるSB の動物実験系も確立されていない。近年、ウレタン麻酔下の動物で、自然睡眠で生じる睡眠周期に類似した脳波変化が繰り返されることが報告された。また、自然睡眠下のモルモットでは、SB患者に多発するリズム性咀嚼筋活動の発生が知られている。そこで本研究では、ウレタン麻酔下のモルモットが、SBの動物モデルとなりうるか を電気生理学的に検証した。
ウレタン麻酔下のモルモットにおいて、脳波・筋電図・心電図・呼吸活動・顎運動を記録した。脳波に、NREM-like stateとREM-like stateの周期的な繰り返しが認められた。NREM/REMの周期的変化に伴い、咬筋活動が出現した。さらに、側方移動のリズミカルな顎運動のエピソードの群発 に際し、上下歯が擦れあう音が生じた。
以上より、ウレタン麻酔下のモルモットは、 SBの動物モデルとして有用である可能性が示唆された。

松本 晋, 徳島大学歯学部, 5年生

歯および歯周組織の形態形成にかかわる硬組織形成関連遺伝子の発現解析

歯の喪失時に人工歯により欠損部の機能を補うことができるが、天然歯と同等の生理的な機能を回復することは困難である。そのため、喪失歯の機能を回復しQOLを向上するための研究が注目されている。 しかし、歯の形成過程は多くの因子が相互的に作用し複雑であることから、再生歯の臨床応用には至って いない。
そこで、哺乳類と比較して単純な形態の歯をもち、相同遺伝子が保存されているメダカに注目し、歯の形成メカニズム解明のモデル動物とした。
本研究では歯の形成過程における硬組織形成関連遺伝子の関与を明確にすることを目的に、各遺伝子の発現についてRT-PCR、Real-time PCRおよびin situ hybridizationを用いて検討を行った。結果、メダカの各硬組織形成関連遺伝子はそれぞれ上皮および間葉の細胞に発現を認め、これは哺乳類 の相同遺伝子に類似した発現パターンを示した。したがって、メダカモデルは哺乳類の歯の形成過程を 検討する上で有用であることが示唆された。また、一部の遺伝子に関しては、メダカに特異的な発現 パターンを認めた。今後、これらの遺伝子を哺乳類と比較検討することで哺乳類の歯の形成過程における 重要な因子をひも解くことができると考えられる。

山口 穣, 鹿児島大学歯学部, 4年生

アルツハイマー病モデルマウスにおける三叉神経中脳路核ニューロンの神経変性が咀嚼機能に与える影響について

アルツハイマー病(AD)などの認知症患者では、認知機能低下による摂食・嚥下の機能不全が問題となっている。一方、ADで生じる神経変性が咀嚼機能を司るニューロンにも生じ、直接的に咀嚼運動の異常に関わるかは明らかではない。そこで本研究では、ADによる神経変性が咀嚼運動に直接的な影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした。ADモデル動物において、咀嚼機能に重要な三叉 神経中脳路核(Vmes)に注目し、神経変性を組織学的に解析し、咀嚼筋の活動に影響するかどうか 調べた。8週齢の3xTg-ADマウスでは、Vmesの細胞体において、アミロイドβ(Aβ)の強い沈着が見られた。またVmesから三叉神経運動核に投射する軸索において、リン酸化タウ(Tau)の強陽性反応が認められた。咬筋の筋電図解析では、咀嚼の閉口相にみられる咬筋バースト活動の持続時間と間隔が、3xTg-ADマウスではWTマウスに比較して有意に延長していた。ADにより、Vmesニューロンが 変性し、機能が低下しているために、咀嚼運動のフィードバック情報が三叉神経運動核や三叉神経上核 へ正しく伝達されず、咀嚼リズムが遅延していることが示唆された。

横山 真子, 北海道医療大学歯学部, 5年生

組織透明化技術を利用したがんの診断法および治療薬スクリーニング法の開発

近年、組織透明化技術と共焦点レーザー顕微鏡を使った組織の立体構造の解析が注目されている。組織切片を作成することなく細胞の構造を立体的に観察できる一方で従来の透明化法では通常3日から10日という長い時間が必要であった。透明化の過程で分子振動によって浸透性を高めれば短時間で透明化が可能になるのではないかという仮説の元、超音波処理と加熱処理によって透明化にかかる時間を4分に短縮することに成功した。この方法によって透明化処理した組織の透明化度と立体構造を解析したところ超音波や加熱処理による組織の破壊が起こっていないことを確認した。さらに組織が持つ自家蛍光により、無染色で立体構造の観察ができた。これらの結果から、我々は”迅速組織透明化技術”を開発した。
また細胞増殖マーカータンパク質(Fucci)を発現するがん細胞株(SAS-Fucci細胞)を作成し、HeLa
細胞およびSAS-Fucci細胞をマウスに移植してできたがん組織を迅速に透明化処理して観察した。組織透明化が迅速に行えること、およびがん組織の中に移植したSAS-Fucci細胞の蛍光が確認できたことで、がん浸潤の術中迅速病理診断や抗腫瘍薬のスクリーニングなど医療の発展のための応用が期待できる。

吉田 泰士, 北海道大学歯学部, 6年生

II型糖尿病モデルSDT fattyラットで生じた糖尿病性骨粗鬆症および歯周病変の組織化学的解析

【目的・方法】糖尿病の合併症として生じる骨粗鬆症や歯周病の病理組織学的な解明の一助として、42週齢雄性SDT fattyラットの脛骨(非感染部位)及び下顎骨(感染部位)を組織化学的に解析した。
【結果】SDT fattyラットの脛骨では、SDラットと比較して、骨芽細胞や破骨細胞の局在や骨量に著明な差は認められないものの、骨基質は広範囲な未石灰化を呈しており、内部には骨細胞が存在した。また、骨細管や細胞突起の連結性が低下していたことから骨質低下が推察された。一方、SDT fattyラットの下顎骨臼歯部の歯周組織では、歯根膜や歯髄への細菌感染と上皮陥入が認められ、歯槽骨は著しく吸収されていた。残存する歯槽骨には多数の破骨細胞と骨芽細胞および複雑なセメントラインが認められ、高骨代謝回転が推測された。
【考察】SDT fattyラットにおいて、脛骨(非感染部位)では、骨基質石灰化や骨細胞ネットワークに影響が生じて骨質低下が生じるのに対して、歯槽骨(感染部位)では、骨質低下のみならず、細菌感染や上皮陥入が加わり活発な骨吸収が誘導され、組織破壊が進行すると示唆された。

吉田 芙未, 明海大学歯学部, 4年生

歯の移動に伴う疼痛へのTRPV1の関与

歯科矯正治療では、歯の移動に伴う疼痛が生じる。これは、患者の治療継続モチベーションならびにQOLを低下させることから、改善が求められている。歯科で頻用の酸性非ステロイド性抗炎症薬(アスピリンなど)は、疼痛制御には有効だが、破骨細胞分化を抑制するとの報告もあり、矯正患者への投与は推奨されていない。また、シクロオキシゲナーゼを阻害しないアセトアミノフェンでは、鎮痛効果が不十分との報告があり、代替的鎮痛法の検討が続けられている。しかし、歯の移動に伴う疼痛の発現機序は明らかではなく、本研究では、三叉神経領域の広範な疼痛に関与するTransient Receptor Potential Vanilloid 1(TRPV1)の歯の移動に伴う疼痛への関与を検討した。二種類のTRPV1拮抗薬は、それぞれ、歯の移動に伴う疼痛の発現を有意に抑制した。一方で、七日間の連続投与で、成熟破骨 細胞の発現量を有意に減少し、歯の移動量も減少傾向を示した。矯正力負荷は歯周組織に炎症性サイトカイン(IL-6とCINC-2)の発現を誘導し、IL-6の発現はアスピリン、モルヒネ、TRPV1拮抗薬の投与で 有意に抑制された。モルヒネとTRPV1拮抗薬は、CINC-2の発現を有意に抑制したことから、歯の移動 に伴う疼痛には中枢TRPV1が関与している可能性が指摘された。

 

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