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第13回大会

2007 年 8 月 22 日

第13回大会 2007年(平成19年)8月22日 参加校 22校
タイトルおよび発表内容要旨 (入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝:秋山 祐子, 日本大学歯学部, 5年生

視認性に優れたオリジナル Shade guide の製作

審美修復を行うにあたって、歯の色調観察には、一般的にshade guideが用いられている。shade guideは、ヒトの歯の色調を表現するために、様々な色調から構成されている色見本である。しかし、天然歯とshade guideの色を一致させることは臨床的に難しく、これを行う環境や術者の経験などに影響を受けることが知られている。そこで、視認性に優れたshade guideを製作することを目的として、分光光度計を用いて光重合型レジンの色調分布について検討した。次いで、そのデータを基に光重合型レジンを用いたオリジナルshade guideを製作した。
実験には、異なる色調を有する市販の光重合型レジン2製品を用いた。試片の色調の測定には、フレキシブルセンサーを取り付けた高速分光高度計を用いた。その結果、同一の色番号で比較すると、光重合型レジンの明度および彩度は製品によって異なり、色の空間分布も製品によって違いが認められた。したがって、光重合型レジンを用いた審美的修復処置を行うためには、色調分布を考慮して、立体的で視認性に優れたオリジナルshade guideを指標としてシェードテイキングを行うことは臨床的には有効である可能性が示唆された。

第2位:井田 有亮, 北海道医療大学歯学部, 5年生

コンポジットレジン製フレームワークを用いた新しい全部床義歯の製作法

金属床義歯は、レジン床義歯と比較して、(1) 強度が高いので薄くできる、(2) 吸水性がないので衛生的である、(3) 熱をよく伝えるなどの利点を有している。一方、金属床義歯の欠点としては、(1) コストが高い、(2) 床の不適合をリベースによって再適合することが難しい、(3) 作業工程が複雑であるなどの点が挙げられる。そこで本研究では、アクリルレジンよりも強度が高く吸水性が低いコンポジットレジン(CR)を用いてフレームワークを作製し、金属床とレジン床の利点を併せ持った新しいタイプの義歯を製作することを試みた。CRフレームワークは、熱可塑性樹脂を作業用模型上でプレス加工して作製した型を用いて成形し、光重合させることによって作製した。その後、通法に従って蝋義歯を作製し、加熱重合レジンを用いて義歯を完成させた。今回使用したCRの曲げ強さは189.8(±16.2)MPaとアクリルレジンのおよそ2倍であった。したがって、床の厚さをアクリルレジン床の 70%程度に薄くすることができた。また、CRはアクリルレジンと比較すると吸水性が低いので、本義歯は衛生的な観点からも優れているものと考えられる。

第3位:高尾 宗禎, 鶴見大学歯学部, 4年生

マヌカ茶の抗菌作用を応用した口臭抑制キャンディーの開発

口臭はビジネスやプライベートにおけるコミュニケーションに対する障害となりえる口腔の状態である。そこで、抗菌作用があると言われているお茶成分を応用した口臭抑制キャンディーの開発を試みた。今回の研究では、マヌカ茶と緑茶を選択し、口臭と歯周病および齲蝕の原因菌を用いてそれぞれのお茶の抗菌作用を比較検証した。マヌカ茶と緑茶の抗菌作用を最小殺菌濃度で調べたところ、マヌカ茶の抗菌作用の方が明らかに高かったので、マヌカ茶葉粉砕物の懸濁液と熱水抽出液で比較したところ懸濁液の抗菌作用の方が高い事が示された。この結果から、マヌカ茶葉の粉砕物を含むノンシュガーキャンディーを実験用、含まないものを対照用として製作しランダム化クロスオーバー型の臨床試験を行った。その結果、マヌカ茶葉配合キャンディーは口臭原因物質である三種類の揮発性硫黄化合物に対しての顕著な抑制効果があるだけでなく、対照用に比べ口臭抑制の持続時間も長かった。またアンケート調査結果から口腔爽快感と口臭抑制感が優れていた。
以上の結果から、マヌカ茶葉配合キャンディーの口臭抑制に対する有用性と実用化が示唆された。

芦川 すが, 東京医科歯科大学歯学部, 5年生

パノラマX線写真を用いた下歯槽神経麻痺の術前診断法

近年、外科的矯正術に加えて智歯抜歯やインプラント治療が増加し、術後の下歯槽神経麻痺も増加している。本研究の目的は、広く普及しているパノラマX線写真を用いて下歯槽神経麻痺の発生を術前に判断する簡便な診断法を確立することである。
下顎枝矢状分割術を施行した男女31名(62側)を対象とし、術後2週間にオトガイ部の温冷覚・触覚麻痺を検査した。患者のパノラマX線画像上で、下顎管の直径(=A)、下顎管上縁から下顎下縁の皮質骨までの距離(=B)を測定し、A/B比率を算出した。A、B、A/Bと各神経麻痺の発生率について相関をみた。さらに3ヵ月後の麻痺残存率との相関を見た。
本研究結果から、Aは冷覚麻痺の発生率と有意な相関があることがわかった。A/Bは温覚麻痺、冷覚麻痺、触覚麻痺全ての発生率に有意な相関を示した。特にA/Bが0.6以上である場合、3ヵ月後の麻痺残存率が有意に高かった(p< 0.01)。
パノラマX線写真を用いた術前診断では、A/Bを検討することが重要であり、特にA/Bが0.6よりも大きい場合は術者は下顎管の走行を精査し、術式等を再検討することが望ましい。本研究は智歯抜歯やインプラント治療後の知覚麻痺の発生率にも応用されることが期待される。

大城 健, 明海大学歯学部, 4年生

3Mixのヒト口腔細胞に対する傷害性の検討

3Mixは、metronidazole (MN)、minocycline (MINO)、ciprofloxacin (CPFX)の作用機序の異なる3種の抗菌薬の練和物であり、軟化象牙質への投与により、口腔内病巣の効果的無菌化が期待できる。しかし、厚生労働省から認可されていないため安全性の検討が必要である。3Mixは不安定であり、水、光、高温と化学反応を起こして変質・失活する。3Mixは高い反応性を示すので、細胞機能に影響を与える可能性が考えられる。本研究では、MN、MINO、CPFXを種々のモル比で含有する3Mixを調製し、ヒト口腔細胞に対する傷害性を検討した。その結果、いずれの3Mixもほとんど歯髄細胞等の正常細胞には傷害性を示さないことが判明し、臨床応用の安全性が示唆された。しかし、3Mixは細胞に対して全く作用しないわけではなく、口腔扁平上皮癌細胞、特に、骨髄性白血病細胞に対して強い細胞傷害性を示した。細胞傷害性の原因となった成分はMINOであった。MINOの抗白血病効果の機序について現在検討中である。

岡澤 仁志, 朝日大学歯学部, 4年生

嚥下障害患者に対する食品としてのお粥の特性

日本において、お粥は、柔らかくて飲み込み易い病院食とされている。また、嚥下障害のある患者にも、お粥を与える事が多い。しかし、どの様な物性のお粥が嚥下障害患者に適しているのかについての詳細な検討は行われていない。そこで我々は、様々な方法で調理したお粥の物性を食品テクスチャ計測により検討した。また、お粥を検査食とした嚥下障害患者のビデオ嚥下造影検査(VFSS)所見を検討した。
その結果、水の量を増やして調理したお粥ほど、柔らかく、付着性が小さくなっていた。付着性の大きなお粥では、患者の口腔・咽頭腔への残留が多くなっていた。嚥下障害患者に対する病院食としてのお粥は、咽頭への残留を減らすために、付着性が大きくなり過ぎない様に調理すべきである。VFSSや内視鏡検査とテクスチャ計測を併用しながら、個々の嚥下障害患者に適した飲食物のテクスチャ特性を探る事は、臨床上大きな意味があると考える。

越智 信行, 九州歯科大学, 6年生

Web上でTeaching Fileを作ろう

【目的】口腔顎顔面領域でのパノラマX線写真やX線CT画像から、その正常画像に関するTeaching fileを作成し、大学内のホームページにuploadする。
【方法】初めに、典型的正常解剖像を示すX線CT画像とパノラマX線写真を選定し、両画像をパソコン内に取り込んだ。取り込んだパノラマX線画像及びX線 CT画像は、ソフトウエアを用いて加工し、正常構造物のトレースを行った。パソコン内に取り込んだX線CT画像をi-movieを用いて動画を作製した。その後、ホームページ作製ソフトを用いてWebページを製作した。
【結果】大学内HPにて公開中。
【考察】我々が作成したTeaching fileには口腔顎顔面部の正常画像を多少知らないものでも容易に自学出来るよう諸処に工夫をこらした。パノラマX線写真では、正常構造物を示す線を容易に理解出来るよう、写真上にマウスを置くだけで、正常構造物の名称が分かるようにした。X線CT画像も同様の工夫を凝らし、容易に正常構造物の名称を把握出来るようにした。更には、立体的に画像を把握出来るよう動画を作成し、マウスクリックのみで連続画像を観察出来るようにした。

楠山 譲二, 鹿児島大学歯学部, 5年生

酸処理を施したチタンと陶材の間の接着力

市販用純チタン(cpTi)やその合金は多くの歯科補綴装置に利用されている。前歯部の修復に使われる場合、チタンは陶材のような審美材料によって覆われるのが一般的である。そこで陶材との間で良好な接着力を得るために、新たにチタンの適切な表面処理を開発することが必要とされている。この研究では、cpTiと陶材との間の接着力における高濃度の硫酸によるエッチング処理の影響をISO 9693によって調べた。その結果、硫酸によるエッチングはサンドブラスト処理と同じ程度の接着力の向上を示した。酸エッチングはチタンに対してより細かな表面組織をつくり出したが、サンドブラスト処理と比較して陶材との接着力に有意な影響をもたらすことはなかった。これは熱処理によるチタンの酸化によって、陶材とチタンとの間のマイクロメカニカルな連結が消失したため、その結果、酸エッチングによってできた微細な孔が有効に機能しなかったためと考えられる。

呉 鑫, 大阪大学歯学部, 4年生

破折オールセラミック修復物からの非破壊検査法の提案

オールセラミック修復物は審美性に優れているが、臨床上において破折やチッピングが生じると、口腔内では修理ができないため、撤去し再製する必要がある。しかし、ジルコニア系のコアーで製作したオールセラミック修復物は撤去が困難で、歯科医師や患者さんに大きな負担を与えているのが現状である。本研究の目的は、破折やチッピングが起こったオールセラミック修復物を分析して破壊の原因を究明し、セットする前に破折やチッピングの発生部位を非破壊検査により予測するシステムを提案することである。オールセラミック修復物の破折やチッピングの原因は人為的な設計ミスと築盛時の気泡の存在であった。ブリッジの連結部の形状設計やコアーの形態などの設計ミスや気泡の存在は、X線CT像により形態や大きさを計測することができた。そのため、X線CT像により臨床で破折する可能性がある修復物をセットする前に再製させることにより、臨床での破折等を防止できることが分かった。以上のことから、X線CT装置をオールセラミック修復物の非破壊検査装置として使用することにより、臨床での破折やチッピングを低減できることが示された。

黒田 真美, 奥羽大学歯学部, 5年生

高齢者の口腔カンジダ症予防のための口腔ケアシステムの開発

高齢者の口腔内に存在するCandida albicansは、口腔カンジダ症をおこす危険性がある。高齢者の口腔ケアを考える場合にはC. albicansのコントロールは重要な課題である。そのため、安全で効果的な口腔ケア器材の開発が望まれているので、私は植物由来の精油を口腔ケアシステムに利用することを考えた。
in vitroでC. albicansに各種の精油を加えて培養するとバイオフィルムを形成したC. albicansに対してはCymbopogon citratusが抑制効果を示した。しかし、Cymbopogon citratusの抑制効果も唾液の添加によって減弱した。この結果はCymbopogon ccitratusによる抑制効果を高めるためには唾液を除去した状態で口腔内に塗布する必要を示している。
したがって、精油による口腔カンジダ症の予防には、可能な限り唾液を除去して精油を塗布するようなシステムの開発が必要となる。そこで、私は唾液を可能な限り除去してCymbopogon citratusを舌表面に塗布するシステムを開発した。

坂野 深香, 昭和大学歯学部, 4年生

歯髄細胞に発現する遺伝子の網羅的解析

咬耗や、齲蝕の刺激によって修復象牙質が形成されることから、歯髄組織中には未分化間葉系細胞が存在し、状況に応じて象牙芽細胞に分化すると考えられている。我々は、歯髄細胞の性質を明らかにするため、DNAマイクロアレイを用いて歯髄細胞に発現する遺伝子を網羅的に解析し、軟骨細胞や骨芽細胞における遺伝子発現様式との比較から、歯髄細胞に特異的に発現する遺伝子を抽出した。その結果、歯髄細胞に特徴的に発現する遺伝子群を同定することができ、その中には細胞分化に深く関与することが示唆される遺伝子群が存在した。これら遺伝子の歯髄細胞における役割を検討する目的で、歯髄細胞初代培養系を用いて各遺伝子の発現変化を経時的に解析したところ、転写因子であるSp6とMsx2は培養経過に伴い発現が上昇し、細胞骨格タンパク質であるNestinと Transgelinの発現が低下していた。これらの遺伝子は、歯髄細胞の分化や機能発現を調節している可能性があり、今後、歯髄細胞の特性を明らかにする上で有用と考えられる。

高西 桂, 神奈川歯科大学, 5年生

噴霧式塩化亜鉛製剤の口臭抑制効果とその持続時間に関する研究

口腔内気体(以下、口気と称する)中の揮発性硫黄化合物濃度(以下、VSCと称する)を指標に、生理的口臭に対する消臭効果と消臭持続時間を噴霧式塩化亜鉛製剤を用いて二重盲検法、交差研究により検討した。起床時から飲食と口腔清掃を禁止した状態で口気中のVSCが検出される健康な成人男性8名を対象に H2S、CH3SH、(CH3)2Sの濃度を指標とした。1回噴霧量0.08ml の0.1%塩化亜鉛剤と偽剤を用い、噴霧前、噴霧直後、30分後、60分後、90分後、120分後において、呼気中のVSC濃度の変動を口臭測定器を用いて測定した。その結果、噴霧回数に関わらず、噴霧式塩化亜鉛製剤噴霧直後にVSC濃度は顕著に減少した。しかし、噴霧後30分後にはVSC濃度は上昇した。また、VSCのうちH2SとCH3SHを認知閾値以下に120分間確実に抑制させるためには7回の噴霧回数が必要であった。噴霧式塩化亜鉛製剤が優れた口臭抑制効果をもつことを示していると共に口臭抑制効果を2時間持続させる場合、最低7回以上の噴霧が必要であることが判明した。

竹山 旭, 大阪歯科大学, 4年生

タービン用グリップの開発

歯科医師は歯科治療において、大きな労力を使う。人間工学的に設計された器具を適切に把持することが、過剰な筋肉の負担を和らげることができうると考えられる。タービンにグリップを装着することによって、手の筋肉の疲労を減らし、使いやすくなるかどうかを評価することを目的とした。グリップは4種類を作製した。それぞれの断面は、小さい丸、大きい丸、三角、六角である。被験者には、固定した練習板をグリップ付きタービンで切削してもらった。終了後、アンケートを行った。さらに筋電図測定のため、被験者にはファントムに装着した模型を切削してもらった。使用感では、グリップの種類を問わずグリップを装着することで使いやすいと感じた人は全体の約90%を占めた。持ちやすさについては、グリップを付けたタービンの方が持ちやすい・握りやすいと感じた人は 87%であった。また滑りやすさについては、滑りにくいと感じた人は81%であった。丸グリップはグリップ非装着時に比べて筋電図測定値が約40%減少した。今回の結果より、適切な形、大きさ、感触のグリップは、作業の効率化にもつながり、筋骨格系障害を防ぐことができるのではないかと考える。

千原 隆弘, 松本歯科大学, 3年生

高血圧治療薬により生じた歯肉肥大の漢方薬薬物療法

高血圧治療薬のカルシウム(Ca)拮抗薬は副作用として歯肉肥大を起こす。今回はin vivoで歯肉肥大に対する漢方薬の治療効果について調べることを目的とした。
材料には24匹のWistar系雄性ラットを用いた。それらの半数(12匹)は事前にCa拮抗薬nifedipineの投与により歯肉肥大を生じさせておいた。更にその半数(6匹)はnifedipine投与を続け、残りはnifedipineに加えて漢方薬として柴苓湯を投与した。下顎切歯(以下、切歯と略す)および頬側歯肉を含む上顎左側第一大臼歯(以下臼歯と略す)を写真撮影し、それぞれ間隔および幅を測定した。組織病理学的検索にはHE染色およびアザン染色を用いた。
nifedipine群とnifedipine+柴苓湯群とを比較したところ、柴苓湯の添加により切歯間隔は6週以降で、臼歯幅は8週で有意に減少した。両群の上顎左側第一大臼歯頬側歯肉の病理組織像を比較した。nifedipine群で観察されたコラーゲン線維の増生、線維芽細胞の増殖、毛細血管の増加と拡張が柴苓湯の添加により抑制された。
柴苓湯投与はCa拮抗薬による歯肉肥大の臨床的治療に有効と思われる。

辻 千晶, 日本大学松戸歯学部, 5年生

口臭による歯周病の早期発見

本研究では、硫化水素、硫黄系、アンモニア系、有機酸系、アミン系、アルデヒド系、エステル系、芳香族系、炭化水素系の9種類のガスの臭気成分を分離検出できるにおい識別装置を用いて、歯周病患者の口臭検査を行い、歯周病早期発見への口臭検査の有用性を検討した。
歯周病患者と健常者の呼気を300ml採取し、におい識別装置を用いて9種類の基準ガス成分に対する口臭の臭気濃度および臭気指数を測定した。
歯周病患者から採取した口臭は9種類のにおい成分に分離され、硫黄系とアンモニアを除いた7種類のにおい成分の臭気濃度は健常者から採取した口臭と比較して高い値を示した。硫化水素、硫黄系、アンモニア系、有機酸系成分の臭気は歯周病原菌によるアミノ酸の分解産物であり、今回用いたにおい識別装置においても硫化水素および有機酸の臭気濃度の上昇がみられた。他の5種類のにおいの成分についても臭気濃度の上昇が認められ、簡易型臭気測定器を用いた揮発性硫黄化合物の臭気濃度だけでは、歯周病患者のにおいの成分を評価できないことが判明した。
以上の結果より、におい識別装置法は歯周病患者の早期発見に有用な手法であると考えられる。

常松 貴明, 広島大学歯学部, 5年生

転写因子Runx3は口腔癌の悪性度診断に重要である

近年、口腔癌は世界的に増加傾向にあり、世界では年間50万人の患者が発生し、全体の癌で5番目に高い癌である。口腔癌の早期発見・早期治療は、外科的侵襲を少なくし、患者さんのQOLを考える上で、非常に重要な課題となりうる。本研究で着目するRunx3は、Runt domain を有する転写因子で、胃癌において癌抑制遺伝子として働く一方、皮膚の基底細胞癌においては過剰発現することが報告されている。我々は、口腔癌における Runx3の発現とその意義について調べ、診断への応用について検討した。口腔癌細胞株や癌症例において、Runx3の過剰発現が高頻度に認められ、その発現は分化度や転移とよく相関していた。Runx3の発現の低い癌細胞にRunx3遺伝子を導入し、過剰発現させたところ、増殖能が亢進した。さらに、 Runx3の発現の高い癌細胞にRunx3 siRNAを導入し、その発現を低下させたところ、増殖能の低下がみられた。以上の結果から、口腔癌におけるRunx3の過剰発現は、細胞の増殖を亢進することにより、癌の進展に関わることが明らかとなり、Runx3の発現の検索は口腔癌の悪性度診断に有用であることが示唆された。

長野 祥子, 長崎大学歯学部, 4年生

新しく開発した睡眠時無呼吸症のための上下分離型口腔内装置

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、散発するいびきや無呼吸、低呼吸が特徴的な症状で、日中の傾眠や集中力の欠如、また不整脈等の生活習慣病との合併症を起こしやすく、まれには死に至る可能性も指摘されている。多くの保存的、外科的治療法があるが、近年閉塞性睡眠時無呼吸症(OSAS)治療の歯科的アプローチとして、スリープスプリントと呼ばれる口腔内治療装置が報告されている。これは顎を前方に誘導する主に上下顎一体型の装置であり、大きな治療効果があることが確認されているが、過度な装着感や下顎を咬頭嵌合位より前下方の非生理的な位置で固定されることによる顎関節への負担や嚥下、口呼吸障害等も指摘されている。これらの問題点を改善すべく、今回私は、上下顎分離型の新しい口腔内装置を開発した。これは開口時、安静睡眠時、いびき時の下顎の位置に違いがあると想定し、睡眠中にある程度の開口は出来るものの更なる開口を防ぐ、つまり安静時、開口時の下顎位より更に後退したいびき時の下顎位に変位するのを防止し、上気道の確保によりOSASを治療する装置である。

野澤 恩美, 新潟大学歯学部, 5年生

歯科用ユニットの汚染調査~治療環境は清潔に保たれているのだろうか?~

歯科医療の現場で頻繁に使用されるエアータービンなどによって、広範囲にミストが飛散することが知られている。私たちは今行っているユニット清掃で本当に汚染が除去できているのかどうかを疑問に思い、歯科治療の際に汚れる可能性のある歯科用ユニットとその周辺が、1日の外来診療の結果どの程度汚染しているかを調べた。各部位の細菌を生理食塩水で湿らせた滅菌綿棒を用いて採取し好気培養したところ、調査したすべての場所で細菌が検出され、特にテーブル、スピットン、ヘッドレスト、ユニット周囲の壁、キャビネットの上に多かった。さらに術者の着衣などからは診療後多くの細菌が検出され、特に帽子に付着する菌は多かった。また、一部からはカビも検出された。一方患者様が歯科治療環境の衛生に対してどのように感じているかをアンケートにより調査したところ、衛生面に懸念を持つ患者様はいらっしゃらなかった。現状でも危機的な状況であるとは言えないが、私達が実験時に80%アルコールで清拭したところ、検出される細菌は激減したことから、今後は患者様の信頼に応えるためにも、診療時のより丁寧な清拭を心がける必要があると思われる。

樋口 はる香, 東京歯科大学, 5年生

口腔乾燥症モデルマウスにおけるストレス適応酵素とチャネルの発現~唾液腺細胞の機能回復の手がかりを求めて~

唾液は口腔組織の保護、咀嚼・嚥下機能の補助、食物の消化準備や会話などにも役立っており、口腔の健康だけでなく、全身の健康にも寄与している。そのため、様々な原因によって唾液が減少する口腔乾燥症では口腔内症状だけでなく全身状態にも影響を及ぼし、患者のQOL低下を導く。本研究では、口腔乾燥症のいくつかの原因に共通するストレスに応答して細胞を保護するAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)とそのAMPKによって機能が調節されている唾液産生に関与するチャネルタンパク、CFTRとENaCに注目した。今回はX線照射により作製された口腔乾燥症モデルマウスを用い、AMPK、CFTRと ENaCの発現の関連性を明らかにし、機構回復への手がかりを得る一助とすることを目的とした。X線照射により顎下腺ではAMPKのmRNA発現上昇とリン酸化によるその活性化が認められ、AMPKが防護的な機能を持つことが示唆された。またENaCの全てのサブユニットの発現上昇も観察された。今後、 AMPKを介したチャネル機能の調節についてタンパクレベルで検討し、唾液分泌機能の調節維持との関係性を明らかにする必要がある。

深代 真以, 日本歯科大学 生命歯学部, 5年生

前処理手順がオールインワン接着システムの初期象牙質接着強さに及ぼす影響

レジン接着システムの適切な前処理は、より良い接着修復を得るために必要である。本研究の目的は前処理手順がオールインワン接着システムの初期象牙質接着強さに及ぼす影響を検討したものである。システムとして市販オールインワン接着システム一種を用いた。ヒト抜去健全大臼歯40本を水平断した象牙質を被着体とし、製造者指示書に基づく前処理法(P1;湿った象牙質面に5秒間ボンディング材を擦りながら塗布し10秒間放置後、再度5秒間擦りながら塗布を行い、微風乾燥)と一部条件を変えた7種前処理法(P2~8)、計8つの異なる手順を行った。接着強さを小型接着試験器にて測定(n=5)を行い、破断面破壊形態を観察した。P5(完全乾燥した象牙質に、P1と同様の前処理)の接着強さは他の7種前処理手順と比べ有意(p<0.01)に大きい値を示したが、その他の7種前処理間の接着強さ値は同等の値を示した。破断面は、界面破壊とボンディング材あるいはレジンでの凝集破壊からなる混合破壊を示したものの、その比率は処理法により異なった。乾燥させた象牙質面に製造者指示書の前処理手順を行うことは接着強さの向上に効果的であった。

山田 由加里, 徳島大学歯学部, 4年生

歯周炎治療のための局所投与型新規抗炎症剤の開発・ 歯小嚢細胞に対するピロリジンジチオカルバメイトアンモニウム塩(APDC)の影響 ・

歯周炎は主に歯肉溝や歯周ポケット中の歯周病原菌が原因で起こる炎症である。歯周病原菌由来のLPS刺激によりマクロファージや歯肉線維芽細胞が活性化され、インターロイキン-1(IL-1)などの炎症性サイトカイン、プロスタグランジンE2、間質コラゲナーゼなどが産生され、歯周組織破壊が起こる。 IL-1βは線維芽細胞にある受容体に結合し、そのシグナルが細胞内へ伝達されNF-κBを活性化する。NF-κBは、炎症反応において誘導される多くの遺伝子の発現に関わる転写因子である。歯周炎に対する薬物療法は、スケーリングなどの効果促進補助と急性症状の緩和のため、抗菌・静菌剤の局所投与か、沈痛・抗炎症薬の全身投与が主流である。そこで、局所でのシグナル伝達系をブロックすることにより炎症反応を抑える、局所投与型の新規抗炎症薬の可能性を模索した。今回、歯周組織の原基であるヒト歯小嚢由来の線維芽細胞にIL-1βを作用させて炎症を誘導し、NF-κB阻害剤であるAPDCによる抗炎症作用がみられるか検討した。その結果、ヒト歯小嚢由来の線維芽細胞においてIL-1βで誘導される炎症反応は APDCにより抑制される可能性が示唆された。

横石 智哉, 日本歯科大学 新潟生命歯学部, 4年生

禁煙補助器具の開発~喫煙の悪影響可視化による禁煙モチベーション強化法~

本学では積極的に禁煙推進運動を行っている。これらの一環として、今年度より敷地内全面禁煙が始まったが、いまだ喫煙者は多い。今回我々は喫煙の口腔内への着色を短期間で明視化できる装置を作製し、喫煙の害を視覚的に認識させることを目的に研究を行った。喫煙者にクリアレジンが貼付されたマウスピースを喫煙時のみ装着させた。一週間後、色彩計を用いたL*a*b*法で汚染度を測定した。また、被験者及び無作為に抽出した学生を対象に、使用後の実験装置を用いたアンケート調査を実施した。結果、レジン部分の汚染度は、照度で見た場合、有意に汚染されていることが客観的に確かめられた。アンケートでは、全回答者の91.3%が使用後のマウスピースを汚いと回答した。また、喫煙者の70.4%が喫煙の継続を否定し、非喫煙者の総てが今後の喫煙の可能性を否定した。
実験結果より、短期間で視覚的に喫煙の悪影響を提示することは、禁煙モチベーション強化に繋がることがわかった。現在日本では、様々な禁煙活動が行なわれている。我々は、口腔内の専門家としての知識と技術を活かした禁煙支援活動を行うべきだと考えている。

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