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第15回大会

2009 年 8 月 26 日

第15回大会 2009年(平成21年)8月26日 参加校22校
タイトルおよび発表内容要旨 (入賞者を除き発表者氏名50音順)
※氏名・所属・学年は発表当時

優勝:梶 佳織, 日本大学歯学部, 5年生

撤去容易な熱膨張性矯正用ブラケット接着材の開発

矯正用接着材は、咀嚼や矯正力に耐えうる十分な接着強さを持つと同時に、疼痛やエナメル質の亀裂を起こさないよう容易に撤去できる接着強さの両面が必要とされる。そこで、80℃の加熱によって約70倍に膨張するマイクロカプセルを混入した撤去容易な接着材(EDA)を開発し、これを用いてブラケットを接着し撤去時に加熱することで、マイクロカプセルが膨張してEDAを破壊し、疼痛やエナメル質の亀裂を起こすことなく撤去できると考えた。また、加熱による歯髄腔壁の温度上昇を測定し、歯髄障害を起こさない条件を検討した。
EDAを用いてセラミックブラケットを牛歯歯面に接着し、ブラケット上面からヒーターで8、10、12秒間加熱した後、せん断接着強さを計測した。また、加熱時の歯髄腔壁の温度上昇を評価した。その結果、EDAの加熱による接着強さは、非加熱の接着強さと比較し30?40%に減少したことが示され、ブラケットの加熱による歯髄腔壁の温度上昇は、報告されている歯髄障害を誘発する温度より小さかった。したがって、EDAは疼痛やエナメル質の亀裂を起こすことなくブラケットを容易に撤去できる、優れた矯正接着材であることが示唆された。

準優勝:高本 愛子, 東京歯科大学, 5年生

コスメティックアドバイスにおける肌の色診断システムの口腔粘膜疾患診断への応用

口腔粘膜疾患を発見・診断するにあたり、粘膜の「色の変化」は最も大切な診査項目である。しかし、人間の脳は色の情報を正確な再現性をもって記憶することができない。歯科補綴や審美歯科では、色の規準としてシェードガイドが使われているが、口腔粘膜の色については規格化されたゲージも存在せず、歯科医師の主観的な記憶に頼っているのが現状である。口腔粘膜病変の色の変化を診断の一助とするためには、色を数値化して比較する必要がある。
化粧品売り場のカウンターに、肌の色を計測するための分光測色計という機械が置かれていることがある。この装置を口腔粘膜にも使うことができることができれば、口腔粘膜の色をデジタル化して記録し、診断の基準とすることができると考えた。
そこで白板症患者の口腔粘膜の病変と健常部位について分光測色計を用い色の計測を行い、色の変化を分析した。
その結果、白板症の病変部位の測定結果では白さが増していること、赤みが減少していることが記録できることが示された。
分光測色計による口腔粘膜疾患の色の測定を行うことによって、口腔粘膜疾患の色を数値化して比較し、診断の一助とすることができることが分かった。

第三位:青木 美空, 北海道医療大学歯学部, 5年生

Terpinen-4-ol配合殺菌性根管充填用シーラーの開発

歯内治療において根管充填後の再感染は避けなければならない重要な問題である。再感染の主な原因は残存細菌であるが、根管内細菌の完全除去は必ずしも容易ではなく、再発の症例も認められる。そこで私たちは細菌感染による再発を防ぐ為に、生体細胞に対する為害性が少なく優れた殺菌作用を有するterpinen-4-ol(以下、T4と略す)を添加した”T4シーラー”の開発を試みた。
はじめにT4の添加量を操作性と圧縮試験の結果から決定し、その後、標準口腔細菌と実際の感染根管内から採取した滲出液中の細菌に対する殺菌効果を検討した。また、色素浸透試験により根管封鎖性を検証した。
その結果、7.5%T4シーラーは既存のシーラーと同程度に優れた硬化性と封鎖性を示す一方、感染根管内の種々の細菌に著しい殺菌効果を有することが明らかとなった。更に、本シーラーからの溶出液がヒト歯肉線維芽細胞増殖活性を抑制しないという結果から、生体親和性が高いということが示唆された。
以上の結果から、今回私たちが開発した”T4シーラー”の使用により、根管充填後の残留細菌による感染を防ぐことが可能となり、再発のリスクを大幅に軽減すると期待できる。

石井 裕明, 鹿児島大学歯学部, 6年生

微小せん断試験法によるチタンと陶材の接着強さの測定

表面処理チタンと陶材との接着強さを微小せん断強さにより評価し、ISO9693のDebonding/crack-initiation strengthと比較検討した。純チタン(幅5mm、長さ20mm、厚さ1mm)を①ダイヤモンド研磨紙#1000にて機械研磨したもの、②70μmアルミナ粉でサンドブラスト処理したもの、③48%硫酸水溶液に60℃で1時間浸漬し酸処理したもの、また① ② ③の処理後、各々を600℃で10分間真空焼成したもの6種表面処理した純チタンを基板として用いた。チタン用陶材を焼付け、寸法調製した後、5×3×1mmの微小せん断試験用の試料をダイヤモンドカッターにて切断した。各グループ24-28個作製し、そのうち半数を1万回の冷熱サイクル試験(5℃および55℃の水中に各1分間浸漬)を行った。試料は引張圧縮試験機と専用ジグを用い、せん断試験を行った。微小せん断強さはDebonding/crack-initiation strengthよりも小さい絶対値を示したが、冷熱サイクル試験後の結合強さの低下が観測されており、また、表面処理の影響も有意差が生じていた。Debonding/crack-initiation strengthでは、これらの有意差は認められなかった。試料作製の容易さも考慮すると、微小せん断試験法は歯科用陶材と金属との接着強さの測定方法として有用であると結論づけられた。

泉井 秀介, 大阪大学歯学部, 4年生

ターメリックがStreptococcus mutansに及ぼす増殖阻害効果の検討

カレーに含まれるターメリックは、古くから健康増進に寄与することが知られている。カレーを多く食するインド共和国では、東南アジア地域で最もう蝕の発生率が低い。そこで、ターメリックがう蝕原性細菌Streptococcus mutansに及ぼす影響を検索した。まず、ターメリックがS. mutansの増殖能に及ぼす影響を調べるため、ターメリックと菌液を混和した後に寒天培地に播種し、菌数の変化を測定した。その結果、S. mutansの生育菌数が、ターメリックの添加濃度に依存して低下することが示された。次に、S. mutansをターメリックと糖を添加したpH指示薬入りの基礎培地で培養したところ、ターメリック添加群では、培地のpH変化が起こらず、S. mutansの酸産生能の低下が示唆された。さらに、ターメリック添加時のS. mutansのバイオフィルム形態を走査型電子顕微鏡で観察した結果、バイオフィルムからS. mutansが除去され、バイオフィルムが減少することが明らかになった。本研究から、ターメリックはS. mutans菌の増殖、酸産生能、並びにバイオフィルム形成を抑制することが示された。

岩井 郁, 東京医科歯科大学歯学部, 4年生

歯科におけるステークホルダーの卒前歯学教育に対する考え~大学教員と開業医~

臨床現場や文献より「近年の歯科大学・歯学部卒業生の臨床における力量不足」を危惧する声がある。本研究では、開業医や大学教員が、臨床の「どの領域」で「どの程度」卒業生の力量が不足していると思っているかを調査した。歯科医師で35歳以上の者を対象とし、2009年6月に質問票調査を行った。某歯科大学「臨床系教員」、「基礎系教員」および「診療所の開設者・勤務者」に対して、開業時の歯科医師の力量を100%と設定し、卒直後歯科医師の力量、充実すべき教育内容、ステークホルダーの意見交換等を調査した。その結果、大学教員と開設者・勤務者の両群において、「理想とする力量」と「現実に感じている力量」の間に有意差が認められた。カリキュラムを考える際に、意見を参考とすべき集団として「学生」、「卒直後の歯科医師」、「教員」の他に、「開業医」、「臨床研修施設」、「歯科医師会」等の大学外の場にいる歯科医師や、「患者」、「国民」、「行政」等が挙げられた。この結果より、卒直後歯科医師の力量不足を改善するために、今後、より多くの歯科におけるステークホルダーからの意見聴取の必要性が感じられた。

奥井 元貴, 朝日大学歯学部, 5年生

交流インピーダンス測定によるニッケルチタンファイルの疲労寿命の予測

根管内でのニッケルチタン製根管口拡大装置の疲労破壊を防止するためには、疲労寿命を予測できる客観的な評価基準が必要である。そこで本研究では、ニッケルチタン製ファイルの疲労寿命分布に与える次亜塩素酸ナトリウムの影響を明らかにすること、このファイルの疲労寿命と交流インピーダンスとの関係を明らかにすることを目的とした。♯25、テーパ0.06、長さ25㎜のニッケルチタン製ファイルに試作疲労試験機を用いて回転曲げ疲労を負荷した。60本のファイルをランダムに3つのグループに分け、コントロールグループはシリコンオイル中での疲労寿命を測定した。第二のグループは腐食性環境として6%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた。最後のグループは、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中での疲労試験を中断し、LCRメータを用いてその交流インピーダンスを測定した。
ワイブル統計解析の結果、次亜塩素酸ナトリウムは寿命の短い領域に属するニッケルチタン製ファイルの寿命をさらに低下させることが分かった。また平均寿命のおよそ60%に相当する2,250回の繰り返し負荷を与えると、ニッケルチタン製ファイルの交流インピーダンスは有意に低下した。

金桝 太郎, 神奈川歯科大学, 4年生

家庭犬由来歯周病原細菌の病原性状に関する研究

近年、ペットとして飼われている動物における歯周病が問題視されており、その発症過程や病態はヒトの歯周病と同じであることが知られている。ヒトではPorphyromonas gingivalisが重要な歯周病原細菌であると考えられており、同様にイヌやネコからも近縁なPorphyromonas属細菌が分離されるが、その病原性状についての報告は少ない。本研究では、5匹の家庭犬からPCR法および培養法でPorphyromonas属細菌の検出を行い、分離した菌株について病原性状を検討した。
5匹のイヌのうち4匹から9株の黒色色素産生グラム陰性桿菌が分離された。各菌株をrapid ID32A systemを用いて菌種の同定を行った結果、2匹のイヌから分離された5菌株がP. gulaeの性状と一致し、PCR法でも同サンプルからP. gulaeが検出された。また、1匹から分離された2菌株はP. gingivalisであると同定された。P. endodontalisであると同定された菌株以外の全ての株は、明らかな血球凝集能とトリプシン様酵素活性を有していた。分離菌株はP. gingivalisと同様にグラム陽性の口腔常在菌種との共凝集活性が認められた。また、電子顕微鏡観察からこれらの菌株は線毛構造を有しており、ヒト歯肉上皮細胞への付着性が認められた。
以上の結果から、家庭犬由来細菌は歯周病を誘発する種々の因子を有することが示された。

坂野 仁美, 北海道大学歯学部, 6年生

腫瘍血管内皮細胞におけるHeterogeneityについて

腫瘍が生物学的特性の異なる種々のがん細胞から構成されていること、すなわちがん細胞のheterogeneity(多様性)は、抗がん剤に対する薬剤抵抗性獲得の機序の1つとして考えられてきた。しかし、腫瘍を栄養とする血管、それを構成する血管内皮細胞のheterogeneityに関する報告は少ない。本研究では、腫瘍血管内皮細胞におけるheterogeneityの有無について検討した。正常皮膚由来血管内皮細胞、高転移性メラノーマ由来血管内皮細胞及びそのクローン細胞(クローンA、クローンB)を用い、遺伝子発現パターン、飢餓状態における生存能、そしてFluorouracilとPacritaxelに対する薬剤感受性について解析した。
その結果、遺伝子発現パターンや飢餓状態における生存能においてはクローン間で差を認めたが、薬剤感受性については差を認めなかった。従って、腫瘍血管内皮細胞においてもheterogeneityが存在する可能性が示唆された。

鳥居 麻菜, 鶴見大学歯学部, 4年生

Honeyの口腔内環境改善機能について

Honeyは昔から食品として世界中で親しまれてきただけでなく、ヨーロッパやニュージーランドでは外傷や火傷の治療にも用いられてきた。
Honeyの種類は原料となる花で分類され、色や味や香りが異なるが、特性の違いはあまり明らかになっていない。近年の健康ブームでHoneyの抗菌性や様々な効能に注目が集まっているが、口腔内環境に与える影響についてはよく分かっていない。
そこでHoneyには口腔環境を改善する機能があるかを検証する基礎的実験を行った。
口腔病原性微生物に対する抗菌試験を行った結果、歯周病原因菌に対する顕著な殺菌作用があり、特にマヌカとソバHoneyに高い効果があった。また、病原性真菌であるカンジダに対する抑制効果は弱かったものの、齲蝕原因菌に対する抗菌性とバイオフィルム産生抑制効果がみられ、特にマヌカが高かった。一方、ROS産生抑制効果があり、特にマヌカ、ライム、ソバに高い効果があった。
以上の結果から、口腔病原性微生物を抑制して常在菌叢を改善し、粘膜傷害性活性酸素を抑えて粘膜を保護する可能性が示唆された。今後、これらのメリットを生かす食品形態の開発を行い口腔環境改善に役立てたい。

中島 慎太郎, 日本歯科大学生命歯学部, 5年生

ペットを通じた口腔衛生意識の向上 ‐動物の口腔内を視野に入れた歯科の新たな可能性‐

口腔内の健康にとって、定期的なメインテナンスは非常に重要である。しかし日本ではその意識は低く、自覚症状が出てから歯科を受診する場合が多い。 また、近年ペットの口腔疾患が増えているにも関わらず、動物の歯科医療は人間のものと比べると遅れており、十分な対応がなされていないのが現状である。
これらのことから、我々は飼い主にペットの口腔衛生の重要性を認識させることが、ペットの口腔衛生向上のみならず、飼い主自身の口腔衛生意識の向上に繋がるのではないかと考え、本研究を行った。
対象は飼い主とその飼い犬のペアとし、まず飼い主に、飼い犬に対する口腔衛生の知識を教授した。その後2週間、飼い主に犬の歯磨きを実施してもらい、その 前後で飼い主に対するアンケート調査を実施し、また飼い主のPCR(Plague Control Record)の評価、グラム染色によるプラーク内細菌叢の解析、さらに飼い犬のOHI(Oral Hygiene Index)の評価を行い、それらの関連を検索した。
結果、飼い主、飼い犬の口腔衛生状態の改善傾向が見られ、このことからペットの口腔衛生の重要性に関する認識が飼い主自身の口腔内清掃に対する意識をも高めることが示唆されたとともに、今後ペットを利用したヒトの口腔衛生教育プログラム立案へ応用する手がかりが得られた。

中村 勇貴, 明海大学歯学部, 2年生

学生生活における唾液アミノ酸濃度の日内変動

唾液中には、抗菌物質、消化酵素、免疫グロブリンなどの生理活性物質や、好中球などの免疫担当細胞などが存在する。これらに関する研究に比べて、唾液中のアミノ酸の生理的な役割に関する研究は遅れていた。毎日の学生生活における唾液中アミノ酸の動態を調べることにより、アミノ酸の生理的な役割が明らかになるのではないかという仮説を立てた。大学への登校から帰宅まで経時的に、発表者を含めた3名の学生の全唾液を、学内倫理委員会のガイドラインに従い採集した。唾液をトリクロロ酢酸で除タンパク質後に、上清中のアミノ酸を、アミノ酸分析機により定量した。唾液中では、抑制性アミノ酸のGlyと興奮性アミノ酸のGluが主要なアミノ酸であった。昼食を抜いたら、唾液中のアミノ酸濃度変化はほとんど観察されなかった。GABAは、定量限界以下(2.5nM以下)であった。
興奮性アミノ酸ならびに抑制性アミノ酸の変動に影響を及ぼす因子として、部活やテストに着目して検討する予定である。ストレス負荷後のアミノ酸濃度を測定することにより、精神状態を非侵襲的にモニターできる方法の開発につながるものと考えている。

西村 優美子, 岡山大学歯学部, 5年生

Lidocaineの細胞毒性作用:ラット胸腺細胞を用いるIn Vitroモデル実験

歯科医療で繁用される局所麻酔薬lidocaineの細胞毒性特性を明らかにする目的で、ラット胸腺細胞にフローサイトメーターと蛍光色素を適用して、lidocaineの細胞への影響を検討した。以前の実験で30mM以上の濃度ではアポトーシス様の形態変化を伴うネクローシスを起こすことを明らかにしているので、10mM以下の低濃度で実験を行った。Lidocaineの3-10mMは1時間処理で細胞内Ca2+及びZn2+濃度を有意に上昇させた。この上昇は細胞外液Ca2+及びZn2+除去でも観察された。よって、lidocaineは細胞膜Ca2+及びZn2+透過性亢進と細胞内Ca2+及びZn2+遊離を起こすことが示唆された。また、lidocaineの0.3-1mMは24時間処理で萎縮細胞(アポトーシス初期段階)の増加を伴う細胞致死率の上昇が観察された。実際、1mMではハイポディプロイドDNA細胞の増加が認められた。比較的安全と考えられるlidocaineであるが、安全な利用を確保する意味でも細胞レベルの多様な作用を留意する必要がある。

二本木 真由子, 日本大学松戸歯学部, 5年生

携帯型ゲーム機が利用できる口腔ケア体操メディア・ソフトの開発 – 高齢者の嚥下障害の予防を目指して –

「口腔機能の向上」において、特に要介護者では栄養摂取のための摂食・嚥下機能の確保や生命に関わる誤嚥性肺炎の予防などが課題となっている。気軽に始められ、安全かつ楽しみながら日々継続していくことをサポートするような「口腔機能の向上」サービスが求められていると考えられる。比較的リーズナブルで量販店で容易に購入できる携帯型ゲーム機を利用して、音声とともに動画を用いて情報を提供し口腔ケア体操を行うことで、利用者のモチベーションが高まると推察される。
そこで、5つの指示媒体をパソコンに表示し、被験者に順番で実施してもらい理解度を評価した。その結果,静止画よりも動画において達成度と理解度が高かった。そして、静止画や動画に関わらず文字あるいは音声の情報を加えることによって、達成度、発声の有無および理解度が高くなった。
このことから,動画に音声の情報を組み合わせることにより、提供する情報に対してより正確で誰しもが同じように理解し、実行できるということが分かった。よって、携帯型ゲーム機を用いて口腔ケア体操を行うことで口腔機能を向上させることの可能性が推察された。

根津 新, 日本歯科大学新潟生命歯学部, 3年生

形状記憶樹脂を毛先に用いた歯ブラシの開発

通常の歯ブラシに使用されているナイロン製の毛先では使用する毎に少しずつ拡がり、刷掃能力が低下する。そこで、毛先に形状記憶樹脂を使用することで常に適正な毛先の形状を保ち一定のブラッシング効果を得られるのではないかと考え、開発に至った。
実験にはまず、形状記憶樹脂(Shape Memory Polymer:SMP)とナイロン樹脂を用いた毛先と刷掃対象を作った。次に、刷掃試験機にこれらを設置し毛束の幅を測定した後、5,000回の刷掃試験を行い、1,000回ごとに毛束の広がりを測定した。最後に、SMPのみをお湯につけて形状の変化を記録した。ナイロン・形状記憶樹脂とも5回ずつ測定し、各群間の差をt検定(Student-T.test)にて検定した。
刷掃試験により、ナイロン、SMPともに毛先の変形をきたした。5,000回において、両群間に有意差を認めず、変化率はナイロン:126.9±13.0%、SMP:117.7±9.9%であった。5,000回刷掃後のナイロンと加熱後のSMP124.5±12.7%を比較するとナイロンよりもSMPは変化率が僅かに小さいが、有意差は認められず両者に差は無い。加熱前後のSMPは差があるように見えるが、検定により有意差は無いことが分かった。

平原 三貴子, 新潟大学歯学部, 4年生

ミリカプセルを使用した咀嚼能率測定法の開発

現在、咀嚼能力を判定するために様々な検査方法が使用されている。しかし、方法論的にある程度確立されている篩分法をはじめ、多くの検査方法は、結果を出すまでに長時間を要したり、特別な機械が必要であったりするなど決して簡便とは言えず、それ故その汎用性には疑問が残る。そこで今回、ミリカプセルを混ぜたガムを咀嚼し、破壊されたカプセル数をカウントすることによって咀嚼能率を測定する方法を考案した。
カプセルを50個混和したチューインガムを20回咀嚼した後、50mlチューブ中80℃に加熱したガム溶かし液に入れ、約30秒攪拌してシャーレに広げて、色の着いたカプセルを数えた。この測定方法に要する時間は数分で、既存のいずれの咀嚼能率測定法より簡便である。よって、この方法では短時間かつ簡便に結果を出すことができるため、患者様に測定結果がすぐに提示できるばかりではなく、その汎用性故に多くの客観的なデータを蓄積することが可能となる。結果の信頼性に関する今後の更なる検討は必要であるが、非常に有効な測定法であると考えられる。

武内 勝章, 広島大学歯学部, 6年生

転写調節因子Sar family による表皮剥脱毒素の発現調節の解析

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は院内感染原因菌の一つとして広く知られており、食中毒、肺炎、髄膜炎、敗血症など様々な疾病を引き起こす。表皮剥脱毒素(Exfoliative toxin:ET)は新生児や小児に発症するとびひ(伝染性膿痂疹)や、とびひの重症型であるブドウ球菌性熱傷皮膚症候群(SSSS)の水疱形成の原因毒素である。S. aureusの病原因子はStaphylococcal accessory regulator (Sar) familyのようなグローバルレギュレーターによって協調的にコントロールされていることが知られている。
そこで私はET産生の制御メカニズムを解明するために、ETの血清型の1つETAに着目し、ETA産生量と転写調節因子であるSar family(sarS, sarAおよびsarR)との関連性を解析した。遺伝子欠損株を用いたin vitroでの実験や新生児マウスモデルを用いたin vivoでの実験結果よりsarSおよびsarA欠損株ではETAの産生量およびeta遺伝子の発現量が増加した。さらに、新生児マウスモデルにてsarS欠損株では表皮剥脱活性が亢進した。
以上の結果、我々はsarSおよびsarAがETAの産生を抑制する転写調節因子であることを明らかにした。

船登 咲映, 昭和大学歯学部, 4年生

骨芽細胞分化に関与する遺伝子の同定

BMPs(Bone Morphogenetic Proteins)は生体内において、骨形成を中心とした高次機能を制御しているタンパク質ファミリーの一つである。中でも、強力な骨誘導活性を有する BMP-2は、筋芽細胞株C2C12細胞の筋管細胞への分化を抑制し、骨芽細胞への分化を誘導する。我々は、BMP-2による骨芽細胞分化誘導に関与する 遺伝子を同定するために、BMP-2で処理したC2C12細胞内で発現する遺伝子の網羅的解析を行った。種々の遺伝子の発現様式に変化がある中で、 BMP-2により発現が誘導される4つの遺伝子、CXCL14、Grb14、SCG10、 Rab27bに着目した。BMP-2を介する細胞内シグナル伝達の中心的役割を果たしている分子に、Smadファミリータンパク質、中でもSmad1/5 /8(特異型Smad)とSmad4(共有型Smad)が存在する。BMP-2による発現誘導が、Smadシグナルを介して行われていることを確かめるた めに、Smad4 siRNAを用いSmad4遺伝子の発現をノックダウンした際、上記4つの遺伝子の発現様式を検討した。その結果、BMP-2による発現誘導はSmad4 siRNAにより抑制された。
以上の結果から、BMP-2により誘導されたCXCL14、Grb14、SCG10、Rab27bはSmadシグナルを介し行われていることが示唆された。BMP-2によるこれら遺伝子の発現誘導が、骨芽細胞の分化にどのような作用を与えるか、今後の検討課題である。

堀江 哲, 岩手医科大学歯学部, 5年生

マウスガードでサーブスピードはアップするか?

テニスクラブに所属する歯科学生の一人として、テニスの運動能力と歯科との関連性に強い興味があり、歯科からの何らかのアプローチによってその能力向上の可能性を探った。研究計画としては、テニスの運動能力の一つであるサーブスピードに注目し、マウスガードによる咬合の変化がそのスピードのアップにつながるか、またそのスピードと各個人の咬合力、咬合面積、さらに一般的な運動能力との間に相関性がみられるかを検討した。
その結果テニスクラブ部員14人中8人はマウスガードを装着することによってサーブスピードが増加したが、6人は減少した。同様に握力、背筋力も増加する者も減少する者もあり一定の傾向は認められなかった。咬合力や咬合面積もサーブスピードとの関連性は認められず、むしろ握力、背筋力との関連が示された。
ゴルフやバスケットボール、野球などで、マウスガードによる運動能力の向上が報告されており、咬合とスポーツにはなんらかの関連があるものと考えられ、今後もスポーツと歯学との間にある未知なる関係を追究して行きたい。

前田 大輔, 松本歯科大学, 4年生

食物繊維摂取による抗齲蝕効果の解析

食物繊維は古くから抗齲蝕作用があるとされてきたが、その効果を示した報告はない。本研究では、野菜に含まれる食物繊維の齲蝕原因菌の減少作用の解析を目的とする。
ラットを無作為にコントロール群、難消化性食物繊維(DDDF)群、温野菜(BV)群、生野菜(FV)群に分けた。各群には粉末高シュークロース食を与え、7日間Streptococcus mutansを1日1回摂取させた。その後14日間、高シュークロース食に加えて野菜を与えた。野菜摂取開始前および開始14日後に齲蝕活動性試験を行った。野菜摂取開始14日後に顎を採取して齲蝕検知液により染色された部分を齲蝕とした。
野菜摂取開始14日後の齲蝕活動性度はControl > DDDF > BV > FVの順に高く、同様に齲蝕も重症化した。
DDDFは可溶性食物繊維であり、歯垢の物理的除去はほとんどできなかったものと考えられる。また、FV群に比べ、BV群の齲蝕の方が重症であったのは、食物繊維が加熱されることによって一部分解されたために、歯垢除去効果が低下した可能性が考えられた。
食物繊維は歯垢を物理的に除去することにより抗齲蝕効果を示していると考えられる。

山田 哲也, 徳島大学歯学部, 4年生

バルプロ酸を用いた唾液腺癌に対する新規治療法の開発

唾液腺癌は放射線や抗癌剤に対する感受性が低く、遠隔転移も多いため、一般に予後不良である。バルプロ酸(Valproic acid)は、てんかんや躁うつ病などの治療薬として広く用いられている薬物である。最近、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害薬として機能することが報告され、乳癌や前立腺癌に対する抗腫瘍効果が報告されている。そこで、本研究では、組織型の類似する唾液腺癌に対してもバルプロ酸が抗腫瘍効果を示すのではないかと考え、バルプロ酸を用いた唾液腺癌に対する新規治療の可能性について検討した。
ヒト唾液腺癌細胞株を用い、バルプロ酸の細胞増殖に対する影響をin vitroで検討した。さらに、ヌードマウス背部皮下に移植した唾液腺腫瘍を用いて、VPAの増殖抑制効果をin vivoで検討した。バルプロ酸は唾液腺癌細胞に対して増殖抑制効果を示し、ヌードマウスに移植した唾液腺腫瘍はバルプロ酸投与により縮小した。そのメカニズムはp21およびp27を介したG1 arrestが関与していると考えられた。
以上から、バルプロ酸を用いた唾液腺癌に対する新規治療法の可能性が示唆された。

山村 真代, 九州歯科大学, 6年生

下顎孔伝達麻酔シミュレーションモデルの開発

下顎孔伝達麻酔は、今日の歯科臨床において行われる頻度の高い麻酔法の1つであるが、現在下顎孔伝達麻酔を練習できるシミュレーションモデルはなく、その技術を身につける機会は非常に少ない。下顎孔伝達麻酔は、翼突下顎隙に麻酔薬を満たす方法であるが、麻酔針を誤った部位に刺入すると顔面神経麻痺などを引き起こす危険性がある。
我々は、頭頸部の解剖学的知識、下顎孔伝達麻酔の術式や技術を習得し、歯学部学生や研修医が下顎孔伝達麻酔の練習可能なトレーニングモデルの作製を行った。人体の感触に近似できるように歯科材料等を用いて頭頸部の模型を作製し、麻酔針の刺入部位を確認するために、水センサーとタッチセンサーの2種類のセンサーを下顎骨に埋め込んだ。正しく刺入した場合、湿ったスポンジに対して水センサーが作動し、LEDが点灯し、一方深部に刺入した場合、タッチセンサーが作動し、ブザーが鳴るよう設計した。
このシミュレーションモデルによって、下顎孔伝達麻酔の刺入部位の確認が可能となった。このように我々が開発したシミュレーションモデルは、正確な下顎孔伝達麻酔の技能を獲得する上で非常に有用であることが示唆された。

食物繊維摂取による抗齲蝕効果の解析
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